この作品集は『赤死病』という短編と細菌兵器に関する作品『比類なき侵略』・社会主義的な思想に基づく『人間の漂流』の三篇。
私は彼の冒険小説が大好きなので、意外な感じもしましたが、『赤死病』の中で体中が真っ赤になって、短ければ10分で死んでしまう異常な病により一気に人類の数は減り、かろうじて生き残った人々の子孫にかつてそのパンデミックを経験した老人が語る物語はやはりジャック・ロンドンだなぁと思いつつ読んでました。
『赤死病』 ジャック・ロンドン著
2073年、サンフランシスコ港の近く。
文明を知る唯一の生き残りである老人が、孫たちに「赤死病」によって人類がどうして滅んでいったか語る物語である『赤死病』
感染率は高く、そして感染した人間は顔や体が深紅となって死に至る。短い人だとわずか十分で……。
その病が発生したのが2013年。(凄いですよね、この重なり具合にびっくりしながら読んでました)
パンデミックを扱った本は何冊か読んでいますが、ロンドンらしく老人が語る物語には滅んでいった人類や文明の代わりに生き延びることができた人々がどのように生きてきたのかを、彼特有の文体で描いていきます。
文明を知らない若者たちにかつて大学で教鞭をとっていた老人が哀れと思いつつ、それでも彼が病にかからず生き延びたということを考えさせられる作品でした。(赤くなって、と言うところで男女逆転『大奥』の男性だけがかかる赤面疱瘡のことをおもったりもして)
他の2編である『比類なき侵略』では中国を巡る世界感の中で細菌兵器を扱った作品でした。実は彼がこうした作品を書いていたのは驚きでしたね。さすが白泉社のUブック!
もう一作は社会主義思想を書いた論文ですね。彼に持っているイメージを変えてくれる一冊でした。
そして、『赤死病』の老人が口癖のように呟く「はかなきもの、あわのごとくついえ去り」 という言葉のように簡単に消え去る世界になってほしくはないと思ったのです。