母を侮るなかれ「黒王妃」 | 風信子 

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 時はまさにルネサンス。イタリアから豪商の娘がフランスの皇太子の元へ嫁ぐ。

 最先端の文化を持つイタリアに対して、フランスはプライドだけが高い後進国。彼女がフランスにもたらしたのはフォークやナイフなどの食器。化粧品。香水。女性のランジェリー、スイーツ。現代フランスにもつながる食文化。

 だが、彼女が嫁いだ時、彼女は国民からも臣下からも店屋の娘と呼ばれ、結婚したばかりの夫には既に愛人がいた……。

 彼女の名はカトリーヌ・ドュ・メディシス。

 これは国の物語であり、家庭の物語である。

 

 「黒王妃」 佐藤賢一著

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 彼女の名前が出るときにはなからず、ノストラダムスの名前が出て、食器の話が出て、最後にサン・バルテルミの虐殺が出る。

 確かに彼女はメディチ家の人間で、メディチ家と言えば薬を扱っていて(これはまだ確定している説ではないようですが)、のちに銀行家として成功。数々の芸術家のパトロンでもあり、トスカーナ大公国の君主になった一族なんですが……。

 

 フランスも中華思想の持ち主なので、たとえ、それがローマ法王とのつながりがあっても、彼女はお店の人間でしかない。平民でしかない。

 そして取り立てて美人でもないし、愛人を持つ文化がある国では、愛人をすでに持っていることで彼女の女としての矜持が折られたとしても、夫は理解できない。

 

 カトリックでは離婚は認められませんし、(抜け道的な方法はありますし、そうして離婚した人が当時も多くいますが……)、今の感覚で感じてはいけないのでしょうが、見知らぬ国にお嫁に来た女の子には辛いだろうなぁと~。

 

 物語はすでに夫のアンリ二世はなくなり、後を継いだフランソワ二世の嫁であるメアリ・スチュアートがカトリーヌが占星術師を集め気味が悪というところから始まります。そこから、主教改革によるカトリックとプロテスタント(フランスではユグノー教徒ですね)との争いや、それに絡んだフランスの対応。辛抱強く周囲の耳を傾けるカトリーヌの姿がいい! まだまだおこちゃまな息子夫婦には任せられないというのも不幸かもしれないですね。

 

 そして、本筋の物語の流れとは別に、カトリーヌの独白が入るのですが、そこに本音が書いてあって面白かった。

 

 この新教徒と旧教徒との争いがあり、カトリーヌは共生の方法を選ぶのですが、彼女の子供たちの婚姻などにも絡んでいくさまが、辛い。フランソワ二世は早世し、メアリーはスコットランドへ戻されてしまい、フランソワ二世の弟でまだ9歳のシャルル9世が後を継ぐことになり、彼女が政治に加わっていくことになるのは仕方のないことだったのでしょう。

 

 旧教、新教、それぞれに言い分があり、後ろ盾に無視できない貴族や軍人が付いている。頭の痛いことだったと思います。

 

 ですが、己を律すことにたけていた彼女は自ら持つもので、それに対決していく。

 

 悪女と言われることが多い彼女ですが、それはおそらくカトリックに対立している新教徒たちから見た姿でしょうし、母から自立できない子供たちから見た姿でしょう。

 

 ですが、私はこうも思うのです。子供が親に勝つことは容易なことではないし、国を治めるものは己をしたことを呑み来ぬ覚悟が必要だと、だからこそ、自らの手で女性の味方を増やし、家庭と国を守るための戦う彼女は、まさにイタリアのマンマそのもの。(女傑好きなんです♪)

 

 母を侮るなかれ、そう思いながら亡くなった母を思い出していました。

 

 興味のある方は彼女の娘であるマルゴを描いた萩尾望都さんの「王妃マルゴ」などを読んでも面白いかもです。