落語の名作で「時そば」というのがございますが、
本日は「時そば」ならぬ、現代版「路上そば」一席お付き合いください。
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・・・と、ここから、落語風に語れればよいのですが、
残念ながら、普通の言葉でご勘弁ください。
私が入院している時のことです。
大量に出血したあとで、お腹はすくのですが、ものを噛む気力が無くなってしまい、何か喉越しの良いものなら何とか食べられるという時がありました。
麺類なら食べられそうだということで、木の花ファミリーのキッチンチームにリクエストしたところ、なんと手打ちのそばが病室に届けられました。
木の花ファミリーは84人の血縁を超えた大家族なのですが、それだけ人がいると、いろいろな特技をもった人がいるものです。
その一人“やじー”はそば職人。
毎日毎日、こんなにしてもらっていいのかしら、たまには乾麺を茹でたものだっていいのに、と思うくらい、毎日毎日手打ちのそばを病院に届けてくれるのです。
その時の私にとっては、食べるのも一仕事でした。なるべく出血しないようにベッドに寝たまま食べます。一人では食べられないので、介助してもらいながら食事をするのです。
そして、体力が落ちると、食べるという事自体に結構エネルギーがいるのですね。休み休み少しずつ助けてもらいながら食べるのです。
食事が体を作る、ということは分かっていたつもりでしたが、こういう状態をもらって、こんなに食べ物を嚙み締めたことは、今までありませんでした。
あぁ、この食べ物が私の一つ一つの細胞に変わっていく、血に変わっていくのだな、と思いながら噛み締めていました。
そのころは、まだ出血が止まっておらず、危ない状況ではありましたが、血液というものは大変貴重なもので、私のように入れても出てしまうのが分かっている人に輸血することは出来ないのだそうです。
それでも、断続的に出血が続き、最初に輸血したときの貧血値よりさらに下回る値が出てしまい、特別に560ccだけ輸血をしてもらいました。
けれど、その2日後、輸血した分全部出てしまいます。さらに翌日800ccの出血。
さすがに、自分でももうダメだと思いました。
眠って目が覚めるたびに「あぁ、生きているな」と思うのです。
もうこの後は輸血は出来ません。
残された手段は自分で血を造るしかない状況でした。
そして、本当に体が一生懸命血を造ってくれたのだと思うのです。でも、それは通常の造り方とは違う何かが働いたとしか思えません。もうダメだと何度家族が呼ばれたか。
人の体は、緊急事態になると、通常とは違う仕組みが働くそうです。今回、何がどう働いてくれたかは分かりませんが、体が総動員して血を造ってくれたのでしょう。
体がいつもと違う奇跡的な働きをしてくれたのには、いろいろな理由があったと思います。木の花ファミリーのみんなの想いであったり、体自身が持つ生命力であったり、病院の看護師さんたちの暖かい看護であったり・・・その一つが、毎日届けてくれた「そば」だったと思うのです。
ある日「今日は新そばだよ。」とそば職人やじーが、前掛けをかけ、服にはそば粉が付いたままの姿で病室に現れました。その年に収獲したそば粉を使って打った新そば。挽きたての粉が届いた翌日のことでした。いつもは他のファミリーのメンバーが届けてくれるのですが、この日はやじーが直々にやって来たのです。
病院の湯沸し室は使えないということで、「ちょっと待っててね。」と姿を消したやじー。
しばらくすると、助手としてやって来たさっちゃんが、茹でたてのそばを持って来てくれました。
車に大なべ、ザル、ガスコンロなどの道具を載せて来たそうです。病院の駐車場では、さすがに迷惑ということで、近くの路上でそばを茹でたとのこと。
実は、その話を聞いたファミリーのメンバーが、そんなことやめたほうがいいと止めようとしたそうですが、それより先に出発したやじー。きっと「新そばは茹でたてを食べてもらいたい」との強い思いからこんなことになったのでしょう。
いつもは寝たまま食べるのですが、その日ばかりはベッドを起こして食べました。
つやつやに光った茹でたてのそば。口にいれるとそばの香りがふわっとして、なんとも言えず美味しく、私の人生で一番美味しく感じたそばでした。
熱い思いの熱血漢やじーだからこそ、こんなことを思いついたのでしょう。
路上でそばを茹でている光景を想像すると、漫画になりそうで笑ってしまいます。
可笑しくて、有り難くて、泣き笑いしてしまいました。
そんな「そば」のお陰で、今こうして命が繋がって、生きています。
病室に来たみんなとこんな話をしました。
「そばがきょうこちゃんの中で生きているから!(笑)」
「つなぎが良かった!(笑)」
お後がよろしいようで。
そんな、私の命をつないでくれた「命を蘇らせる、本物のそば」。
是非一度味わってみて下さい!
詳しくは、木の花ファミリー「あうんの会」をご覧ください。
