息子は体外受精によって授かりました。受精した胚は2つあり、そのうちの1つが息子となり、もう1つは冷凍保存されました。


その後、妻はがんを患いましたが、希望を決して手放さず、毎年のように凍結胚の保存期間を延長し続けていました。妻の「もうひとりの命を思う気持ち」が強くあったからです。


しかし、妻が亡くなったことで私は大きな選択に直面しました。病院との同意書には「妻か夫どちらかが死亡した場合は破棄する」と記されており、先日も保存延長の案内が届きましたが、これ以上は続けられないと判断し、妻の死を病院に伝えました。 


 妻はカトリックでした。彼女にとって、凍結胚はただの細胞ではなく、すでに宿った命でした。そのため妻の家族からは代理母出産についても提案がありました。しかし日本では実現できず、海外で行うにしても莫大な費用がかかります。仮に子どもが生まれたとしても、私ひとりで育てることは難しい…そう考えると現実的ではありませんでした。せめて誰かに託すことはできないかと病院に問い合わせましたが、「寄付は行っていない」との返答でした。それでも病院で事務的に破棄されてしまうのはどうしても受け入れられず、自分で引き取ろうと決意しました。


このことを妻の家族に話すと、「Facebookで寄付先を探してみてはどうか」と提案されました。私はFacebookであるグループを見つけて参加し投稿したところ、アメリカ、カナダ、イタリアなどから複数の方が「ぜひ受け入れたい」と声をかけてくださいました。中には「日本人の見た目でも全く問題ありません。どうか託してください」と言ってくださる方もいて、心が揺さぶられました。


再び病院に相談し、「海外で希望している人がいるので協力できないか」とお願いしました。病院は学会や他の病院にも相談してくださったそうです。しかし最終的に寄付は出来ないという結論に至りました。学会の「倫理的な理由で寄付はできない」という規定があるからです。もし協力すれば病院自体が学会から除名されてしまうとのことでした。


結果として、寄付は叶いませんでした。それでも、私の思いを理解し、なんとか方法を探そうと尽力してくださった病院には心から感謝しています。


そして私は、凍結胚を自ら引き取りました。これから妻のお墓へ持っていくつもりです。


寄付が実現し、新しい家族のもとでその子が生まれ育っていく姿を想像すると、天国の妻がどれほど喜んでくれただろうかと思います。そう考えると胸が締めつけられるように残念でなりません。


それでも、この経験そのものが、妻と共にもう一つの命について考え続けた大切な時間でした。