上京後、家事に困ることもなく、仕事もすぐに決まり、生活は順調だった


しかし、多忙なマサトはどんどん不摂生になっていった

私の作る健康的な食事では満足できないと言い、リクエスト通りの料理を出し続けていたら、みるみる太り、小汚くなっていった


気づけば、異性としての魅力を感じられなくなっていた


そして、別れてから4、5カ月後

アキトから「元気?」とメールが届く


その一言で、私は無性に帰りたくなった


「最近どう?」

そんな他愛もないやり取りだったが、「まだ脈はあるのか」と期待してしまった


女性の恋は“上書き”だとよく言うが、本当にその通りだと思う


その1週間後

マサトが携帯を開いたまま眠っていた

気を遣って充電器に挿した瞬間、点灯した画面に表示されたのは、人妻との不倫予定のメール


私は、大手を振って地元に戻る理由を手に入れた


けれど、アキトと復縁したわけではない

なぜか「夏休みに友人としてバリ島へ旅行しよう」という話になった


友人だから、もちろん費用は割り勘

もともと奢ってもらう関係でもなかったので、そこに違和感はなかった


ただ、部屋は同じ


…何かあるかもしれない

そんな期待とは裏腹に、1泊目も2泊目も何も起こらなかった


初めてのバリは、とても楽しかった

オプショナルツアーも満喫し

バリの魅力を十分に味わったと思う


それでも、私は復縁を期待していた

同じ部屋で寝ているのに、甘い雰囲気が一切ない

3日目の朝食後、「楽しいけれど」と前置きして不満を伝えた


返ってきたのは、

「友人として来たから」という答え


「そうか…分かった」落胆しながらも

次の予定のため水着に着替えた


「お待たせ、プール行こうか」

そう声をかけた瞬間、ベッドに押し倒された


私の望んだとおりに

アキトは私を求めてくれた

私は、ずっと

好きな人に抱かれることは

この上もなく幸せなことだと思っていた


バリで楽しく過ごせた

あとは、身体を重ねさえすれば

元の恋人同士に戻れると


でも違った


していることは、同じなのに

抱かれたことで

アキトの心音なのか、体温なのか分からない

私の感覚でしかないのだが


もうあの頃には戻れないと

分かってしまった


その瞬間、

涙が溢れた


泣いている女に欲情する男は少数派だろうから、必死に隠した


その後プールに入ったものの、私は発熱

最終日に予約していた恋人同士向けのアーユルヴェーダのWエステも、花びらを浮かべたバスタブも、何ひとつ堪能できないまま帰国した


空港で別れるとき、

もうこの人に会うことはないだろうな、と思った