破天荒な人生を歩んだ型破りの天才

~畑正憲さんを偲ぶ~

ムツゴロウこと畑正憲さんの著書と出会ったのは、中学1年の時だったと思う。2週間に1回ペースで通っていた市立図書館でたまたま手に取った「ムツゴロウシリーズ」のエッセイに瞬く間にとりこになった。それまでの自分は、どちらかというと小説が好きで、図書館にあった江戸川乱歩の少年探偵団シリーズ、シャーロック・ホームズシリーズ、怪盗ルパンシリーズなどの推理もの、ジュール・ヴェルヌの「八十日間世界一周」「神秘の島」などのSF、天沢退二郎「光車よ、まわれ!」などのファンタジーを好んで読んでいた。

 

しかし、ムツゴロウシリーズで、エッセイの面白さに開眼。以来、北杜夫→遠藤周作→曽野綾子→吉行淳之介→村上春樹→椎名誠と、エッセイばかり読むようになり、特にこの数十年、小説は村上春樹しか読んだことがない(唯一の例外はグリコ・森永事件をテーマにした「罪の声」)。このような極端な読書遍歴になってしまったのは、多感な中学・高校時代に愛読した畑正憲さんの影響が大きい。ムツゴロウシリーズのエッセイが面白過ぎたのである。

 

とにかく、型破りな人である。幼年時代を旧満洲の豊かな自然と動物たちに囲まれて過ごした経験から、一人娘にもっと自然に触れさせたいと思い立ち、いきなり一家で北海道の無人島に移住してしまう。そして、そこでの日々を描いたムツゴロウシリーズのエッセイで、人気を博すようになる。

 

とにかく、ありのままの人である。何の気負いも、てらいもない。「ムツゴロウの青春記」「ムツゴロウの結婚記」「ムツゴロウの放浪記」では、子ども時代から中学・高校の同級生である奥様の純子さんとの交際、大学・院生時代、結婚、山谷暮らしなどの放浪の日々が赤裸々に詳細に語られている。極めて自然に、人間・畑正憲を全てさらけ出しているのだ。

 

基本、天才である(現役東大理Ⅱで、マスター)。さらに、驚異的な体力、精神力、集中力、持続力の持ち主で、今風にいうと、まさに「スタミナお化け」。ムツゴロウさんと言えば、「連日連夜の徹夜が得意」というイメージしかない。また、勝負事、中でも麻雀の強さは伝説的といって良いだろう。

 

「文化人」にありがちな文明批評や社会批評にあまり走ることなく、動物たちとの触れ合いなど、自身の実体験を常に書かれていたのも印象深い。誰にも真似できない、天才ムツゴロウならではの破天荒で、型破りな人生を送られたのではないか。

 

割に最近、おそらくこの一年ぐらいのことだと思うけど、ネットで長文のインタビュー記事を読んだ。ああ、まだお元気なんだなと、うれしく思っていたところだった。

 

2023年4月5日(水)死去。昭和10年(1935)生まれなので、享年87歳。一生を全うされたと思う。また昭和が、自分の子ども時代が、遠くにいってしまった。