(岩波文庫、2002年8月)。
著者サキャ・パンディタは13世紀のチベットの大学者にして大政治家(日本で言えば大雑把に鎌倉時代の人である)。様々な学問について百を超える著作があるという。その人の格言集の中からいくつか拾い上げて考えてみたい。
114
彼は味方、彼は敵と
智恵の劣った人は区別する。
智恵の大きな人は誰をも慈しむ。
誰が役立つかは分からないから。
……4行目が功利的な気もするが、そこが単なる学者ではなく、大政治家たる所以なのだろう。確かにこういうことはあると思う。それも日頃あるのではなく、就職とか結婚とか人生に何度もあるのではないライフイベントのようなときに、思わぬ人から手が差し伸べられたりする。
139
立派な人と劣った者の行いは
両者とも習慣の力に由来する。
蝶は花を探し
アヒルは水に入るけれど、教える必要があろうか。
……習慣の力が非常に大きなものであることは現代のビジネス本によく出て来る。13世紀にすでにそれを見抜き自覚していた点がすごい。サキャ自身、学者として、政治家として良い習慣を形づくっていたのであろう。
236
偉い人に師事すれば
劣った人でも偉くなる。
大木に依りかかった藤が
頂まで達するのを見よ。
……会社で出来る先輩の真似をする、投資を世界的な成功者の著書から学ぶ、自分の職業分野で傑出した人の伝記を読む等。現代は直接教えてもらえなくても、偉い人に師事するツールが沢山ある。
246
智恵があって勤勉なら
何が出来ないことがあろうか。
カウラヴァの十二師団を
パーンドゥ王の王子は破ったと聞く。
……智恵と勤勉、確かに大切です。
253
冨で苦しまない人がいようか
いつも幸せな人がいようか
幸せと苦しみはすべて
夏と冬のように変わる。
……「夏と冬のように変わる」、確かに。冬をどう過ごすかが大切になる。『易経』の智恵とか役に立ちそう。
300
努力をやめてしまった者は
この世でもあの世でも何もできない。
努力なしにはいい畑にも
作物は実らない。
……努力は大切だ。それも正しい方向の努力が。
400
どんなことでも
慣れれば難しくない。
工芸を習うように
正法も難なく成就できる。
……習うより慣れろというのは確かにある。
433
お前の仕事は終わったか、と
閻魔は待っていてはくれないから
すべきことがあったら
今日こそ励むべきだ。
……全くその通りだ。しかも年を取ると時間の流れるのが早くなる。そして心身の能力は落ちてくる。気力も少なくなってくる。