(アスペクト、2012年4月)。

 

著者は女性。家は浄土真宗の寺。父と母は大変仲良く、どうしたら浄土真宗の教えをより広められていくかをよく話し合っていた。著者は幼少期からそれを見て育ち、自分も将来お坊さんになろうと決めていた。

 

著者は大学卒業後、プロの音楽グループとして活動していた。ところが、父が「寺を出て行く」「離婚する」「家も出て行く」と言い出す。青天の霹靂である。理由は「ある方との縁にふれたためだった」。「人は縁にふれて何をしでかすかわからないー。毎日、仏法を聞いていた父でさえも人間でした。煩悩具足の凡夫です。それは、私も同じでしょう。」と著者は言う。

 

私は夫婦円満、報恩報謝の生活だったからこうなったのだと思う。善と悪は表裏一体である。生活全体が善だけになってしまったら、どこかで悪が爆発するしかない。それは子供の不登校となって現れるかもしれないし、犯罪かもしれなかった。この家庭の場合はたまたまそれが父に出た。

 

父が家出してくれたおかげで、他の人は助かったのだとも言えるのではないだろうか。善と悪の再統合には失敗した形ではあるが……。

 

著者は寺を継ぎ、僧侶らしい音楽活動もすることになる。自分の人生を無我夢中で生きる。その時見た夢が、自分の後を追いかけてくる四年前の自分であった。「ごめんね。弱い自分を置いて、ここまで来てしまった。強い自分でなければいけないと思って、あなたをいない者のようにして置いて来てしまった。ずっと無視してた」といって、抱きしめる。こちらは再統合に成功した事例である。

 

著者は、現代に生きる仏教を実践している一人であることは間違いない。これからもっと大きな活躍をしてほしいと願う。