7月18日午前0時、おんたけウルトラトレイル100KMがスタートした。
真夜中のスタート。
ヘッドランプをつけて走る。
熊よけの鈴があちらこちらで鳴り響く。多くの人達がリュックに鈴をつけているのだ。
僕はゆっくり走った。 先は長いのだ。疲れないようにゆっくりと走った。
自然と後方の方になるが、気にせず自分のペースを守った。
ハイドレーションには、エネルゲン2リットルを入れていた。走りながらこまめに飲む。
ゆるやかな登り坂はゆっくり走るが、少しでもきついと感じる登り坂は迷わず歩いた。まわりの人達も似たような感じだった。
杖を持っている人が目立つ。それだけ足に来るのだろう。僕は持たなかった。少しでも身軽にしたいのと仲間のアドバイスで杖は不要と聞いていたから。
第一関門は約30キロ。6時間以内に着かないといけない。
それまでに小エイドといって水がもらえる給水所が一つある。まずはそこを目指す。
ハイドレーションのドリンクをこまめに飲み過ぎたせいか、なくなってしまった。
でもちょうど小エイドステーションにたどり着いた。
ここで水を補給しよう、そう思った。
ところがそれができなかった。
水をコップ一杯と栄養ドリンク一本もらって終わり。
ハイドレーションに水を入れることはできないと言われた。
水がない。
次のエイド第一関門まで、ゆうに15キロある。
これまでの15キロで2リットルの水を飲んだのにこれから先をどうしろというのか。
不幸中の幸いでペットボトルに入れた水が1本あった。500ミリリットル。
スタート前の体育館で、隣りにいたお姉さんに教えてもらわなかったら捨てていたであろうペットボトル。
このペットボトルの水で何とか走っていくしかない。
エコノミーランが始まった。
水がない分、飴をなめた。飴で喉の乾きを防ぐ、アメアメ作戦だ。
時間はまだ午前2時頃。暗い道の中を、各々のヘッドランプの閃光が交差する。
月が見える。満月に近い。きれいではあるが、じっくりと眺めている余裕はなかった。
眠い。普通なら寝ている時間。
幸いというべきか、道が大小の石がまじった荒れた道。
踏み間違えると足をくじいてしまいそうだ。それを気にしているお陰で眠ってしまうまでにはいたらない。
およそ10キロごとにジェルやバーを食べて、エネルギ-を補充する。
エネルギーが切れては何もできない。
4時過ぎ夜空がうっすらと明るくなってきた。
しかしその時、眠さがピークだった。しかも水を節約しすぎたせいか意識がもうろうとしていた。夢の中を苦しんで走っているようだった。
苦しい。もうダメ。第一関門の6時間までに間に合いそうもない。ここまでか。
そんな思いでいた頃、朝日が見えた。
きれいな朝日。
ヘッドランプがいらない。
視界が一気に開けた。
そして天然エイドがあった。
涌き水だ。
そこで水を補充できた。
冷たい水を飲めた。
朝日も浴びて生き返った気分だ。
眠気も自然と覚めた。
だが制限時間は迫ってる。
もしかしたら第一関門までで終わりかもしれない。
せめて悔いのないように走ろう。
写真も撮っておきたい。
仲間のアドバイスの一つに、景色がいいからカメラを持って行った方が良いというのがあった。
それなので余計な荷物は持ちたくなかったがカメラをリュックに入れた。
朝日の射す眺めを写真に撮った。
あとは悔いのないように走ろう。
まだ暑くもなく気持ちのいい時間帯。
僕はいくらか元気を取り戻して走った。
「夜明け前の空が一番暗い」という言葉を聞いたことがある。
夜明け前が一番辛かったことを思うと、この言葉は間違っていないと思った。
第一関門が見えた。
制限時間6時間前ぎりぎりの到着。
何とかここまでたどり着いた。
バナナがある。
休める。
この先どうするかは、休んでから考えよう。