薪が目を覚ました


「ああああ!薪ちゃん!良かったああ!俺の薪ちゃん」


岡部が
「池内警視、そのまま抱きついててくれ。この人そのまま、仕事に戻っちまうから くそ(-"-;)」


薪が

ポカーンとしている


「薪ちゃん?薪ちゃん?」

「君は確か池内さん…」
「確かって ずっと君のそばにいたんだよ!手を握りながら」


「手を…」


岡部が薪の様子がおかしいのに気付き


「薪さ…」


「ない」

「え?」


「記憶がない…10日と14時間、23分、16秒前の記憶が…」


「ええ!(°д°;;)テカビョウマデガスゴイ」

池内が
「き!きっと倒れた時、頭打ったんだ!大変だ!早く検査を…」


バタン!

岡部が
「あ!青木」


「薪さんが倒れたって聞いたものですから」


「お前、今日休みだろう?何…」


岡部の言葉を無視して、ひょいと薪を抱き上げた

池内が
「あ!貴様!」


「頭を打ったのなら、動いては行けません。俺は体がデカイから、薪さんの頭支えられます。」


「青木!薪さんのお姫様抱っこは俺の役目だ(-"-;)」


青木は岡部を見てニコっと笑い


「薪さんはお姫様じゃあありません。警視正です」


スタスタと行ってしまった


「青木 下ろせ。こっぱずかしいだろう」


「…」


「青木、なぜ黙っている?」

ピタッ


青木が立ち止まり

じっと薪の目を見た


俺を覚えてない 悪魔の俺を…

薪はにらみつけ
「下ろせ!」


ここにいるのは、どこにでもいるただの魂…

いや、記憶が失われたからと言って魂の価値が下がるはずがない

記憶はしょせんただの記録だ

十分に賞味するだけの価値はある


なのに… 俺は…

青木はおもむろに
「薪さん、俺、料理が趣味なんですよ」


「何を言い出す?」


「いかに食材が最高でも、手順や調味料の加減、食材そのものの旨みを引き出すそれが、一つでも間違えれば、料理が台無しです」


「何を言っている!」

いや、俺は言い訳をしている

薪さんの魂が俺の胃袋に入ったら…


入ったら…


いなくなったら…


青木は
「行きましょう、俺、料理の途中なんですよ」

鈴木はタバコに火をつけ
青木が取り上げ、踏み潰した


「禁煙だ 鈴木さん」


「きちょうめんな悪魔だ突っ立ってないで座れ」

「取り引きは決裂だ。薪さんの記憶と母親の魂を渡せ」


「嫌だな。こいつもう一度持ってっていいぞ。薪は喜ぶだろうな。母親に会えて。それこそ、貴様の言う最高の料理の完成だ。」


「薪さんはカンがいいんだ。一目で母親か否かわかる。それに、せっかくのご馳走をどこぞの泥棒猫に持って行かれたらたまらない」


青木は見下げた目で


「あいつは紛い物のスパイスくらい、簡単にかぎ分けられる」


鈴木は怒りの目で
「貴様は薪が普通の運命の人間じゃないとわかったとたんに、とりつきやがって…あいつの守護天使の俺が、簡単に悪魔の餌食にさせると思ったのか?」


青木が鼻で笑い

「あいつは正式に俺と契約したんだよ。たかが守護天使ごときが、このメフィストにケンカを売るのか?しかも…」

隣の厚化粧の黒い服を着た、魔女を見て


「魔女をも、コマに使うとは…立派な堕天使だな」


鈴木はもう一度タバコに火をつけ、煙を青木に吹きかけた


「あの頃薪、いやヨハンはまだほんの子どもだったんだ。母親に会わせてやるって言ったら、喜んで貴様の首にかじりつくさ」


鈴木はコ―ヒ―をすすり

「いい加減、諦めな。あまり執着すると、立派な蹄がすり減るぞ、それに」


自分の頭を指差し


「あいつの記憶はこの中だ」


青木の瞳が溶岩のように紅く光って
人差し指の甲をペロリと舐めた


「仕方ない…パズルのパーツは足りないが…俺はとにかく腹が減った」


鈴木が青い顔をした



母さん…今日、悪魔と契約したんだよ。


母さんが僕を見つけられるように僕、同じ格好している

たくさん生きて、母さんに会うんだ。

悪魔が母さん探してくれるって

だから僕を見つけて

早く見つけてよ


病室で眠っている薪の目から、涙が流れた


池内警視が
「ああ!薪ちゃん 俺のこと想って…薪ちゃん 俺はここだからな」


岡部が
「医者は過労が原因だと…まあ、この人に言っても目が覚めたら、まっすぐ第9に向かうだろうな」


池内が
「貴様らが仕事さぼっているから、無理したんだよ」


「池内警視、その言葉そっくり返す」

猟奇的表現あり注意


「薪ちゃあん!」

ユキが転げるように室長室に入って来た。

池内が
「何だ。このカマ野郎!薪ちゃんに触るな!」


「うるさい!自分だってノンゲ(ノンケのゲイ)のくせに(-"-;)じゃない!薪ちゃん ああああ あれ あれ! あれが消えたの!」


薪が目を合わさず
「あれって何ですか?」
「あれよ!あれ!ステーキみたいになってた女が消えたの!」


「何だって!」


あ!
薪が頭を抱えた

池内が支え
「大丈夫?薪ちゃん」

「だ…大丈夫…」

フラっとしたかと思うと…

ドタ!


岡部が飛んで来た

「まただ」

抱き上げ


「この人、ガナリたてたり、ものを投げたり、ぶったおれたりする才能に、本当長けているんだよね たく」



青木は東都ホテルのロビーに来た

おしゃれなソファーに腰かけ、コ―ヒ―を飲んでいる男がいる


青木が
「いい加減にしろ」

「あれじゃ、お気に召さなかったか…」

「あんな安物の魂じゃなく、薪さんと同等の代価を支払え。それに」

男は青木を見上げ
「それに、薪の記憶…」
「そうだ。たった今、貴様が奪った」


男は
「薪の記憶はあの女と引き換えだった。やっと苦労して見つけた魔女だったのに…」


「どういうことだ?」

男は
「こっちに来なさい」

女がやって来た

青木が
「お前!俺が!」


女が
「あなたが私をお気に召さず卵みたいにぐしゃぐしゃにした女よ。ふふ」

男が
「怒りにまかせてな。馬鹿な悪魔だ。最高の利用価値を差し上げたのに」

「お前、まさか」

「よく似ているだろう?薪のおふくろに」

青木はメガネを取り

ガシッ


「最高のディナーのスパイスを台無しにしたな。間抜け悪魔」


青木は男の胸ぐらをつかみ

「貴様に薪さんは殺させない!」


「俺だって薪の魂を、貴様の胃袋に納めさせる気はない。安らかな死を与え、母の魂に会わせる」

「そのためには何でもするんだな?貴様も地に堕ちたな。貝沼とか言うゲスを使ってまでも…」


「罪を犯すもの、殺されるもの…彼らの運命は変えられない。ちょっと利用させてもらっただけだ」


青木は笑い
「無様に失敗したがな。鈴木さん」

鈴木は怒りの目で
「他の客が見ている。離してくれ、服にしわがよる」