4月の終わり、
タロさんは某国へと飛んだ。
最初の2週間は、
隔離生活だったので、
毎日のように連絡を取り、
出来る限り電話で話した。
タロさんの方が
私と話したがった。
やらなければならない
仕事はあるものの、
誰かと会うなどの
予定がないので、
退屈なのだ。
愛情不足じゃ困るからね
そこを満たすのはキミの役目
そう言うタロさんに
私は言いたくなった。
自分のクレクレはいいけど、
私のクレクレはダメなのね。
2週間が過ぎ、
タロさんは解放された。
その瞬間から、
ほぼ連絡は途絶えた。
出発から3週間、
別の街に移動した。
そこで問題が起きた。
タロさんがまた
ヤルヤル詐欺をした。
やると言ってやらない。
いつものことだが、
その時は私の堪忍袋の
緒が切れた。
何度も何度も繰り返される。
気にしてないつもりだった。
うまく行ってると私は信じ、
なんの問題もないと思っていた。
だけど落とし穴に落ちた。
その時にタロさんが
私に言ったこと。
僕を愛する女は、
僕が連絡しないのは
サボりじゃないって
わかってる
キミは努力してるって言うけど
そこには辿り着けない
何を言ってるんだ?
オマエは私の何を見てるんだ?
沢山のことを受け入れた。
ひとつひとつ、
少しずつだけど、
流せるようになったことが
沢山ある。
でもオマエはそれに
気づいてない。
なぜならそれは、
オマエが気付かないまま、
穏やかに過ぎるからだ。
何も変わらない?
変わった私を見ようとしないのは
オマエの方だ。
いつも同じ場所に留まって、
もうそこにはいない、
オマエの記憶の中にある
以前の私しか見ていない。
でもオマエにわからないくてもいい。
私自身がその努力を認め、
変わった私を認めればいい。
努力はオマエのためじゃない。
私がいつも
シアワセでいられるように、
私のためにしてること。
自分の見方を変える。
思考のクセを直す。
それだけで、
私自身がいい気分でいられる。
そうやって、
以前は受け入れられなかったことを
流せるようになった。
オマエは気付いてない。
そのままの自分を受けいれて
ほしいと言うが、
オマエはなんだ?
そのままの私を受け入れてるか?
キミがそのままの僕を、
良い所も悪い所も
全部受け入れてくれたら、
僕だってそのままのキミを
受け入れる
逆だよ。
受け入れてほしかったら、
まずは今の、
そのままの私を受け入れてみろ。
オマエが受け入れてるのは、
最初の頃の、
まだネコ被った私じゃないか。
オマエは本当の私、
今の私を受け入れていない。
いやその前に、
オマエは本当に、
自分自身を自分で
受け入れてるのか?
否。
自分で本当の自分自身を
否定してるじゃないか。
鎧で身を固めた自分じゃないと
オマエは自分を受け入れない。
そのままの自分てなんだ?
ダメな自分も受け入れて欲しい?
ダメな自分を
自分自身が受け入れて
ないじゃないか。
だが言いたかったことは、
言えるはずもない。
タロさんは私と話すことを
またもや拒否した。
私はどんなに激高しても
頭の切り替えは早い。
それに比べて、
タロさんは時間がかかる。
しばらくの間は、
だた軽めにメッセを送るだけ。
返事が来ようが来まいが、
お構いなしの私。
そして5日ほどたったころ、
私から電話した。
普通に出た。
その電話でようやく
仲直りをした。
仲直りはいつも私の連絡から。
私は次の日にすら
持ち越したくない人。
だがタロさんは最低でも
このぐらいの時間がかかる。
その電話でタロさんは言った。
わかったことがある
僕は理想主義だと知ってるね?
最初の頃のキミに恋をし、
そのキミを理想化させた
だけどそれは最初の頃のキミで、
まだキミの本当の姿じゃない
男も同じだよ
そうだね
お互いをホレされるため、
最初はまだ気を遣うからね
だけど時間が経つにつれ、
ナチュラルな
お互いが見えてくる
そこからが本当の付き合い
そしてキミは少しずつ、
僕に対して本当のキミを
出せるようになった
そうだよ、
だけどアナタはそれを
哀しんだんだ。
最初の頃の私は
どこに行ったってね。
一緒に過ごすようになって7年目。
でも、つい5日前まで、
アナタはまだ
あの頃の私を探してた。
最初の頃のキミを追いかけて、
変わったキミを受け入れなかった
でもそれは普通のことなんだ
変わったんじゃないって
キミが本当のキミを
僕に見せ始めたのは、
それは心が許せるように
なったからなんだ
それは哀しむべきことじゃない
むしろ良い事なんだ
ブラボー!!
ようやく気付いてくれたか!
私がどれだけ言っても、
理解しようとしなかったね
でも自分で解らないと、
本当の意味では解らない
うん
私の努力がムダだと言ったね?
うん
どんなに努力しても
私は辿り着けないって
うん…
僕はキミのその
努力しようと言う気持ちを
萎えさせてしまった…
悪かったよ
でも解ったんだ
キミは沢山の努力をして
色々なことを受け入れた
僕の方が気付かなかった
なぜならそれは
気付かないまま、
穏やかに過ぎていくから
すげーな、あははは!!
ブラボー、ブラボー!
そこまで気づいたか!!
驚きだよ!
うん…
ショックだったよ、
努力が意味ないって言われて
…
何も見てないんだなって
…
でもすぐに思い直した
どうでもいいってね
え?
アナタがどう思おうと
どうでもいいってね
私はアナタのために
してるんじゃない
え?
私のためにしてるんだ
ああ…
私がシアワセでいるため
だって私がシアワセなら
アナタはシアワセ
でしょ?
もちろん!
解って欲しかったこと。
それをタロさんは
ようやく自分で理解した。
まだ全てではない。
でも多くは望まない。
結局は、
自分自身で気付かないと、
こちらから押し付けても、
相手は何も理解しない。
仲直りできて嬉しいよ
私も嬉しい
私は次の日にはケロっと
してるけど、
アナタは時間かかるから、
マジでそこも一苦労(笑)
私はこの違いを
受け入れなきゃならない
これも努力のひとつなんだ
うん、僕は
キミのようにはいかない
アナタは人との諍いがキライ
うん
どうしてそんなに嫌うのか
そこはアナタの問題だけど、
私はそれを恐れない
そんな諍いで私から離れるなら
その人は私とってそれまでの人
私はそう考える
事実、私の友達、
特に今でも付き合いのある親友たち
うん
みんな、何度かケンカしてる
え?
それでも一緒にいる
そうなの?
うん
今、一番仲いい
アナタも知ってる私の友達
うん
アイツは私に
言いたいことを言う(笑)
そうなの?
時には言い争いになるよ
それでも一緒にいる
信じられない…
日本にいる学生時代からの親友
うん
彼女とも、
何度もケンカしてる
…
男友達も女友達もみんな、
仲良いヤツ等はみんなそう
ケンカしても、仲良いまま
…
だってお互いのこと
解ってるから
そうやってお互いを知るから
親友って、
私にとってはそういうこと
言いたいことを言い合う
だから時にはぶつかる
日本人はね、
1つのことで10を知る
相手を慮って、
気遣いをする人達だよ
だけど時には本音で話さないと、
解らないことが沢山あるんだ
それを出来ない相手は、
自分をさらけ出せない相手
ケンカできないような仲は、
本当の親友じゃない
だから親友たちを
私は心から信頼している
何があっても、
壊れる仲じゃないってね
信じられない…
僕にはできない…
相手に対する気遣いは必要だよ
だけどそればっかりじゃ、
本当の意味では
理解し合えない
タロさんは
どんなに近しい人でも
ケンカをしたくない人。
だからこの
私の考え方が理解できない。
そこから湧き上がる疑問。
この人は、
どれだけ自分の本心を
他人に語ることが
できるんだろう…
クールでいたい
そう言うタロさん。
つまりそれは、
本当の自分を隠して、
理想的な自分を
演じ続けたいということだ。
でもね、
私が一番好きなタロさんは
どんなタロさんか知ってる?
多分、知らないだろう。
私が一番好きなタロさん。
裸で無防備のまま、
私の腕の中で眠る。
まるで子供のように。
キミは「愛してる」って
言ってくれない…
最近、タロさんは時々
そう嘆くことがある。
私が「愛してる」と言う時、
それは素直にそう言える時。
それは、
タロさんが私の
腕の中にいる時だ。
タロさんはそれを知らない。
数日前からまた、
タロさんと連絡が取れない。
早く帰りたいから、
予定を切り上げて
来週帰る
そう言っていた先週。
連絡が途絶えて、
今日で、4日目になる。
私からも、
一切何も送っていない。
最後の数日間は
連絡を取るのが難しいかもと
言われていた。
あまり気にしていないが、
最後に連絡が取れた日、
タロさんがまた
ヤルヤル詐欺を起こした。
それを責めたりはしなかった。
まただ。
私が怒っていると思ってる。
自分がしたこと、
しなかったこと。
それで私が怒っていると
思っている。
私は怒ってなどいない。
だけど、
その言葉が私を
イラつかせる。
やっぱり今の私を見ていない。
でも言わない。
怒ってる?
いつ私が怒った?
アナタはいつ、
私がいつも怒ってるって
思うのを辞めてくれるの?
まあいいや
アナタにいいモノを見つけたよ
昨日、骨董屋で見つけた。
クラシックカーが趣味のタロさんに。
子供用だけど。(笑)
年代物の車。
おそらく50年代のモノ。
だからタロさん世代のモノ。
タロさんが好きなのは、
本物のクラシックカーだが(笑)
アナタにはちょっと小さいし、
ちょっとキズ物だけど、
なかなかいいと思うよ(笑)
とにかく無事に帰ってきて
じゃあね
最後の逢瀬から3か月。
色々あった。
そして夏はもう目の前。
帰ったら、
出来る限り早く
キミと逢う
先週のタロさんの言葉。
私はその言葉を
ただ闇雲に信じようとは思わない。
そして今、
タロさんは機中の人。
明日の朝、
無事に、
パリに到着することを願う。