仕事を長年していて、めんどくさい会話というのがある。
その一つが、
やったことがあるかどうかだ。
まず、やったことのないことについて整理する。
自分以外の誰もやったことがないことと、自分以外の誰かはすでにやっていることの2つに分けられる。
私の経験で言えば、チャーター機ツアーは前者、映画や出版やペットショップは後者になる。当然、前者が難しいしリスクが高い。
先に私の考えを書くと、両方の意味で、私はやったことがないことに興味がある。
理由はシンプルだ。ワクワクするし、やる前は困難に思えても、やってしまえば何のことはない。何よりも失敗しようが成功しようが、終わってしまえば、結果がでるだけであるからだ。
正直、やったことがないことは、成功する確率は低くなるが、成功するかどうかではなく、やることが大事だと確信している。
何をやったかの中身よりも、やったことがないことにチャレンジしたという結果がとても大事だと考えている。失敗したとしても、得られる経験、教訓はとても大きい。
もちろん、最初から失敗しても良いやとは全く考えていない。
人間は誰でも、働いた経験の累積がだんだんと大きくなってくると、無意識に保守的になっていくものだ。
経験が増えると、準備やプロセスの遂行と結果の因果関係が変に先読みできる。
そうなると、結果が見えて、つまらなくもなる。
私自身、そういう感覚にどう抗うかがこれからの勝負だと思っている。
よく経営者は慎重かつ大胆だ。と言われるが、私も全くそう思う。
ただ、一方で、守るだけを指向するのであれば、それほど慎重になる必要はない。今まで通り、いつも通る道、いつもの手順でやって大きく外すことはない。
創業してから約30年になるが、あまりお付き合いが深くない方は、私のことを誤解しやすい。
どうも、私がチャレンジばっかりしているように映るようだ。特に、新興国ですることはそうだ。
私の会社でも実際に、長年、固い仕事を幾つかしている。IT、セキュリティ、出版、建築などがその部類だ。創業時はIT以外すべてがやったことはなかったが、流石に20年以上しているので、すでにやったことがある仕事の部類になる。一方で、今でも、未開の新興国はやったことがない仕事のオンパレードといって過言ではないと思う。
私達が20年を越える経験を持つベトナムは、今でも私にとってはやったことがないことが多い。それだけ変化も多様で早い。アフリカのルワンダもそうだ。
こういう場所でのビジネスは、やめておいた方が賢明という意見の方もいるが、私の周りの人達は、新興国での活動には賛成の人が多い。
新興国の活動は、いわゆる“ファーストペンギン”と呼ばれることもある。
こちらは、前例がないことをすることに近いので、詳しくは、また別の機会に書こうと思う。
拙著、仕事は自分で創れに書いたことがあるが、フグがどうして安心して食べられるようになったかを知ると、とても多くの教訓を得る。何人もの犠牲者が出たはずだ。それでも命がけのトライをした人たちの失敗をつないで、私たちは今その恩恵にあずかっている。
人間が行うことはすべてこの原則である。
どんな人でもいずれいなくなる。人間はこんな風にして、勇気をもってチャレンジした知恵やノウハウを伝承できる不思議な動物だと思う。
長年仕事していると、性分的にチャレンジできる人と守り型の人の2つに分けられると思う。
最近は、やったことがないことにしり込みする人が増えた。ただ、それは、私は気分に支配された選択だと思う。
先ほども書いたが、誰もがやったことがない仕事はハードルが高い。
だから、まずは、誰かはやっていて、自分がやったことがないことに積極的に取り組むことを勧めたい。 躊躇はやめて、どんどん前向きにチャレンジすることが大切だ。
もちろん、やったことがある仕事も、改善を前提に取り組む。常なる創意工夫が仕事を楽しくするコツだ。
自分がやったことがない仕事は、しっかり目的やするべきことを理解して、いままでやったことがある仕事の基本スキルを駆使する。足らないところは、自分で努力する。周囲の力を借りる。
こんな風に考えると、こちらも楽しい。
総じて、今の日本は全体的に保守的である。
フグは江戸時代あたりの話だが、たったこの前の戦後復興期は、やったことがないことばかりだった。高度経済成長期が終わって、ある程度の成功が災いして長い間の守りに入った。
ビヨンドコロナ、そろそろ尻に火がついた。日本はやったことがない仕事を増やしていく時期に来た。経営者に限らず、積極的にやったことがない仕事にチャレンジしてほしいと思う。
最後に付け加えたい。
やったことがないことをする時に、やったことがない人の意見には耳を傾けないほうが良い。大抵そういう人がアドバイスすることは、“誰かやったことがある人に依頼すればよい”である。まったく仕事の本質と醍醐味が分かっていない。
以上