小心者 | "Think deeply, speak gently, love much, lough aloud, work hard, give freely and be kind"

小心者


いつからか心の底から、腹筋がつってしまうくらい笑うことがなくなった。
そして、知らず知らずのうちに涙を流していることが多くなった。

表面だけの笑い、つくり笑顔の自分が、とてもいやになることがある。
そして、涙を流す自分に、戸惑う。

2年間の実習の中で、沢山の患者さんに出会い、この職業は自分には向いていないと何度もやめようと考えた。逃げ出したかった。一人一人の患者さんの持つ、「病い」の前に、どうしたらよいかわからない自分。怖かった。

もう医学的にはもう治る事のない病気を告げられたSさん。実習が始まって間もない僕が病室に行くたびに、冗談を言っては、いつも笑っていた。病棟でも、明るいおせっかい焼きの近所のおばちゃん的存在のSさん。夜、病院の隅っこにある公衆電話で隠れるように、泣きながら電話するSさんを見た僕は、翌日からSさんの病室に行くことができなくなってしまった。Sさんの背負っていた、とても、とても大きく、重い「病い」に寄り添う覚悟がなかった。怖かった。

それから2年、それなりに勉強もした、本も読んだ、課外活動に熱中するふりをしてみたりもした。作り笑いもうまくなった。感じる恐怖を隠し、うまく逃げる技術を身につけた。そして、自分にこう言い聞かせてきた。「これでいいんだ。」と。

いいわけがない。そうやって、僕は、結局最後まで逃げ続けるのだ。
そうやって、僕は、大切なものを失っていく。

この涙は、こんな自分に対する警鐘なのかもしれない。
大切なものまでも、見殺しにして逃げ続ける僕に、「逃げるな!」と。