第73話 鎌倉の御大【中編】
当日、新神戸駅のホームで待機する3回生團員。到着時間ですら曖昧でありますので、乗ってくる車両が何号車なのか分かる筈もありません。ご存知の様に新幹線は16両編成で約400メートルにも及ぶべらぼうに長い車体でございます。先頭車両付近で待機していては、最後尾までオリンピアが懸命に駈けても43秒かかる訳でありますので、ある程度、目星を付けて待つ必要がある訳であります。よって長年の知恵でこういう場合はほぼ中央にあるグリーン車が停車する位置で待っておくのが定石とされております。万一、違っていたとしても先輩ぐらいの立派な方であれば、グリーン車に違いないと思っておりました、という言い訳も成り立ちます。
今となっては感覚として分かりにくい話ではありますが、当時は携帯電話なぞない時代でありまして、こういう場合、大変、苦労するのであります。
さて、待機する3回生、選抜されるだけあって実は彼なりに成算がありまして「ホームで学ラン姿を見れば先輩の方から声をかけて下さるに違いない」というものであります。ところが当日、ホームに到着しますと、どこかの高校の柔道部と思しき連中が合宿か試合かは分かりませんが、大勢、たむろしていたのであります。
まだ集合時間には早かったのでありましょう、監督やコーチを改札付近の待合室で待っていれば良いものをホームに上がって、皆が思い思いに非日常的な乗り物である新幹線がホームに入ってくるのを興味深そうに見たり、買う気もないくせに売店で駅弁をしげしげと見たりしていた訳であります。
困った事に当時の不良高校生の間では應援團の如き襟の高い学生服が流行っておりまして、皆、一様に学ランに筋骨隆々の肉体を包み、頭は坊主、妙に老けた顔の輩もいたりしまして「いかん、これではワシがホームで目立たへん」と3回生團員は焦った訳であります。彼は遡ること2週間前、ある失態を犯し坊主頭になったところでありまして、第三者から見た場合、ホームでウロウロする柔道部軍団と彼との見分けは困難な状態だったのであります。【以下次稿】
甲南大學應援團OB会
八代目甲雄会広報委員会