本山村怪々奇團【58】 | 甲南大學應援團OB会のブログ「雲外蒼天」

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甲南大学応援団再建物語
~黄霧四塞すと雖も、上に蒼天なきに非ず~

第58話 エナメル(後編)

 

宴会がお開きとなりますと、100名という人数でありますので、後片付けや忘れ物チェック、幹部のお付き等の役目を負った者以外の下級生は、一斉に外に出て整列して先輩が出て来るのを待つ訳であります。
前述の通り全員が学ランでありますので、靴も全員、黒の革靴であります。しかも現代程、デザインも豊富でない上に、各部共に「華美なものは避けること」といった規則がありますので、皆、似たような靴を履く結果になりまして、お店の下駄箱付近ではちょっとした騒動になるのであります。
 
それでも何とかそれぞれが自分の靴を履き、幹部先輩の靴を玄関先に並べ、靴ベラを持った担当を残して全員、一目散に外に出ます。しばらくすると3部の幹部が三々五々、出て参りまして「押忍」の連呼。後は應援團團長のリーダーの下、学園歌を斉唱すれば、万事終了と相成ります。
 
すると最後の数名の幹部がなかなか店から出て参りません。表で待機していた3回生の代表が様子を伺いに店内に戻り、靴ベラを持って右往左往する下級生に問い質したところ「志賀隊長の靴がない」という事でありました。
可能性としては誤って違う場所に置いた、他の客が履いて帰った、或いは前述の通り志賀隊長はお洒落でありまして、靴は鏡の如くピカピカ光る高価なエナメルの靴でありましたので、盗難の可能性も否定出来ません。

表で待機している下級生達にも店内の状況が漏れ聞こえて参りまして「おい、これはなかなか帰られへんのと違うか」と横の同期生と小声で話していたり致します。
その時、少林寺拳法部の2回生が真後ろに並んでいる1回生の一人が結構、酩酊していた事を思い出し「もうちょっと時間がかかりそうやから辛抱せいよ」と振り返って声を掛けます。すると彼の足元から眩いばかりの光が放射されているではありませんか。そうなのです、彼が志賀隊長の靴を履いていたのであります。すぐさま少林寺拳法部内で2回生⇒3回生⇒4回生へと情報が伝達され、一件落着となったのであります。
しかしその少林寺拳法部1回生氏、時の三武会1回生の中でも最もお洒落に程遠い人物でありまして、踵を踏み潰した、くたびれた靴が彼の定番アイテムであり、志賀隊長とは対極にいる筈の彼が何故、これまでの人生でも見た事もなかったであろうエナメルの靴を何の躊躇いもなく履いたのか、今もって謎であります。
 
甲南大學應援團OB会
八代目甲雄会広報委員会