第52話 釣り人【後編】
さて、釣りの方はと言いますと、例の2回生氏、運転の姿からは想像もつかぬ釣り名人で、的確なアドバイスの下、幹部氏もすっかり釣りの醍醐味を満喫するに至りました。初の大戦果にご満悦のまま良く分からない魚を何匹かを戦利品として持ち帰ることになったのであります。
さて、この2回生氏、その常識破りな言動や貧相な風貌に反し、実家は結構な資産家でありまして、神戸市内の高級マンションに下宿をしておりました。自然と應援團寮の如き様相を呈し、本人の知らぬうちに部屋の鍵が大量に複製され、夜な夜な同期や上級生が泊まり込む様になっていたのであります。帰路、日も傾いておりましたので、幹部氏は宿泊すべく"應援團寮"に向かうのでありました。
するとその夜は3回生團員が2名、風呂上がりのラフなスタイルでビール片手にプロ野球中継なんぞを観戦しております。よく考えれば人の下宿で何たる事でありましょうか。
そこでふと悪戯心が騒いだ幹部氏、「お前の恨みを晴らしてやる」と2回生氏に密命を出します。持って帰ってきた戦利品=ブラックバスを塩焼きにせよ、というものであります。しばらくするとその品は出来上がりまして
「ワシが淡路で釣ってきた鯛を塩焼きにしたぞ」
と3回生に勧めます。すると酒の肴としてその物体に箸を付ける3回生達。どんな反応をするか笑いを噛み殺しながら、その模様を伺っておりますと
「さすが淡路の鯛や」
「身のしまり方が違うのぉ」
とか言いながらあっという間に完食したのであります。目論見が外れた幹部氏は、事の真相を伝えそびれたまま呆然と立ち尽くすしかありませんでした。
今でこそ滋賀県などでは生態系を破壊する外来魚として駆除対象であるブラックバスを美味しく調理する方法が開発されておりますが、当時はブラックバスなど食うものではない、というのが常識でありましたので、斯様な仕儀になった次第でございます。
しかし、あの3回生達、ブラックバスはもちろんのこと、鯛も食べた事がなかったのでありましょうか?
甲南大學應援團OB会
八代目甲雄会広報委員会