第51話 釣り人【前編】
ある日の團室での出来事であります。昼休みの練習を終えた幹部が、着替えを終えると2回生1名を従えてそそくさと出かけようと致しております。当然の事ながら他の幹部から「そんなに慌てて何処へ行くんや?」と疑問が投げかけられます。
実はこの脱出を試みている幹部、最近、俄かに趣味として釣りを始めたものの、勝手が分からず、幼少期より釣りを趣味としてきた2回生に色々、手解きを受けようとしていたのであります。
ただ正直に2回生に手解きを受けるとは言い出せない幹部氏、要領を得ない説明をしているうちに、釣り名人である自分が下級生を従えて釣りに行くという様な話になってしまい、
「で、何処まで行くんや?」
との問いには
「おぉ、垂水から船をチャーターして、今日は淡路島の方まで流そう思うてのぉ」
と、とんでもない大法螺を吹く始末。質問の嵐を振り切る様に團室を出て参ります。
釣り道具を積んだ自らの車を2回生に運転させ、大海原ではなく神戸市内の貯水池に向かいます。他にも釣りに造詣が深い幹部團員がおりますので、馬脚を露さぬうちに相応の実績を作らねば、と焦っているのでありました。
とは言え、この秘密を守れそうで且つ釣りを趣味にしている下級生と言えば、車を運転しているこの2回生しかおらず、正直、心もとない思いは拭えません。
例えば今の運転の下手さ加減。乗り心地が悪い事、この上、ありません。しかも先程、赤信号にも関わらず猛然と信号を突っ切る暴挙に出て、肝を冷やしたばかりであります。
「おい!信号、赤やったやないか!」
と注意すると
「押忍!横の信号は青でしたので」
とアンビリーバブルな回答をする始末。こいつに任せて大丈夫やろか、という心配は分からぬでもありません。【以下次稿】
甲南大學應援團OB会
八代目甲雄会広報委員会