翌日、一回生氏は当番であった為、早朝から登校する日でありました。昨日の3回生の先輩にお礼を述べねばならないと同時に、適当な理由で早めに退室した事を少なくともその先輩が知っている訳ですから、その事をどう詫びるか、何とも重い足取りで團室に向かうのでありました。
間が悪い時は続くものでありまして、團室に一番乗りし当番の團務であるところの掃除や片づけに励んでいたところ、まさにその3回生が團室にやってきたのであります。朝も早い事もあり、他は誰も来ない團室で二人きりになってしまう、という事態に陥った訳です。
そもそもその3回生は寡黙なタイプでありまして、後輩に余り指示する事もなく自分の事は自分でやってしまうので、余り会話もなく、気まずい沈黙が團室を支配することになります。
とは言え誰か次の團員が團室に来れば、二人しか知らぬ昨夜の出来事に関する話は出来なくなりますので、思い切って昨日、ご馳走になった旨のお礼を申し述べると、下級生の方を目線を移す事なく「ああ」の一言。
これでは尻切れトンボで胸のつかえが取れた気がしませんので、適当な理由でさっさと帰ってしまった事を詫びるべく「あの、、、」と言いかけた時、初めて下級生の方に視線を移し「ワシも昔、覚えがあるんや。気にするな」とだけ言い残し、講義に出席すべく團室を後にしました。
その夜、もしかすると厳しい制裁に遭ってぼろ雑巾の様になってはいまいか、心配になった彼女から1回生氏に、事の顛末を確認する電話が入りました。3回生の振る舞いにすっかり心を奪われた1回生氏が興奮気味に團室でのやり取りを伝えたところ、本人以上に彼女の方がすっかり3回生氏に心酔してしまったのであります。
これまでデートの約束をしていた日曜日に、急な応援依頼が入りドタキャンする事になった時などは機嫌を直すのに相当な苦労をしていたところが、應援團道に邁進しあの先輩みたいになりなさい!と逆にケツを叩かれる様になったのであります。
今日の練習はしんどかった、などと帰宅後、電話で話そうものなら、そんな事でへこたれていたら、あんたはそれまでの男やったんやわ、とお叱りを受けたり、彼にとっての憩いの場はなくなってしまった訳であります。
その後、彼が先輩の後を継げるような立派な男になったか否かは人物評価が分かれるところでありますが、人一倍、男を磨く意識が高い團員になった事だけは間違いありません。
甲南大學應援團OB会
八代目甲雄会團史編纂委員会