第44話 スキー合宿異聞【3】
かつてのスキーブームは今となっては実感として分からない程、過去の話になってしまいましたが、当時は凄まじい人気でありました。人気がある=予約がなかなか取れない=値が跳ね上がる、という資本主義の原則通りの状況を呈しておりましたので、大学が主催するこの合宿が人気があったのでありました。
よって体育の単位取得が危機的状況になくとも、参加する学生は非常に多く、当時の流行の先端のウェアに身を包む学生が大勢いる中、普段の練習着に厚手のジャンバーを羽織っただけの彼らは異色の存在であった訳であります。
合宿地である長野県に向かうバスの車中において、前の座席に座る学生に
「おい、にーちゃん。ウォークマンの音、漏れてるぞ」
などと話しかけ二言三言、話しておりますと
「ところで何を聴いてるんや?」
「はぁ、広瀬香美ですわ、、、」
「おぉ!」
と感嘆するや、近くに座る他の三武会のメンバーに声をかけ
「まだまだ日本の魂はなくなっとらんぞ」
と言うや、肩を組んで唱歌「広瀬中佐」の大合唱であります。彼らはロマンスの神様ではなく軍神しか知らないのであります。興が乗り更に「雪の進軍」「ハバロフスク小唄」を歌い上げ、悦に入る始末であります。
バスの中に漂う「合宿中、こいつらとは関わり合いにならない様にしよう」という空気を、言うまでもなく彼らには感じ取る感性はありません。
甲南大學應援團OB会
八代目甲雄会広報委員会