第39話 テンプラ狂想曲【後編】
いつの世もそうでありますが、やはり真面目な團員という存在は同期はもとより上級生にとっても下級生にとっても頼りになる存在であります。下級生にとっては同じ指導を仰ぐならやはり團務に真面目な先輩の方が良いでしょうし、同じ怒られるにしてもちゃらんぽらんな先輩よりは真面目な先輩に怒られた方が、納得出来る部分もあります。
そういった意味でM君は何か突出した特徴があるとは言えませんでしたが、申し分のない團員であった事は間違いありません。
M君も経験を重ね遂に3回生になりました。3回生も後半になりますと次期幹部の人事が團内の関心事になります。当時、應援團員は1学年10名程度はおりましたので、團長を選出する基準は難しいものがありまして毎年、先代幹部間で議論が交わされる訳でありますが、この年は真面目さを買ってM君を團長に推す声もあったと伝えられております。
残念ながら團長にはなれなかったものの実務を司る幹部として4回生になったM君でありましたが、そんなある日、いつも通りの時間が流れる團室に学生部から連絡が入ります。何とM君が逮捕されたとの一報でありました。
容疑は私文書偽造でありまして、手形や小切手に絡む厄介な事件を起こしたのであります。当時は大小、様々なトラブルが起こる事は珍しくはありませんでしたが、起訴されてしまう公算が高い事件ともなれば、重大事と言えましょう。
誰しもが「あのMが…」と信じられない思いでおりましたが、起こってしまった以上はどうしようもありません。OB会、学生部と今後について協議を始める事になりました。
まずは学生部より事件を起こした團員を特定する為に学部や学籍番号を問われます。我が團の幹部は求めに応じM君の情報を学生部に伝えますが、どうも話が噛み合いません。再三に亘るやり取りの結果、判明したのはM君は甲南大学の学生ではなかったという衝撃の事実でありました。こうなりますと我が團も欺かれたという被害者になりますので、お咎めなしと相成りまして事なきを得た次第であります。
後で伝え聞いたところによりますとM君は甲南大学と応援団に憧れを抱いておりましたそうで、思いが高じ我が團の門を叩いたそうであります。考えてもみれば團員に学生証の提示を求めたりする機会はございませんので、万一、こういう輩がいた場合、すんなり潜入できたのは頷けるところであります。
事件さえ起こさなければ甲南大学を卒業できずとも甲南大學應援團OB会には名を連ねていた事でありましょう。考えてみれば怖い話であります。
甲南大學應援團OB会
八代目甲雄会広報委員会