そんな彼の身の上が分かったのは4回生の時であります。おそらく温厚な勤勉氏がその大学生活の中でただ一度、声を荒げた時でございます。
いつもの様にドーナツ片手に團室の階段を上る勤勉氏。ところが階段の途中からただならぬ気配を感じます。時として團行事と重なり、團室内に緊張感が漂っている事があり、そんな時は黙って帰るのが常でありましたが、それとは違う気配を感じながらも、團室のドアの前まで来てしまったのであります。
扉のガラス部分から中を覗くと幹部席と呼ばれるソファに團員氏が座り、正対して座るスーツ姿の男二人が見えます。「OBが来ているのか…」と考える勤勉氏の姿を認めた下級生團員が慌てて出て参りまして「先輩、今日のところはお引き取り頂い方がよろしいです」とのこと。OBの来訪なら仕方ないと手土産を渡そうとしますが、やはり様子がおかしい事が気になり、事情を尋ねますと、昨夜、下級生團員が三宮で飲んでいたところ、元気だけは有り余っておりますので、同じ店で飲んでいた若者達と口論になり、一騒動があったと言う次第です。
ありがちな話ではありますが、今回はその喧嘩相手の若者達が所属している会社の上司を名乗る方が乗り込んで来たと言うのであります。
会社と申しましても神戸ではよく見かける、アンダーグラウンドの世界では泣く子も黙る恐怖の菱形ブランドの系列会社でありまして、厄介な話になっている只中でございました。勤勉氏が厄介に巻き込まれる前に退避させようとした下級生の対応は至極妥当なものであります。
甲南大學應援團OB会
八代目甲雄会広報委員会