第11話 花をつむ男
以前 、ご紹介させて頂いた我が應援團の1年間の集大成である「乱舞の集い」が今回のお話の舞台であります。
おさらいになりますが、毎年11月に我が甲南大学の学園祭が開催されるのでありますが、その中で演劇祭というイベントが行われます。会場は神戸文化ホール、芦屋市民会館、西宮市民会館といった所が多かった様に記憶しております。應援團を筆頭に演劇部や歌舞伎文楽研究会等が日頃の成果を舞台で披露する訳でございます。
應援團の舞台は特に観客が多うございましたので、ご祝儀の品を多数、頂戴致します。8割方が日本酒であります。應援團業界では手土産は日本酒と昔から相場が決まっておりまして、来場下さる他校の應援團、学内の他クラブ、OBは皆様、一様に手に一升瓶をぶら下げておられる訳でございます。
他にも現金やビール券、商品券という有難いご祝儀もございますが、意外に楽屋で嵩張るのが花なのであります。まさに花の応援団でありますが、應援團の舞台では幹部が演じる演目が終わった後に舞台の袖に下がろうとするところに、客席から花が手渡される場面があるのでございます。
無論、何もせずとも花を頂ける者もおりますが、多くの場合は夜の三宮から動員されたサクラでありまして、中には前日に三宮を奔走し花代まで渡して依頼する者もおりました。そうやって頂いた花も楽屋に集めてみますと積み重ねる訳にも参りませんので、結構な量になります。
こうした荷物は團旗等貴重品を除き、演劇祭実行委員会が手配したトラックで搬出されます。ただ他部の荷物も合積みになりますので、全ての舞台が終わるまで搬出担当の團員達は会場に残らねばなりません。
ある年の演劇祭終了後、搬出責任者である3回生が配下の1回生に指示を出し荷物をトラックに積み込んで参ります。酒瓶や花束など、壊れ物は一番最後に積みますので、脇へ除けておいて大きな荷物から着手致します。
その時、責任者たる3回生氏は、観音開きに開け放たれたトラックの荷台の扉の陰にあたる場所に、花が除けられて置かれているのを見つけました。いかなる時でも迅速な行動が要求される應援團でありますので、一刻も早く作業を終わらせるべく大急ぎで作業を進めている中では、このまま忘れかねません。
案の定、死角になって見えない花以外の物をてきぱきと積み込んで手を休める1回生に
「花を積まんかい!」
と3回生の怒号が飛びます。
「押忍!」
と返事は抜群の1回生氏、何をとち狂ったか自分の鼻ギュッとつまんでおります。呆気にとられる3回生氏は重ねて
「何をしとるんや!早う花を積まんかい!」
と声を荒げますが、今度は更に鼻を拗じ上げております。何と彼は上級生の指示に従順な余り「花を積め」を「鼻をつまめ」と聞き違え、且つ実践していた訳であります。周囲では笑いをこらえる演劇部や歌舞伎文楽研究会等の面々がいらっしゃいましたが、一番、修業が足りないトラックの運転手が笑い出しますと、その場は爆笑の渦となったのであります。少なくともその場では他部に愛され親しまれる應援團であったと思います。
八代目甲南大學應援團OB会
広報委員会