第10話 コンビシューズ
以前、ご紹介した春合宿 に纏わるエピソードであります。前年12月に幹部交代を行い、新幹部~新2回生までの3学年で2月乃至は3月に実施されます。創團より平成初頭までの長い期間、淡路島で行なうのが恒例でありました。
そんな1年前の悪夢が蘇る当時、2回生だった新3回生衆。取得単位は少ないものの、血の気と忘れ物だけは多い新幹部となったその先輩がまた忘れ物をしないか前日から気を病んでいたのも当然と言えましょう。
彼らが立派だったのは、仮にまた忘れ物をしたところで奔走するのは、新2回生なのでありますが、予測出来る危機に対して手を講じないのは銀バッジを付ける3回生として失格であろうと自ら判断した事であります。
合宿前日に忘れ物王幹部氏に電話をし、用意しておくものがないか確認したのであります。すると案の定、練習用の靴を團室に置いたままなので、持って来いとのご指示。
妙なこだわりがある先輩で練習用の靴を常時2足揃えておりまして、走ったり筋トレをする時に使用する白い靴と、演武・乱舞の練習の時に使用する黒い靴の2足なのでありますが、気を利かせて
「2足共、お持ちしましょうか?」
と尋ねると
「いや、荷物になるやろうから、どっちでもエエから、1つを靴紐で結わえて揃えて持って来てくれ」
との有難いお言葉。打てる手は打っておくものであります。早速、新2回生に先輩の指示内容を伝え、明日からの合宿に備え心静かに眠るのでありました。
さて、合宿当日、2回生衆は團室に集合し團旗や太鼓等の器材を持って明石港に向かって出発します。一方、3回生衆は2回生が充分な人数であった事もあり現地集合であります。そのうち幹部衆も明石港に集まり、出発と相成ります。
「おい、ぬかりはないか?」
と自らは靴を忘れたくせに確認をする忘れ物王。
「押忍、準備万端、怠りありませんっ」
と答える三回生。無事、船は明石の港を出航致します。
”明石や、この浦舟に帆を上げて、波の淡路の島蔭や♪"と呑気に吟じておりますと「何じゃ!こりゃー!」と松田優作も驚嘆するであろう声が船中に響き渡ります。
何事ならんと駆けつける3回生一同。すると忘れ物王幹部の手には、白と黒の左右片方ずつが靴紐でしっかり結ばれた靴が握られて居ったのであります。これは一般常識の範疇でありましょうから、指示を出した3回生を責めるのは酷というものでありましょう。
八代目甲南大學應援團OB会
広報委員会