第8話 ザ・ボディガード
ボディガードと申しましてもシルベスター・スタローン主演の映画 や、かのサニー千葉主演のドラマ とは何の関係もなく、かと言って物騒な話でもございません。
随分と昔に撤廃された風習ですが、電車で移動する際、駅に電車が入って参りますと1回生が扉が開くなり車内に乱入し、乗客を整理し幹部が座る座席を確保するという悪しき因習がございました。
應援團は市民の皆様に愛され親しまれる愛と正義の味方であり、この行為は、強きを挫き弱きを扶ける應援團道に悖る行為として、我が團では他校に先んじかなり以前に廃止しております。
ただ我が團が廃止しても他校では存続されている場合もあり、その團と行動を共にすると忘れかけていたこの習慣を 先方の下級生がやって下さるのですが、実際やられてみると実に恥ずかしい気分になり、頼むから止めてくれ、と頼む羽目になるのであります。
さて、そんな風習がまだ残っている時代の話であります。電車だけではなくエレベーターに乗る際にも同様の作法がございました。鮨詰めのエレベーターに幹部の先輩をお乗せする訳にはいかないという趣旨の下、エレベーターの扉が開きますと、付人衆は扉を手で押さえる役、いち早くエレベーターに乗り込み異常がないか確認の上、目的階ボタンと開ボタンを押す役等、役割分担を行います。そして先輩が乗り込み続いて付き従う團員が乗り込むと、扉の所で他の客が乗り込もうとするのを手で制する等して、それ以上、エレベーターの限りある空間が埋まらない様に努めるのであります。
そんなある日、友好関係にあった他校の應援團と食事会を行うべく訪れた某ホテルでの出来事であります。友好関係とは言え他校と一緒となれば、ミスは許されませんので、付人團員を束ねる付人筆頭に経験豊富な3回生が抜擢されます。次期親衛隊隊長最有力候補と目されるその3回生は、道ですれ違えば振り返ってしまう程、見事な巨体と故 安岡力也氏の様な面体でございまして、彼の指揮の下、集合~移動と滞りなく事は推移しておりました。
そして到着したホテルでエレベータに乗り込む御一行。ホテルの場合、様々なお客様がいらっしゃいますので、時として貫禄不足の1回生が手で制したところで他の客が乗り込んでくる事もあり得ます。そこでエレベーターに全員が乗り込みますと安岡3回生が扉の所に立ち塞がり、他の客を乗せまいと足で蹴る仕草をします。
そして首尾よくドアは閉まったのでありますが、あろう事か彼の靴の片方(つまり蹴る仕草をした方の足)が見事な放物線を描き扉の外に飛んでいたのであります。今更、扉を開け拾う訳にもいかず、他の客の忍び笑いを下に聞きながら、目的階まで上がり
「押忍、先輩、靴を取りに下に降りてよろしいでしょうか」
と申告する羽目になったのであります。
何でも世間で一流と呼ばれているホテルでの食事会と聞き、彼なりに気合が入っていたらしく、前日に買った靴が微妙に大きかったのが原因だった様であります。
随行していた下級生は、笑いを堪えるのに相当な忍耐を要したであろう事は疑う余地がございません。
八代目甲南大學應援團OB会
広報委員会