【第5話 潔癖過ぎる男】
かつて我が應援團が存在しておりました時代、様々な男たちが在籍しておりましたが、中には困った團員も多数、おりました。早い話、皆それぞれ何らかの意味で困ったちゃんだった訳でありますが、酒癖、女癖が良い團員や血の気が少ない團員と言うのは余りお見かけしません。朝、團室に参りますと、妙に酒臭い者、学ランに女性物と思われる香水の香りを漂わせている者、傷だらけの者等々、それぞれの激しいプライベートを偲ばせるに余りある光景がございました。
しかし中でも手を焼くのが、意外ではありますが、潔癖症の團員、杓子定規な團員なのであります。
潔癖症については下級生の時分は良い團員として重宝されます。何せ團室の日々の整理整頓、掃除は團員の至上課題でありますが、その方面には適性を感じさせない者が多く、日々、怒られながら仕事を覚えてゆくのが一般的な團員の姿であるにも関わらず、潔癖症の團員は先輩に言われる前から掃除に励んだり、杜撰な同期が当番の日には心配でならず、当番でもないのに朝早くから登校し手伝うという、上級生からすると非の打ちどころがない優等生なのであります。
ところがこの手の團員は上級生になあるにつれ、問題が出て参ります。2回生になり掃除は下級生がやる様になりますと、この男のチェックは峻烈を極めまして、團室に上がる階段にゴミが落ちていないかを確認しつつ團室に現れ、窓の桟を指でなぞって埃のチェックから始まり、ロッカーを片っ端から空けては整理出来ていない箇所がないか確認致したりします。
この時代を下級生として生きた團員は明日からダスキンで即戦力として活躍出来るであろうレベルまで鍛え上げられます。
3回生にもなりますと、幹部が團室のロッカーを開けますと見た事もない用途別にきちんと分けられた洗剤類がズラリと並んでおります。おまけに手書きの掃除マニュアルなるものまで完備されており、幹部氏が1回生の時にはそこまではやっていない様な厳しい内容が事細かに記されております。
ちょっとこれは行き過ぎではないかと思いつつも、1回生の当番業務の監督は3回生に一任されておりますので、有耶無耶になるのであります。
しかし朝、1回生2回生が目を血走らせ掃除に励む姿を見た幹部氏は遂に潔癖症3回生氏を呼び軽く注意します。ちょっと抜けたところがあって怒られる方が可愛気があって良いという訳ですが
「押忍、先輩、お言葉ではありますが、應援團員たるもの常在戦場の心構えで、いつ何時でもお客様やOBの先輩方が来られても恥ずかしくない様、團室の美観を保つのが3回生の仕事であります」
と明朗快活に答えられえると、正論であるだけに幹部氏もそれ以上は強く言えなくなってしまうのであります。
だらしない團員は困ったものですが、度が過ぎた潔癖症はそれ以上に困った事態を招来する事例であります。過ぎたるは猶及ばざるが如しの格言をしみじみと感ずる次第でございます。
八代目甲南大學應援團OB会
広報委員会