【第3話 お使い能力=ポチ以下(前編)】
1回生團員の日常は、練習を除けば掃除とお使いがその大半を占める訳でありますが、そこはまだまだ修業が足りない1回生のやる事、問題が絶えた事はございません。
上級生がオーダーする定番はドリンクと煙草でございます。團室に来るなり「何か飲み物を買ってこい」と仰る方が多うございます。「團室に来る前に自分で買ってくればいいのに…」
と誰しもが思うのでありますが、怖いので口にした者はおりません。ただお使いを頼んだ以上は、買いに行く下級生の分も買ってやらねばならないという不文律がございまして、下級生にとっては決して悪い話ではないのであります。
さて、昔の「サザエさん」にお使いをする犬が出てくるのをご存知でしょうか?首に風呂敷を巻き、肉屋や八百屋に出かけて行って、品物を持って帰ってくるのです。この程度の能力があれば十分にお使いの任は果たせるのでありますが、そうはいかないのが現実なのでございます。
ちょうど今くらいの季節に、ある幹部が團室に登場したシーンを思い浮かべて下さい。すっかり冬を感じさせる外気から逃れる様に團室に飛び込む幹部氏。中では1回生が掃除に励んでおります。
挨拶代りに「おい、何か飲み物を買って来い。お前も何か飲め」との指示を出します。「押忍ッ!」との非常に元気の良い返事が返って参ります。
そう、應援團員は挨拶も返事もこの「押忍」を使用するのですが、この元気の良さは学内随一でありまして、壁にヒビが入り天井が落ちて来るのではないかと思ってしまう程の「押忍」に他部等の初めて團室にお越しのお客様などは腰を抜かさんばかりにビックリされるものでございます。
この1回生はその中でもとりわけ元気が良く、この威勢の良い「押忍」にお使いを頼んだ幹部もご満悦であり、
「なかなかあいつもしっかりしてきたもんや。もう外に出しても恥ずかしくないで」
と思ったりするのでありました。しかしそれが大きな過ちだったと気付くまでさして時間は要しません。
お使いから戻って来た1回生氏が恭しく捧げ渡してきたものはキンキンに冷えたキリンレモン。
「さては、こいつ朝から掃除やら何やらで動いて暑かったのか…」
と善意に考えてみたりしますが、当の本人はホカホカココアなんぞを持っておりますので、そうではない事が明らかであります。
ここは温厚の士で知られた幹部氏
「何故、お前はこの商品を選んだんや?」
と穏やかに尋ねると
「押忍!先の合宿の際、先輩に買い物を仰せつかったのがその商品だった事を覚えておりましたので、先輩の好物ではないかと思ったからであります!」
と何の屈託もなく明朗快活に答える1回生氏。
先の合宿?我が團には秋の合宿はないから、夏合宿の事か??灼熱地獄の四国の海辺での夏合宿の光景が蘇ります。
幹部氏、ため息をつきながら「あんなあ、日本には四季ちゅーもんがあってやな、…」と一から直々にもてなしの心得を説くのでありました。「まだこいつは外には出せん」と考えを改める幹部氏、この日、まだ受難は続く事を知る由もありません。
【続く】
八代目甲南大學應援團OB会
広報委員会