〝立ち食いそば界の安室奈美恵〟と呼ばれた水道橋の「とんがらし」。この店の熱烈なファンは多い。平成7年に開店し、23年間近隣のサラリーマンたちの胃袋を掴んでいた。そのとんがらしが閉店の発表をしたのが平成の最後の年の2018年12月。安室さんの最後の紅白のステージがあった時だった。創業者の佐藤さんご夫妻の年齢は合計150歳に達していたからだ。佐藤さんは、もし、この店とこの味を引き継いでくれる人がいたら暖簾(のれん)を渡すと貼り紙をした。ファンたちは固唾を飲んで成り行きを見守った。

 名乗りを上げたのは飲食とは全く無縁の広告代理店。福岡に本社がある広告代理店の〝WORLD HUNT〟。社長の近藤和久さんは、従来から事業計画の中で食文化の継承を柱としていた。東京製麺所協同組合からの情報でとんがらしが後継者を探していることを知る。早速、とんがらしの蕎麦を食べに行った。その味に衝撃を受けた近藤さんは、この店を多角化事業の一翼とすることを即決した。こんな旨い蕎麦の店をなくしてはいけない。

 店長に決めたのは当社でWEB開発を担当していた樋口和紀さん。彼の出身は関西。蕎麦よりうどん文化に慣れ親しんで来た人。引継ぎに残された時間はごく僅か。2019年のGW前に引継ぎを完了しなければならなかった。そこは日頃、緻密な仕事を要求されていた彼。見事に完遂した。その後、コロナの影響もあり休業が続いたが今年6月に店舗の全面リニューアルも終了し、再開店した。

老夫婦がやっていたとんがらしと外観も内装も大きく変わった。カウンターには、全部椅子が配置され店内に入りきれなければ外で待つしかない。樋口店長ともう一人男性店員。応対がとても丁寧。広告代理店時代の接客態度がそのままと好感がもてる。少しでも時間を待たせると丁寧な謝罪。こちらが恐縮してしまう。

注文したのは〝名物天盛りそば〟(680円)。茄子天(3ヶ)・小エビ天(5ヶ)・イカ天(1ヶ)と怒涛の天盛りは先代時代と同じ。

店名の通り、とんがらしをたっぷりと・・・。 薬味は、葱と生姜。お客さまの好みを確認してトッピングしてくれる。勿論、両方をお願いした。

気温は高かったが、基本の温かい蕎麦でお願いした。他に、冷たいのも、ひもかわもある。

とんがらしの天ぷらそばの味は変わらない美味しさだった。貴重な食文化は福岡の広告代理店の勇気で守られた。

 

【お店へのアクセス】

東急バス(黒01) 目黒郵便局⇒目黒駅

都営三田線   目黒駅⇒水道橋駅

徒歩 9分

今日もシルバーパスで交通費無料