【もし私たちが、他の誰かや別の機会をまっていたら、変化は訪れないでしょう。
私たちこそが待っていたその人なのです。
私たちこそが探し求めた変化なのです(旧アメリカ合衆国第44代大統領バラク・オバマ)】


「シャア・アズナブル大佐、彼の存在なくして宇宙世紀は語れない。そして永遠のライバルにして友アムロ・レイ大尉、二人の男に牽かれる全ての者に捧げる」


宇宙世紀0093(ダブルオーナインティースリー)年3月12日、第2次ネオ・ジオン戦争(シャアの反乱)は終結間近に迫っていた。地球連邦宇宙軍外郭機動艦隊ロンド・ベルとネオ・ジオン軍双方は、武器と弾薬が尽き果てる寸前に陥っていた。双方激しい戦闘宙域をアクシズの岩礁群を隠れ蓑として、ロンド・ベル旗艦ラー・カイラムとネオ・ジオン軍旗艦レウルーラの各敵味方双方MS部隊に護衛されながら後退を開始していた。


時に遡る事0092年12月22日、シャア・アズナブル大佐貴下のネオ・ジオン軍艦隊、難民コロニー(スイート・ウォーター)占拠。0093年2月27日、シャア大佐は、インタビュー番組の中で事実上の宣戦布告を宣言。同年3月3日、ネオ・ジオン軍艦隊、スイート・ウォーターを発進。
当初、地球連邦政府は、穏便に事の始末を終結させるために、ネオ・ジオン軍と交渉を探った。3月4日、ネオ・ジオン軍は、宣言に基づいて、「5thフィフスルナ」を地球連邦政府中枢のラサに激突。この直後に、平和条約締結の使者として参謀次官のアデナウアー・パラヤがサイド1のロンデニオンでアクシズをネオ・ジオンへ譲渡する代わりに艦隊の武装解除とスイートウォーターの自治権付与の平和条約調印で総てが締結された。と、連邦政府は安堵した。
しかし、ネオ・ジオン軍は武装解除を偽装し地球連邦軍本部ルナツーに対して騙し討ちの攻撃を開始。さらには、貯蔵された核兵器を奪取される始末であった。連邦軍本隊は、不始末の帳尻を合わせの必要性から危機感を抱き遂に重い腰を上げて、各コロニーから成る軌道艦隊を差し向けた。ネオ・ジオン軍の艦隊戦力は、消耗の一途を辿り半減して、情勢は不利に陥るばかりだった。暗黒の宇宙にアクシズが大気圏の高温の摩擦に染まると濃緑色の発光帯を辺り一面へとオーロラのごとく光を浴びた。地球の汚染に危機感を覚えた敵味方双方のMSは、アクシズの下降部に取り付きジェネレータを最大限上げて、アクシズの降下を抑え押し上げようと試みた。しかし各機体は虚しくもはね飛ばし、熱を帯びてその勢いは全地球圏の意識を一時的に集束してアムロ・レイ大尉のνガンダムとガンダムの手の中に収まるサザビーの脱出ポットのシャア・アズナブル大佐を呑み込んだ。二人のニュータイプ戦士は、半岩したアクシズと前方を漂うアクシズの片割れを包み濃緑色の輝きを地球圏全域へと拡散した。アクシズの光の中心の彼らは彼方へ消え去った。


ロンド・ベル旗艦ラー・カイラム艦長のブライト・ノア大佐は、本隊の88艦隊からアクシズの離脱と損傷機の回収を当たる様に命令を受けて残存艦を再編しつつ艦隊を建て直して躍起になっていた。ラー・カイラムとレウルーラは眼と鼻の先の岩床群に紛れて両軍共に捉えられない。ブライト艦長は「ラー・カイラムでアクシズを推すんだよ!」と、アクシズの地球落下に危機感を覚えて副長のメランへ強い口調で捲し立てた。メランは「まだレウルーラの撃沈を確認していません!!」と具申してブライトの怒りを勇めた。腹心の部下で在り戦闘を共に経験したからこそ云える立場であった。ラー・カイラムの戦闘ブリッジ要員は、レウルーラの捕捉に全力を上げてコンソールパネルのディスプレイと葛藤していた。ネオ・ジオン艦隊の旗艦レウルーラを率いる艦長ライル大佐は、狭い戦闘ブリッジに身体を深くシートに預けて、戦術士官ナナイ・ミゲル大尉の肩を揺さぶり声を掛けた。「おい!ナナイどうした?」ナナイは、場所も憚らず激しく動揺して嗚咽しながら「大佐の命が消えて逝きます…。」と言いノーマル・スーツのヘルメットバイザーを開いている彼女の両眼から大粒の涙が無重力の戦闘ブリッジに揺れて漂う。ナナイは顔を両手で隠した。両肩は微かに震え身体を丸めた刹那、通信員が「アクシズが、地球から離れて行きます!」と興奮状態で叫ぶ。ライル艦長は「そんなバカな?!」と眼の前のディスプレイは、二つに分断されたアクシズが濃緑色の光に包まれ互いに引き寄せられてゆっくりと地球から引き離されて行く。更に濃緑色は、地球周辺へと広がり、リアルタイムで映し出されて絶句した。ナナイをしり目に、ノーマル・スーツを着用した身体が戦闘ブリッジへ流れて、ライル艦長のバイザー越しに顔を当てた人物が命令した「ライル艦長、全部隊に後退を急がせろ…現宙域より離脱する!残存艦に対してレイザー通信を開け」ライル艦長は、隣で泣きじゃくるナナイをチラりと横眼で確認して「シャア大佐を収用していません!アクシズの残骸がジャマでモニターに捉えられないのです。」身体は、反射的に立ち上がりを促す。命令したノーマル・スーツの人物は、政治顧問(文官)ホルスト・ハーネスであった。政府高官としては最高位だったが、ライルも艦長兼任艦隊司令(武官)として軍の立場ではシャアに次ぐNo.2の位の幕僚であった。ナナイは、大佐を公私共に支えるパートナーで在り政治と軍事に属していたが軍事的な階級はライルより格下の立場に置かれていた。ナナイの方から公私混同の意向を察しての措置だった。軍内部ではシャア大佐のパートナーである事は既に承知の事実であったが建前上それに徹した。ハーネス政治顧問は興奮して口調が強くなる「それは承知の上…大佐の捜索を継続しつつ後退だ…大佐墜ちるの誤報が駆け巡れば我々ネオ・ジオンの存立はあり得ない…いいな?!命令を遂行しろ。」と念押して航海長と副長に艦橋ブリッジへ上がる様に促した。彼らは、ライル艦長の命令を求めた。ライル艦長は「戦闘中に政治家が口を出しては困ります…私が指揮を部下に出します!」と再び腰を下ろして艦長席に座り直した。ハーネスは、ライル艦長の耳元に「現状ではこれが最善策だ大佐に、もしもの時はと政治顧問の私に託された…忠誠心の高い貴官もそのメンバーだったが、軍率に邁進してほしいと、ナナイがメンバーから外したのだ。」と小声で呟いた。ライル艦長は、ハーネスを大きな瞳で凝視した。ハーネスは今度こそと口を真一文字にして、無重力の身体を戦闘ブリッジから艦橋ブリッジへ身体を勢い上昇させて流した。ライル艦長は、副長と航海長を上へと指揮しつつ、項垂れるナナイを見つめ現実が一瞬遠退いて行く錯覚を感じた。
ライル艦長は、通信員に対して「赤色発光(後退)後、白色発光(撤退)弾打ち上げ開始、各モビル・スーツ部隊は、近辺のムサカへ発着する様に再度通達!」ライル艦長は、シャア大佐の帰還を強く願った。

☆黒色のギラ・ドーガを先頭にした10機の部隊は、核パルスのない分断したアクシズの残骸に真紅のモビル・スーツが横たわるのを確認した。隊長機であるブレードアンテナを登頂部に付けた黒色のギラ・ドーガが真紅のモビル・スーツに接近した。部隊に警戒体勢を敷かせた。先に部下のバシリウス軍曹のギラ・ドーガが先頭に立った。部下は接触回線を開いていい放った「隊長、頭部のコクピットブロックが放出された形跡が見えます。」と黒色のギラ・ドーガのコクピット(360度全天視界モニター)パネルの一枚に部下の顔が写し出されて、隊長と云われたパイロット・スーツが、リニアシートから少し身体を浮き立たせたて覗き込んだ。部下は続けて「非常に申し上げ難いのですが、モビル・スーツの損壊状況からして、生存の可能性は絶望的かと?!」部下が悔しげに顔を伏せた。隊長と云われたパイロットは「機体は回収する。私と大佐は「ジオンの再興」の盟約を結び行動を共にした…大佐が行方不明だとしたらむしろ好都合である!ガトー少佐の遺志を継ぎ今度こそネオ・ジオン軍の主導権を握るのだ。必ず行動を共にする者は現れる筈である。その時こそ、私たちがジオン中興を握る!」全部隊に直接回線を開いて語り掛けた。彼の名は「カリウス・オットー大尉」かつて「ソロモンの悪夢と二つ名は、連邦軍に恐れられたアナベル・ガトー少佐」直属の部下にして、唯一の生き残りであった。カリウス大尉に慕う部下もまたガトーやカリウスを教官とした当時の学徒生であり、総帥ギレン・ザビ最後の残光であった。