[[どんな戦いにも、両者が負けたと想うときが訪れる。そこから攻撃を続けた者が勝利するであろう(旧アメリカ合衆国第18代大統領ユリシーズ・グラント)]]


旧世紀の時代、一発の核弾頭の誤爆が世界の秩序を変えた。


地球上の全土は、長期戦争と気候変動に拍車を掛けて、貧死状態に陥った。人々は、地球連邦政府誕生を求めた。そして連邦政府は同時に人類の宇宙植民地化計画を発動して、人類は宇宙を目指して旅立った。


宇宙世紀0040年、地球の総人口は約40%(約50億人)を、宇宙へ移民(スペース・コロニー)を完了。


しかし人類は、神の世紀(旧世紀)を捨てて、宇宙世紀の時代へ移行しても、戦争を止める事が出来なかった。


宇宙世紀0100(ゼロオーハンドレット)年12月31日、サイド3のジオン共和国は、自治権返還に依って戦乱の消滅を宣言する旨であったが、ネオ・ジオン(袖付き残党軍)の蜂起に遭遇して混迷とする日に陥った。


モビルアーマーらしき波状攻撃は、第3軍の宙域に莫大な艦船の破片と隕石が広がり、暗礁宙域と成した。事の成り行きを見定めながら時の過ぎるのを待ち続けた連邦軍の2機のモビル・スーツは、隕石群の影から身を乗りだした。RGM-100aジェムスのコクピット内のリニアシートに身体を預けて、息を小さく吐いたナイジェル・ギャレット少佐は、爆発の光が少なくなっているのを感じて、パイロットバイザーを上げた。額の汗を拭いながら僚機の機体に眼を向けて、360度オールビューモニターパネル(全天視界画像)に映る友軍機へジェムスの手を当てて、お肌の触れあい回線を開いた。「こっちは連邦軍総軍司令所属のナイジェル少佐だ!貴官はどこの所属か!?」と、問うとジェムスへ触れらたRGZ-99リガードのパイロットが「私は、第2軍旗艦所属のパワー・エリオット中尉であります。第3軍支援の為、先行して敵機を撃墜後、新たな敵と遭遇…しかしご覧の有り様です」と返答が返る。リガードのウェブライダー形態がなくなり攻撃能力は4割下がった。かつてのRGZ-91リガズィの後継機として再設計されているとは言え、比重をウェブライダーの攻撃能力に特化した為にモビル・スーツ形態のリガードは、前機種RGZ-95リゼルより劣る。ナイジェルが第2軍長兼艦長メラン中佐の顔を脳裏に浮かばせると、一機をわざわざ先行させたパワー中尉の能力は、折り紙付きと言うことかと心で納得した。爆発が完全に消え殺気すらも遥か彼方へ過ぎ去る感覚を捉えると僚機は隕石群から機体の全てを出した。前方からサブ・フライト・システムMS長距離輸送機「ベースジャバー(通称ゲタ)」の上下に取り付くジェガン部隊の接近をナイジェルとパワーのコクピット画面に友軍マークが示され、僚機はスラスターを炊いて合流した。

ベースジャバーの上部に取り付くモビル・スーツRGM-89Sスタークジェガンのコクピットの前方に敵味方識別信号確認中と表記されると、下部に取り付くRGM-89D高機動型ジェガンのコクピット内のリニアシートへ深く座るエリー少尉が「照合確認!友軍機と判明…デニス中尉、ナイジェル少佐と合流しましょう」と威勢よく声を上げた。デニス中尉も「こちらの照合も確認した。ナイジェル少佐へ合流する…全機編隊を維持しつつ我に続け!」と各部隊へ合図してジェガン部隊が一気呵成に前進した。デニス中尉は、第3軍艦隊宙域内へ入っている筈だが、艦隊を捉えられないので、360度オールビューモニター(全天視界画像)パネルにあらゆるパターン認識の検索を掛けてみたがヒットしないので不安と焦りを感じた。エリー少尉は、ナイジェル少佐の機体が近づいてるのを感じて安堵していた。デニス中尉は、第3軍艦隊の捜索をしながら敵の警戒をしつつ注意深く眼を細めた矢先に不意の無線が入った「中尉!左後方に発光信号確認…あれはいったい!?」上下のジェガンを乗せるベースジャバーのパイロットが、直通回線で伝えてきた。デニスが左後方に眼を向けるとジオン共和国付近から、光が上がった様に見えたのに気づき、力強く一直線へ上がったのを確認してるとふいに思い出したのが「ニュートンの伝記か!」と思わず声を上げた。「エリー少尉、アナハイムのマードックの奴の伝記覚えてるな!?あれは旧公国軍時代の出撃合図で間違いないよな?」とエリー少尉へ返答を求めると「中尉、間違いありません。あれは出撃合図です」と直ぐ返答した。ベースジャバーのパイロットも同意見の返答して来た。旗艦ラー・カイラムのアナハイムエレクトロニクス社マードック・ニュートン、MS全般担当システムエンジニアで戦争嫌いの戦史マニア。「ニュートンの伝記」と称して、パイロットを見付けたらお構い無しと云う風にジオンの戦史授業を頼んでもいないのに押し付けてくる。そんなふざけた奴の話をまともに聞く仲間はいなかったが、顔に似合わずナイジェル少佐は、彼に捕まると耳を傾けていたので、デニス中尉とエリー少尉と僅かなパイロットは、部分的に聞き入っていた。ベースジャバーの操縦士と副操縦士パイロットが間違いないと確信した所で、方向は変わった。デニス中尉のコクピットへエリー少尉の顔が映る「我々はハメられた可能性が高い…ジオンとの戦いなんて聞いてないが、少佐と合流せずジオン共和国へ向かう!かなりの遠周りだが致し方ない…第2軍のジェガン部隊の一部は、旗艦部隊と共にジオン共和国へ向かう!残りは少佐と合流しろ。機長!全速力で何分掛かる!?」とデニス中尉がベースジャバーの操縦士へ尋ねると副操縦士が「早くても30分強です」操縦士は本機を左後方へ傾けて、ベースジャバーのスロットルを全開にして後続機が二方向へ分かれて後へ続いた。デニス中尉は、妊娠中のエリー少尉を気に掛けて、苦虫を噛む想いに狩られながら戦争の拡散が拡がらない様に新妻のエリー少尉へ思いを馳せた…。エリー少尉は、腹部に手を当て「貴女の時代は平和であってほしい」と願いつつ前方の発光信号が消えつつあるのを確認してこれから起こる戦闘へ気持ちを改めた。

ジオン共和国の港口が順次開放されると、黄色に染められたムサカ級を先頭にムサイ改級軽巡洋艦とチベ重巡洋艦の編成で艦隊がラー・カイラムへ近づく。艦橋(ブリッジ)の副長席に座るレーゲン・ハムサット中佐が「ジオン共和国軍の艦隊発進なんて聞いてないぞ!」と窓際に迫る大艦隊を眼にして唸り声を上げた。ロンド・ベル艦隊司令兼艦長(地球連邦軍総司令)ブライト・ノア大佐は、「他艦隊の動きはどうか!?」と、オペレーターへ指示した。オペレーターは、「月面軌道艦隊並び各コロニー艦隊が、急速に後退の模様です」と応える。別のオペレーターは、「ジオン共和国の各コロニーへ警戒中の前衛部隊から緊急入電!全てのコロニーから艦隊発進を確認、指示を呼応う」と応える。ブライトは、ネオ・ジオン(袖付き残党軍)とジオン共和国そして連邦軍の動きは明らかに連動していると、確信しつつも各オペレーターへ「前衛部隊に連絡、各機現状任務を放棄して帰還させろ」と通達した。矢継ぎ早にオペレーターへ指示を出して、ネオ・ジオンの動きを注視した。黄色に染められたムサカ級軽巡洋艦が、旗艦らしく艦橋(ブリッジ)に角飾りが光る。ラー・カイラムの横を何事もない様にすり抜けると各艦隊も同様に、ロンド・ベル艦隊の宙域をすり抜けて行く。真っ直ぐに、コロニーの合間を抜けて、艦隊が陣形を保ちながら進む。ブライト大佐は一瞬目を疑う光景を見て、身体全体が硬直した。ネオ・ジオンと戦端が開かれてる宙域に、のうのうと艦隊のデモンストレーションよろしく連邦軍の各艦隊は、一発の砲撃さえもなかったからだ。別のオペレーターがディスプレイのタッチパネルを操作すると予測宙域に「新たな情報あり!」と発する。「艦影確認…称号データ解析…!?ムサカ級…エンドラ級…民間貨物船…縦陣形で、高速移動中…ネオ・ジオン軍と思われます!」オペレーターが、椅子を艦長席へ振り向けて、ブライト大佐へ報告した。ブライト大佐は、先ほどジオン共和国から発艦した共和国軍はこれ等との合流または交戦の可能性が大きいと算段した。副長のハムサット中佐が艦長へ視線を投げ掛けた瞬間、艦橋(ブリッジ)窓越しの上部大型パネルに、ジオン共和国自治権返還式典列席中のジーン・コリニー・ジュニア地球連邦軍統合参謀本部議長の顔が写し出された。艦橋(ブリッジ)要員の全員がコリニーの顔に釘付けになった。コリニーは不適な笑みを見せながら語り掛けて来た。「ブライト大佐、地球連邦軍総司令の任務ご苦労。つい先ほど諸君らを横切ったジオン共和国艦隊は、ネオ・ジオン軍討伐の為に、ジオン共和国ロベルト首相自らが差し向けた艦隊だ。諸君等(ロンド・ベル)の手は必要ないとのこと…諸君等は残存機の回収に当たりつつ、警戒任務の継続を維持せよ。連邦大統領ゴールドマン閣下もそれを望んでいるであろうからな…他の艦隊は私の命令でサイド3の宙域より離脱させた。今日の戦乱で万が一、死者を増やすにしても意味のあることでなかろう。諸君等とネオ・ジオンの交戦は、不運な出来事としか表現しようがあるまい…。スキゾ・フレニア大佐…彼の演説には私も酷く失望させられた。彼の様な「シャアの亡霊」がいる限り、地球圏の平和はやはり脅かされ続けるであろう…4年前にもシャアの再来を騙る輩が現れ、やはり敵味方問わず多くの死者を出した。今日シャア・ダイクンへ死の鉄槌と、ジオン共和国の解体…正に宇宙世紀100年の節目…相応しいと思わんかね?ロベルト首相、自らその選択をしてくれた彼とその内閣は、ジオン共和国と連邦軍並び連邦政府の歴史へ「平和の使者」として名を遺すことになるであろう。今後、諸君等が出動する日は少なくなるであろうが、安づることはない。諸君等は「宇宙軍再編実験部隊」として、暫く残す予定であるから安心して、現状任務を継続せよ…以上だ!」と、コリニーは、不適な笑みを再び残し一方的に回線を切った。艦橋(ブリッジ)に重たい空気が滞留しているのをブライト大佐の怒号が、かき乱して「回線を繋げろ!」とオペレーターへ指示を出すにもオペレーターは、「ダメです…完全にシャットダウンされています!こちらからでは手の内様がありません。」ブライト大佐は、拳を艦長席の肘置きに激しく叩き落とした後、副長のハムサット中佐へ「後退中の前衛部隊へ新たな任務…ジオン共和国宙域の警戒活動を継続せよ」と命令し各オペレーターは前衛部隊へ暗号化された命令を通達した。

サイド3のスペースコロニー群が遥か後方になりつつミノフスキー粒子下でもジオン共和国から艦隊が発艦された様だと認識して、初陣のシュタイナー少尉は焦っていた。アンジェロ少佐のAMS-138クランケン・カッセを先頭に親衛隊仕様機のAMS-135クランケン・ハオス3機が編隊を組み、旗艦艦隊を護衛しないで、ジオン本国を離れて、全く方向違いの月方面へ進行中なのだ。前方の親衛隊長機アンジェロ少佐の機体AMS-138クランケン・カッセを、360度オールビューモニター(全天視界画像)のパネルの一部を拡大して少佐の機体を凝視した。同じく編隊を保つモンケ中尉が気負いな声で現状の急激な変化に対してアンジェロ少佐へ応答を求めた「少佐…アンジェロ少佐…聞こえますか?」アンジェロ少佐は、虚空の常闇をただ真っ直ぐ前だけ見ていた。クランケン・カッセの機体が程好く揺れる感覚を、リニアシートから伝わる身体で感じながら、再び暗礁宙域でフロンタルの亡骸を抱き締めさ迷ったあの日へ想いを馳せていた。

(ローゼン・ズールのコクピット内リニアシートで漂う、アンジェロ大尉(当時))

アンジェロ少佐は、シャアの亡霊フレニアとシャアの再来フロンタルの顔が自我の中で重なり幻影に弄ばれながら我を忘れ、一種の快感へ浸っていた。モンケ中尉の声は、耳に届かずシュタイナー少尉の声もアンジェロ少佐へ声を上げたが、彼等の声では現実の世界に引き戻せず、二人の士官の声はアンジェロ少佐のコクピット内で虚しく響き続けた。ヘルムート大尉が語り始めた「アンジェロ少佐…4年前の戦闘…覚えていますか?アンジェロ少佐の機体ローゼン・ズールを回収部隊として真っ先に発見したのは私でした…。少佐のローゼン・ズールはコクピット周り以外に損傷箇所は見当たらず…直ぐにも機動しそうでした…。私が率いた回収部隊は直ぐ様、残存艦隊で唯一稼働中のムサカ級エルザスに収用…少佐を治療室へ通し直ぐ様なけなしの薬品を投与しました…戦闘終結間もなく損傷して収用ままならないモビル・スーツは、放棄またはワイヤーで固定され、放熱板やエンジンブロックをもぎ取られて移動不可能な各艦船は宙域を漂い…重軽傷者は、艦内外の至るところに居ましたが、親衛隊長の生存は我々ネオ・ジオンの希望でした。ネオ・ジオン軍(袖付き)存続の要…貴方が、ネオ・ジオン軍…我々の希望と成った瞬間でした…。貴方を信じて、戦後潜伏期間を経て来れたのです。少佐…貴方はフレニア大佐をフロンタル大佐と重ねて居る様ですが…私は…別人の様に思えます…少佐…アンジェロ少佐!貴方は気づいている筈です…眼を冷まして下さい!!貴方は我々を率いて再び立ち上がったと決めた男だ!私達を忘れて貴方だけ遠い世界へ行くのですか?現実から眼を背けるつもりですか!?そんな事は許されない…ネオ・ジオン軍民は、貴方の双肩に懸かっているのです!」ヘルムート大尉は、モンケ中尉とシュタイナー少尉の鼓膜が破れるかごとき強めの口調で声を荒げた。アンジェロ少佐の意識が急速に現実へ引き戻されて幻影は脳裏のフレニアとフロンタルの顔を急激に引き裂き自我を認識しようと五感が活動して、深く座るリニアシートで、身体を悶え思わず口から液体を吐き出して、声とも言えない雄叫び上げた。フロンタルの記憶が遠く離れたアンジェロ少佐は、両眼を動物が威嚇する様な目付きで首を横に何度も振って、パイロットスーツを両手でかきむしながらヘルメットを力強く脱いだ。ヘルメットは、コクピット内をさ迷った。パイロットスーツの首もとのジッパーを少し降ろして、もがいた。アンジェロ少佐は、叫ばずにはいられなかった…。アンジェロ少佐の両眼から大粒の涙がコクピットをさ迷い「大佐…新しい薔薇…を」一言呟いた。3人の親衛隊員は、アンジェロ少佐の嘆きの叫びを黙って受け止めた。ジオン共和国は既に視認出来ず虚空の宙域に4機の機体が星ぼしの輝きと同化した。

月方面の宙域を静かに航行する一隻の民間の偽装貨物船ガランシェールⅢが、ゆっくり停船しようとしていた。偽装貨物船の船橋(ブリッジ)では船長と数名のオペレーターが詰めて宇宙用ノーマル・スーツに身を固め終わった。オペレーターがディスプレイを操作すると「前衛部隊…集合ポイントに到達の模様…袖付きからの応答ありません」別のオペレーターが「連中いませんね?」と船長へ問う。船長がオペレーターに「奴ら(前衛部隊)の動きを注視しろ!それで察しがつく。」と返答した。更に別のオペレーターも疑念の顔を向けて「本当にやるんですか?」と訊ねる始末。船長がイラついた様子で返答を更に返した。「お前ら腹を括って参加したんじゃねぇ~のかよ!?今さら引き返せないぜ!クワニ、アイバンお前らも聞いてるか!?トムラ!オマえは、最近嫁さんに子供ができたばかりの身だろ?俺は参加の意思は訊ねたが、無理強いして連れて来た覚えねぇ~よ。」クワニとアイバンそしてトムラは、かつてのガランシェール隊員だ。連邦から恩赦を捨ててまで参加する戦争ではない。しかし彼等も見届けたかったのだ。ジオンの最後を…その一身で参加した。船橋(ブリッジ)のオペレーターがディスプレイの反応に気付いて報告を読み上げた。「キャプテン!前衛部隊から報告…袖付きと接触した様です…作戦開始へ移行との事です。」キャプテンと言われた船長の口許が緩み、各オペレーターに命令を伝達する「さぁ~迷ってないで仕事だ。俺らのやるべきことはお前らも十分承知の筈だな!」と、掛け声が船橋(ブリッジ)に響き、各オペレーターの迷いは消えて、顔が引き締まった。各々は、ディスプレイに向き合った。偽装貨物船は、完全に宙域で停止して、岩礁地帯に隠れた。前衛部隊は、各機シャクルズと云われるMS長距用輸送機(サブ・フライト・システム)に搭載され遥か彼方の宙域で、アンジェロ少佐率いる袖付き残党軍に接触し、地球から宇宙へ戻る残存部隊の回収作戦へ就いた。キャプテンと呼ばれた船長の言葉が跳ねた「いよいよ化かし合いの始まりだ。袖付きの連中うまく乗って来るか?」と、左側の眉間がピクリと上がり笑顔ともつかない顔を作って、自分を納得させた。「俺がキャプテンねぇ~…キャプテンは、オヤジだったんだけど…。」クスリと照れた船長は、脳裏にスベロア・ジンネマンの顔を浮かばせた。俺もそんなに老け込んだのかと想いながらフラスト・スコールは顎を手で触りながら複雑な気持ちに浸かった。

地球から這い出た人類が、宇宙に進出してスペース・コロニーを当たり前の大地とする生活に適応して、何ら違和感も感じなくその時代は、満100年の年を迎え様としていた。宇宙世紀0100(ゼロオーハンドレット)年を巡る間、人類が犯した地球規模による環境破壊は、地球が自力で再生する能力を遥かに上まっていた。人類のエゴがそうさせたのか人の営みのその果てに行き着く先が一度の核戦争、そして二度のコロニー落としと、一度の隕石落としだった。地球の温暖化は海水の上昇に勢い付かせて海抜の低いかつての国家や地域を没し、アフリカの更砂漠化はかつて連邦政府の首都だったダカールを飲み込み中央アフリカ越えてコンゴの喉元迄迫っていた。北極と南極の夏期は氷雪を維持出来ず、哺乳類を始めとした動植物の絶滅に歯止めを掛か蹴られず、連邦政府はただ成す統べなく地球の自然再生能力に期待して放置し続けた。連邦政府の主要な機関は月に移動していたが、地球から宇宙を支配する権利を手放す気はなく連邦政府は、反政府勢力に対抗出来る機能を残す為に事実上首都を地球に置き続けた。旧トルコ共和国のイスタンブール現在の連邦政府の首都はそこにある。核戦争に至る前当時のEU(欧州連合)に欧州大陸と繋がるイスタンブール地方だけが先行して、部分合流を認められた。旧トルコ共和国は世俗的な国家だったとは云えイスラームの教えを守るアラブ人主体だった為に欧州統合へ踏み込むことはカトリックの総本山バチカンの威光を撥ね付けられず難しくさせた。欧州大陸と接したイスタンブールを統合させて様子を見ていたが結局、旧トルコ全土が統一される以前に、地球規模の戦線が拡大して、各国家群は解体の憂いを見た。しかしトルコは、歴史的に非常な価値のある地域として、連邦政府直轄の特別区(自治共和国)として国家待遇を継続させていた。しかしそれに拠る一部の特権階級は、バカンスを楽しみながら観光とアクティビティに惚ける巣窟と化していた。いつしかジオンを中心に反連邦政府運動は盛り上がり、再び首都の攻撃を狙うジオン残存部隊が辺りを集結させていた。イスタンブールの旧市街地にあるかつて世界遺産に登録された聖ソフィア大聖堂周辺地域は旧世紀時代から変わらぬ観光地で特権階級のあるスペース・ノイド等にも人気のあり続けた。連邦政府も金に成る地域へ予算を必ず確保して、裁量権も与えていた。イスタンブール大学周辺に地球連邦政府本部のビル群があり、連邦政府主催の中央閣僚会議は、20年振りに執り行われようとしていた。連邦本部ビルの中で一番の大会議場は、旧世紀時代の豪華な美術品が所せましと並んでいて、ビルの主趣向がうかがえる。重々しい扉が明け広げガヤガヤと中高年期に差し掛かった男女たちの一団が、次々と高級スーツに身をかためて入場し指定席に着席する。本部付の高級官僚は、地球の方々(ほうぼう)から特別区の代表等を出迎え、各省庁の担当大臣へ促す。各大臣は、待ってましたと満面の笑みで進んで久しぶりの再会と自らの地位の継続に、笑顔と握手で互いに讃える事に余念がない。マクガバン文化教育振興大臣は、「スキゾ・フレニア大佐の言動に程々参りました。」と、頬に触れるとハイラム・メッシャー健康衛生大臣が、「全く同感です…そもそもなんて不躾(ぶしつけ)な名前なのでしょうか!?」と相づちを打った。外宇宙軍省の幕僚兼代議員のオレノーバ・レストリエーリは「ネオ・ジオンを名乗っていますが、テロリスト同様の輩でしょう!?鎮圧は時間の問題ですね。」と言葉を投げた。ケルケレンゲ科学技術大臣は、「ジオン残存軍の兵器流入を押さえないといけませんね」と指摘した。情報通信大臣のパピヨット・ハルマッチは、ネオ・ジオンに放送網を電波ジャックされて、一部区画が不通を来してる現実を苦々しく顔が歪む。地球軍省のローザン・ブレナー女性海軍司令副官「地球でまた騒ぎを起こすのは困りますよ」と、髪を指で巻きながら視線と顔を同時に褐色の肌の女性に眼を向けると、視線を投げた先に参謀次官ブラッド・レービェ大佐は「全力でお守りします!どうぞ、ご安心して下さい」と満面な笑みを返した。それと呼応して刑事警察機構長官のハンドリー・ヨクサンは「マン・ハンターを動員してジオンの敗残兵ども徹底的に排除致します。」と胸を張った。ヨクサン長官が大会議場の奥に座る老人に視線を投げた。老人の側に控える端整顔付きで長身な青年が、老人の耳元で囁いくと、老人は「あ~また、宇宙(そら)が騒がしいのか?」と呟き、調えられた白髪の顎髭を右手で撫でた。老人は居眠りをしていた様で、目元からずり落ちている眼鏡の位置を戻して、再び青年を呼ぶと各省庁の閣僚や高官さらに地域代表等に着席するように促した。青年の右手が、それぞれのイスへと座すと代表等は指定席に着席した。青年が全員の着席を認めると報告し老人が語り始める。「初代連邦政府首相リカルド・マーセナスから数えて10代目の首相を拝命して4年の時が流れた。旧世紀の時代、連邦政府樹立を唱えたかつての世界政府与党院内総務ジャック・ヒューズマンから2代目の私は、宇宙世紀の成り立ちから現在に至るまでの成り行きを見て来た当事者の一人だ。長い時を生きた私は今出来ることは何もない。自ら一兵士として幾多の戦争を体験したが、政治の世界へ転身後苦難の連続だった。私は平和の有り様を心得ているつもりだ…しかし一政治家としては失政の連続で引退は否めない…次世代へ引き継ぐ時が来た様だ。私の孫娘の夫…は、今、正にジオン共和国の中心に立ち、その自治権返還を見届けようとしている。ロベルト・リヒャインブルガ…別名オットー・ヴァイトリング…血の繋がりはないが、彼の偉業に尊敬の念を興じる。しかし…また、戦乱の風が吹こうとしている。嵐が来る前に止めなければならない…地球から意思を示して、戦乱に終止符を打たねばならぬ…ルートヴィッヒ…我が血統者よ…いかなる手段を持ってしても、戦争の拡大を防ぎ母なる大地を守れ!法に基づきお前に一任する。」と老人が言葉を終えると、青年は大会議場に着席する代表等に眼差しを向ける。中高年の男女の高官は、呼応して一斉に立ち上がり背筋を伸ばして青年を直視した。青年は連邦首相首席補佐官であった。最高司令官レイニー・ゴールドマン連邦政府大統領は、ジオン共和国自治権返還式典列席中で不在、老いた連邦首相は、辞職をしない迄も連邦地球軍を統率出来る能力を執行出来ない為に、首相権限で副首相級の首席補佐官に事実上統率権を譲った。ルートヴィッヒ・ヒューズマンは、事実上連邦政府首相代行として、祖父の威光をの下、ネオ・ジオン(袖付き残党軍)殲滅に闘志を燃やす。

イスタンブールの旧市街地、林立する雑居ビルの中に反政府活動家の集まるバーがある。マンハンターの眼を欺いて集まれる数少ないない情報収集の拠点の一つだ。ジオン共和国の活動拠点の一つでもあり新たな反政府活動を始めた「マフティー・ナビーユ・エリン」の拠点の一つでもあった。20代の男女数人のグループの若者が活動家らしからぬ論議を繰り返していた。彼等には、独立や自治権の要求と云った活動家ではない。連邦政府内部の粛清に重きを措いている。彼等と組んで戦う理念はかけ離れていた。去り行くジオンの活動家は、反政府組織の新興勢力の台頭を感慨の念で見つめた。宇宙世紀は、1世紀を巡ろうとしている。ジオンの名以外の勢力が台頭しても、おかしくはない時代に入ったと元ジオン公国アフリカ方面地上軍参謀は、時の流れにもの悲しさを感じつつ飲み掛けのテーブルのグラスを眺めた。夕焼けに染まる聖ソフィア大聖堂と連邦政府本部ビル群の影が林立する旧市街地を埋めつくして、辺りにポツポツと明かりが灯ると空が急激に暗くなり始めた。

ジオン共和国・1番地ズムシティーから最も離れたスペース・コロニー38番地ケーニヒスベルクの港口に駐留するネオ・ジオン(袖付き残党軍)旗艦レウルーラ(ブラームス)の艦内は慌ただしく成っていた。ロンド・ベルにグスタフ司令貴下の本隊が捕捉されたからだ。ブラームスの艦長と副長はこの様な事態になる事を予想していたのか様め息を吐いた。アンジェロ少佐の任命とは云え、彼の二つ名は別名「敗軍の将」と言う。一度も前線で指揮経験のない男と云う蔑視だ。頼りにならない男が、指揮を執れば発見されるのは時間の問題だった。艦長は、少佐が解任された後引き継いだフレニア大佐がどの様な選択肢を取るか予測がつかないと焦った。フレニア大佐がオペレーターの席へ身体を流して訊ねた「どの位置で捕捉された?」オペレーターは、ディスプレイを解析して「10番地付近かと思われます」と返答した。フレニア大佐は腕を組み艦橋の窓越しの宇宙を見つめた。フレニア大佐は、「レーザー通信を開け。エルザスとロートリンゲンに伝達し更に、グスタフ司令に対して新たな命令を発する」とオペレーターへ指示した。オペレーターは「ミノフスキー粒子が濃いので、本隊へ届くか分かりません」と返答すると「任せる」と推し通した。フレニア大佐は、オペレーター席から身体を後ろに流して艦長席の間の定位置に立つと、艦橋の上部大型パネルにムサカ級軽巡洋艦2番艦エルザスと同3番艦ロートリンゲンの各艦長の映像が現れた。フレニア大佐は「これからブラームスを合流させる。ブラームス合流後、ケーニヒスベルクの裏側から艦隊編成で発進して、私自らモビル・スーツ隊を指揮する!ブラームス合流後、近衛MS戦隊を前衛に第1MS隊発進と同時に続けて、第2MS隊を発進…ジオン共和国・1番地ズムシティーへ進撃する!各艦長は、艦隊戦の用意と各艦の奮戦を期待する!」と言い切ると「グスタフ司令に繋がったか?」とオペレーターへ催促した。画像は荒いがレーザー通信が繋がりグスタフ司令の顔が時折揺れながら通信が繋がっているうちに早口で命令をまくし立てた。「グスタフ司令、本作戦ご苦労!しかしどうやら敵に捕捉されたようだ。済まないが貴官等は、我々が事を起こすまで囮に成ってもらいたい…。貴官も捉えているであろうが、ジオン共和国艦隊が発進された。どうやら目的は貴官等を撃沈することの様だ。ジオン共和国の現政府は、連邦の傀儡…艦隊もまた傀儡の群体に過ぎない…同胞とは想うな!彼等の船には連邦の軍人も乗船しているようだ…見た目に捕らわれるず、臨機応変に新生ネオ・ジオンの軍人の境地とプライドを見せてやれ「宇宙(そら)の会」が、そろそろ合流地点へ到達する頃だ…彼等と共闘して敵を欺いてほしい。」と伝え終わるとレーザー通信が自動的にシャットダウンした。フレニア大佐が、艦橋(ブリッジ)で命令を待つ首席政治・外交参謀カルザス・M・バイヤーに振り向き「ランチ(小型挺)は用意した。予定通り出発をお願いしたい。」と話して深々と頭を下げた。カルザスは、当初の展開とかなり違うことに、困惑気味の顔だがフレニア大佐の「私の意思は事前に話した通り何も変わっていない。」と語ると「了解しました。合流地点でお待ちしています」とカルザスは応えて、身体をを後ろに流して艦橋(ブリッジ)を出て行った。フレニア大佐は艦長へ振り向き「コロニー内を突っ切って、エルザスとロートリンゲンに合流する」と話す。艦長は「レウルーラをコロニー内に入港させるのですか!?」と非常に驚いた表情を見せた。フレニア大佐は続けて「その通りだ…ロートリンゲンは、警戒の為に、コロニーの外壁を沿って発進したが、エルザスは、コロニー内を通過している。安ずるな…ケーニヒスベルク市民は熱烈なネオ・ジオンのシンパだ。そもそも連邦は我々がここに居る事を始めから承知している」艦長はそれでも食い下がり「連邦が承知しているのであれば旗艦であるレウルーラを、市民に晒すのはあまりに無謀です!ご再考を!!」と強く抗議した。副長が「艦長の意見は最もだと想いますが…大佐ご自身は市民にレウルーラを見せる事に何かお考えがあるのでは?」と尋ねた。しかしフレニア大佐は何も返答せず、艦長に「微速前進」と呟いた。艦長はコロニー内を高速航行して、レウルーラを少しでも市民に晒す事を防ぐ様にと考えを巡らせた刹那だっただけに、憤懣やるせなさの心境に陥った。フレニア大佐が「復唱。」と小さく発すると、副長が慮ったのか「微速前進」と復唱してレウルーラが、ケーニヒスベルクの港口へ移動を開始した。ケーニヒスベルク港湾公社の指示により港の3層遮蔽ブロックが次々と開口されて行く。水先案内人にレウルーラを引っ張られてコロニー内に進入すると、地球と同じ重力1Gの空間が広がる。コロニー内は地球に似せて疑似的に風景を展開させている。シリンダーの中に街や森や河が流れケーニヒスベルクはサイド3の中でも珍しいオープン型スペース・コロニーとしてその景観は密閉型コロニーと比べると非常に美しい。ジオン共和国は、スペースノイドの収容人数を一時期上回り密閉型スペース・コロニーが多く建造された。スペース・コロニー内をレウルーラが自由に航行可能な事は、一部の軍艦がミノフスキー・クラフト(反重力推進システム)を搭載しているからである。市街地の空を微速航行する様は、一市民の眼から見ると圧巻と思えるだろう。フレニア大佐は「模擬戦を実施する…王宮近衛戦隊は、発進を準備せよ」と発した声。艦長と副長は再び驚かされた。コロニー内で模擬戦を展開させる行為は市民の命を弄んでいるのではないのかと過った。フレニア大佐の命令に拠ってモビル・スーツデッキは、各機付き長や整備員等が、身体を流して近衛隊の発進準備に取り掛かっていた。フレニア大佐の意向でレウルーラに艦載中の内3機のモビル・スーツを対象に、AMS-135クランケン・ハオス(一般兵士仕様)1機、AMS-129ギラ・ズール(旧親衛隊仕様)2機が、フレニア近衛MS戦隊を編成している。フレニア大佐が直接指揮を執るのに当たって、各機体は、幾つか改修された。AMS-135クランケン・ハオスは、MSN-00iインテルニストの予備パーツの流用とファンネル・ミサイルコンテナを追加装備して、AMS-135Kアポテーケとして完成。AMS-129ギラ・ズールの2機は、クランケン・カッセの武装を追加装備して攻撃能力を向上させた。各機体を整備員がカタパルトへ、誘導を開始する。近衛隊長はクランケン・ハオスに乗り込むゼクスト大尉、その後ろに順次控えて、近衛隊ギラ・ズールのリニアシートに収まるセルム中尉、近衛隊ギラ・ズールのアンダーソン少尉は、射出の準備を待った。最後の遮蔽ブロックをレウルーラがゆっくり通り抜けると、真っ青な青空が現れた。鳥の群れが艦橋(ブリッジ)を横切る。完全にコロニー内へ進入したのである。360度のシリンダーの中に河と云われている強化パネルの列が規則的に並んでいる。河の外側は宇宙を写し出して、その間を市街地が形成されている。コロニー内では大型の動物は存在しない。スペース・コロニーの管理を困難にさせるとの理由で宇宙移民計画時代から小型動物の搬送しか許されなかった。高高度を航行しているとは云え軍艦が空を飛んでいる光景に市民は顔を上げて指を指した。特に子どもたちの反応は大きく初めて見た軍艦に顔を高揚させた。男の子達の憧れはいつの時代も軍人や軍艦に牽かれるものである。敗戦国のジオン共和国民は、時折勃興するネオ・ジオンの雄姿に憧れと尊敬の眼差しを与えていた。子どもたちの情報力は大人より早くネオ・ジオンの軍艦が付近に駐留している事をキッズ端末機を駆使していたので、間近で見られる光景は、天にも昇る様な興奮だ。しかしその子どもたちを引率する教師トラウドゥル・ユンゲは、眼の前に戦火が降り注ぐかも知れないと想像すると軍艦が疎ましく思えた。ケーニヒスベルク私立小学校初等科の社会体験で郊外の旧ジオン軍基地に設けられたプチモビの生産工場見学の帰りの遭遇だった。男の子の好奇心はどこまでも尽きない。一人の男の子が声を上げる「ムサイ改だ!」と指すとすかさず別の男の子は「バ~カ!あれのどこがムサイ改なんだよ!?あれは俺らの尊敬するレウルーラだろうが!」と突っ込んだ。男の子達のグループは軍隊好きが多い。かつてギレン・ザビに煽動されたジオン共和国は、現在も中央から離れたコロニー市民は、ジオニズムの信奉者が多く存在する。それでも敗戦直後、大人たちは手のひらを返した様にザビ家やダイクン家を否定した…旧世紀時代、日本がアメリカに占領された時と同じ大人の論理だ(戦前・戦中を否定し占領軍の命令を肯定)。子どもたちは、大人を信用していない…それが特に現れたのは直近のジオン共和国自治権返還記念日、1週間前から始まった「ジオン記念週間」は、連邦自ら設定して急激に増えた。旧世紀時代の日本に隠れキリシタンが公に公認されたかの様にサイド3内は、堂々とザビ党やダイクン党の復活を宣言した。連邦軍は、そんな状況でも去り行くジオン共和国の虚しき遠吠えとして静閑した。女の子が「何か飛び出したよ!」とレウルーラに向けて指すと男の子達のグループは、見逃しのか「嘘付くな~!」と大合唱…しかし、他の男の子が「あれ~何だ!?」って騒ぎ出すと揃って視線を向ける。直上のレウルーラからMSらしき物体が射出された直後だった。スラスターを焚いているので、男の子達のグループは、間違いなくMSだと確信した。女の子のグループは、教師のトラウドゥル・ユンゲに寄り添うばかりだった。ユンゲは、子どもたちに寄り添いながらプチモビ生産工場へ戻った。妙な感覚を感じたからだ。男の子グループのリーダー格らしき子が「1機降りて来るぞ!」と足早に避難しながら叫ぶと、モビル・スーツは急激に高度を落としてユンゲ等の間近に降下して来た。子どもたちは潰されそうになった刹那ユンゲは「子どもがいるの!」と心の中で念じるとモビル・スーツのスラスターが3回に分けて焚かれ上昇と下降を繰り返しながらプチモビ生産工場の裏庭へ腰から崩れ墜ちる様に不時着した。不時着時には凄まじい轟音と強風が一瞬大地を巻き上げたが、瞬時に辺り一面静かになった。ユンゲ等は工場内に入った直後の出来事だったので一連の出来事の一部を工場内の窓越しから観察した。男の子グループは、ユンゲに「見学させて」と懇願するが女の子グループは「早く学校に戻りたい」と意見が割れる。工場内の整備士が集まり始めてモビル・スーツを見上げた。袖や胸襟に装飾が施された「袖付き」独特のフォルム。ネオ・ジオン軍のMSであることは一目瞭然だった。コクピットが開放されて士官らしきパイロット・スーツが出て来た。ヘルメットを脱ぎ顔をユンゲ等に向けると「お怪我はありませんか!」と大声で叫んだ。男の子グループは「大丈夫だよ~!」と叫ぶと女の子グループは「ぜんぜん大丈夫じゃないよう~!」って返す。ユンゲと整備士等は子どもたちの反応に苦笑いした。始めに発進した2機のモビル・スーツが空中で待機しているとレウルーラからMS長距離輸送機サブ・フライト・システム(シャクルズ)が、カタパトから3機順次発進して2機のモビル・スーツは、各々へ乗り移り、1機のシャクルズに載せた近衛隊のギラ・ズールは哨戒任務に就くのか急上昇してレウルーラと平進した。もう1機のシャクルズに載ったアポテーケと艦載してないシャクルズは地上へゆっくり降下してギラ・ズールの近くに着陸した。ユンゲ等を始めプチモビ生産工場社員が続々とモビル・スーツの周りに集まり、パイロットはコクピットからゆっくりと降下した。パイロットが一歩二歩と歩き出すと誰が声を上げたのか「ネオ・ジオン万歳~!」と叫んだ。社員一同はざわめき老若男女関係なく「ジーク・ジオン!」と連呼しその波はモビル・スーツをとり囲む様にこだました。ユンゲは、異様な熱狂に吐き気を感じる。女の子のグループも大人たちの勢いに飲まれて、肩を寄せあったが、男の子のグループは、大人顔負けに小さな拳を振り上げ「ジーク・ジオン!」と叫んだ。眼の前にヒーローが現れたのだ。無名のパイロットでもネオ・ジオンの軍人には変わらない。袖付きの軍人が眼の前に現れた事実は民間人や子どもを高揚させた。連邦の傀儡共和国軍人とは全く異なる。去り行くジオン共和国内は、ケーニヒスベルク市民と特に保守層が強くネオ・ジオンを支持する数少ないスペース・コロニーだった。中央のズム・シティーからの介入も差ほどなく中央を中心に連邦軍の駐留も長期間は続かず早々に引き揚げられて、中央との交流もほぼなく長い間半独立的高度な自治を行使して保ってきた。フレニア大佐はカルザスやハーネス等の文官を介してケーニヒスベルクの知事と極秘交渉の末、袖付き残党軍の本拠地としていた。しかし知事は、連邦軍とも裏取引してジオン共和国の自治権返還後、連邦政府からの直接援助をサイド3内で一番に導入する様に締結していた。フレニア大佐等は知事の裏取引は承知してたが、あえて乗った体裁を整えた。フレニア大佐は、裏の裏を読み秘匿した。

レウルーラの艦内が騒々しく鳴る。艦長の声が艦内を響かせて「総員、第1種戦闘配置、対空、対地攻撃に備えよ!」スペース・コロニー内を航行しているため、重力発生で艦内の乗組員は走り回っていた。艦長がフレニア大佐に声をかけて「大佐、好き勝手に近衛隊員を展開しては困ります…ケーニヒスベルク市民はネオ・ジオンを支持しているとは云え我が艦は、現在単艦で航行中です…駐留連邦軍が存在しないとは言っても艦内の最高責任者は私です。万が一は私の監督不届きになります…ですから、よろしいですね!?」と念を重ねた。フレニア大佐は微かに笑みを溢して、「艦長の指示に任せる」と応えた。艦長は、一秒でも早くコロニーの反対側で待機中の随伴艦エルザスとロートリンゲンに合流して艦隊の再編成を計りたかった。艦長は、旗艦の撃沈を恐れていたのではなく、旗艦をこれ以上危険な行為に付き合わせたくなかったのだ。始めから負け戦と決まっていたのなら艦隊戦での交戦で終わりにしたかった。フレニア大佐の玩具になるのだけは御免被りたかった。プチモビ生産工場の裏庭へ、不時着したギラ・ズールのパイロットアンダーソン少尉は、市民から握手攻めの歓迎を受けていた。ケーニヒスベルク私立小学校初等科の男子グループは、パイロットを質問攻めにして困惑させた。男子グループは後から着陸した2機のシャクルズにも羨望な眼差しを向けた。毎年刊行される「ジオン軍・ネオ・ジオン軍隊年鑑」は、軍隊好きの男子グループは、キッズ端末機にインストールして共有していたのでデータ上のシャクルズと変わらないホルムに見ても反応は今一だったが、艦載機のアポテーケは、データベースにない機体だった為に男子グループは端末機を取り出して端末機をズームさせて撮り続けた。アポテーケのコクピットも開放されてパイロットがヘルメットを脱ぎ降りて来た。再び万歳三唱の嵐が吹き上がったがゼクスト大尉は手を挙げて万歳を制止した。ゼクスト大尉は、「ケーニヒスベルク市民の皆さんの歓迎に感謝します。我々ネオ・ジオンは、皆さんの意思に少しでも応えることが出来る様に邁進します。今日は、ジオン共和国自治権返還の日です。皆さんご承知かと存じますが、スキゾ・フレニア大佐は、自治権の維持と独立の存続を求めています…我々はフレニア大佐のご意志を具現化するための尖兵です…皆さん共に我々の旗の下に賛同することを心からお願い申し上げます…我々は、岐路の途中です…再び皆さんの前にお会いする時は、新しいジオン共和国軍とし再会しましょう。」ゼクスト大尉は、アンダーソン少尉にモビル・スーツのへ機上を促し、アンダーソン少尉は振り向き様に「皆さん、ありがとう!」と叫びながら駆けてコクピットへ上昇してリニアシートへ身体を収めた。コクピットを開放した状態でギラ・ズールの身体を起こしてシャクルズの方に歩き出し艦載した。ゼクスト大尉は、「皆さん、建物に入って下さい!」と声を掛けながら走り彼もアポテーケのコクピット内に収まった。アポテーケのスピーカーを外音にすると、再び「ケーニヒスベルク市民の皆さん、風圧が非常に危険なので建物内に避難して下さい!」と応えた。プチモビ生産工場社員やユンゲ等の小学生は社内に走り出した。ゼクスト大尉は、360度オールビューモニター(全天視界画像)を起動させてあらゆる方向に人が取り残されていないかを確認してからシャクルズを発信させた。2機のシャクルズは、モビル・スーツを艦載した為に激しく辺り一面に突風を巻き返して一気に急上昇した。ユンゲは、ネオ・ジオン軍が過ぎ去ってくれたので胸を撫で下ろした。男子グループは、束の間の興奮から覚めない様で直近で撮り溜めたネオ・ジオンのモビル・スーツの話しで盛り上がっていた。ユンゲは点呼を始めるので子供たちに号令を掛けた。名前を呼ぶと手を挙げて返事が返る。いつもの光景に安堵するのもつかの間、男子生徒ペーター・クラウンツと女子生徒アナスタシア・ニコラエヴァナの声が返ってこない。ユンゲは、プチモビ生産工場社員に子供が居ないと告げて、協力して、工場内を叫びながら捜したが見つからず、まさかネオ・ジオン軍の飛行機に潜り込んだのかと驚愕な予感が心を過った。ユンゲは成す術もなく腰を抜くかのごとき座り込んだ。プチモビ社員等は天を仰ぎ彼方を航行する艦影を捜したが雲海に遮られて時折眼で追うこともままならなかった。既にアポテーケとギラ・ズールを艦載したシャクルズは遠く離れた空域を航行するレウルーラに合流しようとしていた…。


ネオ・ジオン艦隊の本隊を預かるグスタフ司令は、スペース・コロニー群が、ひしめき合う戦場で指揮する事を予想してなく酷く動揺した。母国のジオン共和国の宙域で戦端が開かれその相手がジオン共和国艦隊となることは、想像を越えていた。宇宙(そら)の会からの連絡がない事も更に焦りを強くした。敗軍の将と影で罵りられた日々を挽回するチャンスがようやく巡って来た筈だったが、相手が連邦軍ではなく味方同様のジオン共和国艦隊だとは、何の因果かと考察した。しかし考えてる時間はないグスタフ司令の下に数万の将兵が控えて居る。無駄な死を遂げて欲しくない。グスタフ司令は、「ルビコン川を渡るという旧世紀時代の歴史に思い馳せながら、フレニア大佐の命令を遂行して、ジオン共和国を再建するのだ。」そう自分自身へ言い聞かせた。ジオン共和国艦隊の光が目視で確認出来る程近付いた時、宇宙(そら)の会の報告を待たづに命令を発した「ミノフスキー粒子戦闘濃度散布…各艦へ通達、縦陣形から対艦隊陣形へ移行しつつ第1MS隊、第2MS隊、戦闘態勢!各艦砲撃用意。」意を決したグスタフ司令は、艦長へ振り向き「各艦砲撃開始!」と右腕をほぼ真横の宙域に共和国艦隊がいるであろう方向を指した。


宇宙世紀0100(ゼロオーハンドレット)年12月31日、サイド3のスペース・コロニー群の狭間で、ジオン同士の戦端が開かれた瞬間だった。ジオン共和国民は、一年戦争時代でさえ体験しなかった戦争を眼の前で繰り広げられる事に驚嘆する(第3章・翻弄と混迷(完結))


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機動戦士ガンダム-0100THE LAST DAY-(非公式オリジナル小説)は、機動戦士ガンダムUCの小説の続編として重きを置いていましたが、アニメ(映画)を見た結果両方が混在し、尚且つ私の意思も入りオリジナル性を高めています。