ケーキを選ぶとき、その人の気分が少しだけ透けて見える。
それはたぶん、今日をどんな一日にしたいか、という小さな意志の表れだ。


カフェのテーブルに並んだ、ふたつのケーキ。
ひとつは、ねっとり濃厚なガトーショコラにたっぷりの生クリームがのったもの。


もうひとつは、焼き色のしっかりついたチーズケーキ。どちらも、正解の味が約束されている安心感がある。

それでも、選ぶ人によって、手が伸びる先は違う。

私はガトーショコラを選んだ。今日は甘さに沈みたい気分だった。

コクのあるカカオが舌に広がるたび、深呼吸をするように気持ちが落ち着いていく。

友人が選んだのはチーズケーキ。軽くて、酸味のあるほう。

「今日は重たいのはいいかな」と言いながら笑っていた。

バスクチーズケーキってわりと重たくないか

同じテーブルの上で、それぞれが違うものを選ぶ。

それは相手と違っていたいわけでも、優劣があるわけでもなく、

「いまの自分にちょうどいいもの」を自分で選ぶ、というささやかな自由。

ケーキという小さなかたまりに、それぞれの心の風向きが宿っている気がした。





似たように見えても、誰かと自分は、ちがう一日を生きている。
それでいいし、それがいい。