ア・ウィスパー・アンド・エスパー・ジャム?
「…何してんの? 吉乃さん?」
「んっ? 洗濯。洗濯機回そうと思って、今からフタ閉めるの。明白だよね? 見て分からない? 圭樹春海くん…、じゃなかった、ケーキくん?」
「(…スゲえドヤ顔。洗濯機回そうとしてるのぐらい、見れば)
んっ? 分かるよ~♪
(でも、イチイチそー言う事突っ込んでたら、ネチネチ絡んでこられそうなイヤ~な予感がする…。今の吉乃さんの雰囲気からしたら。
何だか知らねえけど、今朝の出勤前から機嫌悪いんだよね。ご帰還しても機嫌の悪さが持続してるなんて…、どした? 何かビタミンカルシウムリンでも足りてねえのかな? これは何か美味いモノでも食わせて、栄養を補給させる必要があるなあ…。まあ、ちょうど良かった。なんたって-。いや、それより~。
-ああ、でもご機嫌斜めでも、いや、どんな状況でも、何だってこんなにキレイなんだろうねえ~…、 無造作に下ろしてるだけの長いサラサラの髪も、メイク落としてスッピンちゃんになっちゃった、あどけないばっかりの切れ長のお目々も、どうしてこんなに僕たん好みのクールビューティー♡ く~っ、たまんねえわ。
それにしても何かに似てるよな…、今の吉乃さんは何かに…、何かに…、何だろ? えっと…、
分かった! あれだよ、あれあれ-、チーター、いや、違うな、それの子供…、子チーターだ! あのコロコロ動き回って、時たま静止しつつ、興味深そうに対象物をジッと小首眺めて観察してる、カワイイ、カワイイ、カ~ワイ~イ子供チーター!
く~っ、たまんねえ、ハグしてえ-、いや、もっとそれ以上の事がしたい、あんな事やこんな事ブツブツブツブツ-…、
あっ、ヤバっ。僕たんの僕たんが暴れん坊になりそっ。同じ部屋で寝起きしてんのに、まだまだプラトニック(カ~ワイイ響きだよなあ、おい~)な関係の俺らだから。がっついて以前(まえ)みたいに嫌われないように、とりあえず、別の事考えなきゃ。
あ~っ、来週の仕事の予定あれやってこれやって水道の蛇口の調子が悪かったからまああれぐらいなら俺でも直せるだろうなあと電化製品消耗品ストック食料品のチェック-、ハッ、何で俺こんなに家庭的なんだ? 所帯じみ過ぎじゃね?
ああ、プラネタリウムにでも行って現実逃避してえなあ…。イスに座って夜空見上げて、ボ~っとして、リラックスしてえ…。ハッ、こんな願望持つなんて。仕事に神経使いすぎて疲れてんのかな、俺も。
だ~か~ら、こー言う時は、もうノータッチ。別の話題にチェンジ~♪)
(ちなみに。圭樹くんがここまで考えるのに、ものの一秒もかかっていない事をご報告しておきます。by 天の声)
…いつもちゃんと家事こなしてくれて、ありがとう。感謝してるよ、吉乃夏美さん~♡
でも、こんな夜中に洗濯機回そうとするのは、ちょっと良くないんじゃね? 洗濯機の振動音が、下の階にスゲえ響きそうだよ~。
俺らの下の階と言えば、誰だったっけ? えっと、確か-…、
とにかく。俺は明日から会社休みだから。朝になったら洗濯機回しとくから。もう今夜は遅いから、吉乃さん、ゆっくり休んで…」
「…」
「どしたん? 黙り込んで。腹でも痛えの?」
「…痛くない」
「じゃ、どして、黙ってんの? 何かそー言う苦行でもしてんの? Sキャラのあんたの苦行ってどんなん?
自分をムチでぶつ、とか、アタマを壁に打ちつけるとか? それともドMの僕たんに、そんな事を強要して、したくない!したくないんだ~っ!やめろよ~っ、なあんて苦しい顔をさせるのが楽しくて仕方ない、とか?
奥深い上に、ハードな趣味だねえ、プレイの道を極めてんなあ、おいおい…」
「-見てない」
「えっ?」
「Sキャラとか、ムチとか、壁にアタマを打ちつける、とか、ドMとか、ハードとか、プレイ、とか。そんなヘンタイバカ話、どうでもいいからっ。
ケーキくんのアタマの中には、そんなワードしかないの? よくそれだけ口が回る…。って言うか、本題。
カレンダー。テレビの横の壁に吊してるカレンダー。見てないの?」
「…ああ、あのガソリンスタンドでもらったって言ってた、ワンちゃんニャンコのカレンダー? 12匹のワンニャンエンジェルズに癒されるよねえ~。
ちなみに俺はチーターが好きだよ♡」
「私はジャージー牛が好き♡ 顔が可愛くて癒される~♡…、じゃなくてっ。
そんなの聞いてないし、好きな動物を披露するコーナーじゃないからっ。
カレンダーの明日の日付に書いてたんだけど、私の予定。…見てないの?」
「明日-、明日、明日…、明日と言われれば…、9/23? 金曜日だよね。秋分の日。祝日。今年(令和4年)は大安。
ん~っ、何だろ? …あっ、分かった、分かったよ~♡ 吉乃さん♡」
「分かってくれた? やっと話が通じた?
(ここまで来るのが長かったわ…)
そう、あのね、私-」
「吉乃さんの会社の上司の副課長の妹さんの友達のいとこの結婚式がある日だよね!? 大安吉日に式場取れた、ってスゲえ喜んでた、って吉乃さん教えてくれたじゃん?
何だよ~、そんな他人事で盛り上がるほど結婚式したいなら、俺に言ってよ~。すぐにでも式、挙げたげるから。何だったら、今から式場行って連休中に挙式する?
さっ、行こっか。行こ行こ♪」
「うん、行こ行こ♪ …じゃ、な~く~て~っ。もう、やめて~。話があちこち飛んでアタマが変になりそう~。
なあに、が挙式よ、連休中に式、挙げようか? よっ。
副課長の妹さんの友達のいとこ(長っ)の結婚式の話は確かに本当だけど、私が言おうとしてるのは、そんな遠い関係の人の話じゃないからっ。おめでたい事だけど、今の私には、ちょっぴりどうでもいい事だからっ。
じゃなくて。私がカレンダーに書いてたのは-」
「-分かってるよ。ホントは」
「分かってくれてた? よかった~」
「明日からお休み、でしょ?」
「見てくれてたんだ…。何、もう変な事言い出すからビックリした…、私、ケーキくん、ホントに分かってないのかなあって悲しくなりかけた-」
「冗談だから。ちょっと笑わせてあげようと思って、フェイントかましただけ。
あと、少し知らんぷりして意地悪してみたくなっちゃったんだよね~。で、ドMの俺を叱りつけて欲しくなっちゃったんだ。
でも、そんなにムキになって怒るなんて思ってなかった…。
(それでもさあ。息を荒げて怒る様子も、スラッとした牝馬がプンプン鼻を鳴らしてるみたいで可愛かったなあ…。人参あげたら喜んで食べてくれそう。懐かないお馬さんが、僕たんにだけ懐いてくれる夢のような展開、たまんねえなあ~、
あっ、また、僕たんの僕たんが…、暴れん坊の予感。
ヤバい、他の事、他の事に意識をそらして~)
(⬆️結局。自称ドMの圭樹くんは吉乃さんに骨抜きなので、どんなに怒った鬼のような形相でもアバタもエクボで、可愛らしく見えてしまうご様子 by 天の声)
そんなにすねた顔しないで。
…はい、これ」
「…えっ? これ、って-」
「ちょっと遠いけど、ホテルでのランチ券。明日、一緒に行って、ご飯食べよ?」
「-えっ、でも、これ…、私が行ってみたいって話してた、美味しい和食を食べさせてくれる、お店の…、どして?
って言うか、覚えててくれた、の…?」
「トーゼン。俺が吉乃さんの言葉をチェックし忘れるワケねーじゃん。
…ほら、俺、この前、同僚の結婚式に出たって言ったじゃん? その時の引き出物の本に、ちょうどこの店のランチ券が載ってて。
これは吉乃さん、喜んでくれるわ~って思ってさ。ランチ券、郵送してもらったワケ」
「-ケーキくん…、」
「吉乃さん、疲れてるみたいだから。お休みなんだよね? 明日から金土日月と。4連休。
ビタミンカルシウムリンでも足りてねえなら、何か美味いモノでも食って、栄養、補給しようよ」
「ケーキくん、そんな事考えてくれてたの…。ありがとう。
(ああ、やっと話が通じたのね、良かった…。ケーキくん、トークが長いし、あちこち飛びまくるから疲れる…。本当に嬉しいんだけれど、これも本音なの。ごめんなさい…)
私、忙しくてなかなかお休みの見通し立たなくて。ようやく予定を書き込めたのが、三日前で。リビングのテレビ横のカレンダーならケーキくんの目に触れるかな、って…。
でも、ケーキくん、何も言ってくれないから、分かってないのかなあ、って」
「私に興味がないのかなあ、って-とか、自虐ネタに自爆してた、とか?」
「…」
「当たり、かな? パソコンやスマホのスケジュール表に書き込む、って手もあるけど、まあ、確かに二人っきりの俺らみたいなパターンなら、カレンダーに書いた方が早いだろーね。
…三日前から気づいてたよ。あんたの書き込み」
「ケーキくん、私からも誘っていい?」
「んっ?」
「ランチ食べた後、プラネタリウムに行かない? ちょっと夜空の星を眺めながら、リラックスするとか-」
「-」
「どしたの? 驚いた顔して」
「…いや、何で、プラネタリウム…、リラックス…、エスパーかよ、吉乃さん、あんた?
俺の心、読んでる?」
「? 何言って…、
エスパーじゃないけど。ケーキくんのウィスパー(囁き)ぐらいは聞こえるよ」
「ウィスパー?」
「寝言で。言ってたよ。プラネタリウムに行きたいんだよ~、って。
たまたま、ソファーでうたた寝してたケーキくんの側に座ったら、そんな事、囁いてた…」
「…」
「…わっ! 何、急に抱きついてきて!? ちょっ、暑苦しいから離れて-…」
「-、」
「何? 何か言った? 耳元で囁かれると、くすぐったい~」
「“あんたは俺の孫の手”、って囁いたの。カユいところに手が届く、絶妙な孫の手。
だいたい、寝言の囁き、とかって、なんて色っぽいシチュエーションなんだよ~。
夏美~、あんたはいないと困っちゃう、俺の必須アイテムだよ~」
「(…孫の手って、おばあちゃんちにあった、クラシカルな道具の事かしら? それに例えられるのって、喜んでいいのか、どうなのか…、まあ、喜んでくれてるみたいだから、いいように考えようっと♪)
(⬆️本当に前向きですね、羨ましい。 by 天の声)
必須アイテム、って-、嬉しい事言ってくれる~♡ 私もケーキくんが必須アイテム~♡ 私たち、休日ぐらいしか一緒にいられないから、ケーキくんとの時間は本当に宝物だよ~。誰にも何にも邪魔されたくない~。
-って、おバカちゃんだね、私たち。バカップルになりすぎ。急に恥ずかしくなってきた…。
ケーキくん、私のたわ言は聞き流して…、」
「ん~っ? そんなもったいない事しないから」
「…ケーキくん?」
「-マジだから。
俺ね、さっき、あんたがこんな夜中に洗濯機回してる理由も、ホントは分かってた-」
「えっ?」
「あんたは、休みの前の夜、必ず洗濯をする。あんた自身無意識の行動なんだろうけど、例えハンカチ一枚しかなくても、必ず、ね。
理由は一つ。さっき、あんたが宣言した通り。
俺との時間を、誰にも-何にも邪魔されたくないから。家事に割く時間さえもったいないほど、あんたは、俺が好きなんだよなあ。本当に」
「…図々しい~。言ってて恥ずかしくない? 自信過剰~。いくらカッコいいからって、ケーキくんでも、言って許される事と許されない事が-、
この、自意識過剰っ。聞いてて痛いわ」
「全然~。痛くないから~。つか、カッコいいって…、ありがとう。
-マジでさあ。
カレンダーの予定を見る必要がないほど、俺はあんたをチェックしてるし、知り尽くしてるよ。
過去のデータが、囁き(ア・ウィスパー)が、あんたの未来を、現在の俺に教えてくれてるから。
僕たん、本当にエスパーじゃねえの? って言うぐらいね」
ア・ウィスパー・アンド・エスパー・ジャム?
the end