アフター・セルフ・ジャム? Ⅱ | 。゜・アボカド・。゜の小説&写真ブログ アボカリン☆ のお団子ケーキティータイム♪

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アボカド、お茶、藤井風ちゃん、書き物が好きです。お話(オリジナルの小説)、etc.書かせていただいています☆お団子やクッキー、ケーキ片手にお読みいただければ、幸いです。







―圭樹春海曰く―"スイートナイトライフ"のおりに囁く恋人仕様の呼び方―夏美夏美夏美―を、何度も繰り返した後の軽口に対し。

吉乃夏美は、青白い頬をわずかに赤らめて抗議する。

「…それは、圭樹くんが寝ててもいろんなところ触ってくるからっ。仕方なく反応して起きちゃうんじゃない…。だいたい、今だって何? 朝からイヤらしい顔して変なトコ触ってこようとしてるし~。ホント、イヤらしい顔―」

照れんなよ、と圭樹春海が、どこ吹く風で口を挟む。

「そんな顔の俺が、好きなクセにぃ」

「…はい? 何かおっしゃいました?」

「でもさ。マジな話、胸がつかえてメシ食えなくなるぐらい、一体何考えてんの? 仕事? …もしかして、俺の事? 
だったら参っちゃうな~。Sキャラの吉乃さんが僕ちゃんの事考えてメシもノドを通らない、だなんて…。僕ちゃん、嬉しくて、ヘブン~♪」

「…どうして、毎回毎回いっつもいっつも、朝から幸せそうなピントのズレた発言ばっかり…。疲れる。ポジティブ思考の圭樹くんが、私、本当にうらやましい。見習いたいぐらい」

「あれ? 俺の事考えて胸がつかえてたんじゃないの? えーっ、違うのぉ? ダメじゃん、そんなのぉ。あのさあ、吉乃さん―」

と。

吉乃さん圭樹くん、と子供の頃からの名残が抜けず互いを名字で呼び合い、傍目―吉乃夏美の―まあるい顔が小動物のように可愛らしい―親友山下ヒナや、圭樹春海の会社の同期、笑いかければ大概の女は堕ちる優男、広峰蒼―が思わず目を丸くし苦笑いしてしまうような毎度毎度恒例の痴話ゲンカが繰り広げられていた中。

俺以外の事考えんのはキ・ン・シ(禁止)だよ、と、おちゃらけ。そのメイクの施されていない唇に軽く触れるや否や、朝早くからダイニングの床に押し倒して事に及ぼうとする―既に正座も崩して椅子からずり落ちた―圭樹春海が、仰向けになった自身の上にのしかかろうとした時。

吉乃夏美は、不意に強烈な体の異変を感じ。

思わず圭樹春海を払いのけ、突き倒し。その予想外の女の強い抵抗に、「…えっ?」とつぶやきながら圭樹春海が床に、ドン、と尻餅をつき―そうになり。

けれど、そのノンビリとした口調からは想像もつかないほどの素早さで体勢を立て直すと。何事もなかったかのように、スッと立ち上がり。

ただ。えっ、どして? 何で拒否んの? と言わんばかりに目をパチクリと瞬かせ続けているのも構わず。

吉乃夏美は口元を押さえ。トイレに駆け込む。

数分後。水が流れる音とともに、ヨロヨロとドアを開けて出てきた青白い顔の彼女を見て。

心配気かつ不思議そうに待機していた圭樹春海は、不意に。ある一つのひらめき―と希望―に満ちた疑惑をとっさに思いつき。

思わず口に出して確かめる。

「吉乃さん、念のために変な事訊くけど…、あのさ、あの…―」











「…だからって、何も車で会社まで送ってくれなくても良かったのに―」

短い―圭樹春海の心配とわずかな期待を込めた―押し問答が繰り広げられた、その朝食の後。

吉乃夏美は恋人との二人の共有財産である、真っ白な軽自動車に乗っていた。

隣の運転席に座る圭樹春海は、心なしかいつもより神妙な顔つき―おまけに、キッチリ時計の針が10時10分をさす様子―でハンドルを握っている。

踏み込んで停まるブレーキにも、緊急性のあるモノは一切なく。安全運転の模範のような恋人の運転ぶりに、吉乃夏美は思わず苦笑し。

先ほどまで繰り広げられていたやり取りを思い返す。



『吉乃さん、あのさ、あの…―』

『―』

『…、…?』

『えっ? 今、何て言ったの? 日本語? 英語?』

『…ベビーが出来たんじゃないの? って英語で質問したんだよ。いつもの英会話レッスンより簡単な文章だよ。聞き取れなかった?』

『…何でそんなキワドイ質問、英語でしてくるの? いくら圭樹くんペラペラだからって、私が初心者なんだから、そんな大事な事は日本語で訊いてきて―、
…えっ? ベビー? 赤ちゃん!? 私が!?』

…ママ―お母さん、妊娠してる?、

と予想外の驚きに自問自答する。

確かに初めて圭樹春海と結ばれてからこっち、二人でいる時は暇さえあればベッドに潜り込み―と言うより引きずり込まれる事がほぼなのだが、とにかく―親友の山下ヒナ曰く「おサルさんみたい」、同期の広峰蒼曰く「蛇のマグワイ。イチャつきすぎだ」と冷やかされるほど―仲良く事に及んではいたのだが。

まさか、そんなハズない、だって、とのためらいの思いを口にするより先に。圭樹春海から、

『そう言えば、吉乃さん今月遅れてんじゃねえ?』とか。『食欲ないわ~、体がダルい~、ご飯作って~、ってぼやいてたよね』とか。余計な事実を挟みながら矢継ぎ早に質問され。最後に『…って事は、やっぱ―』

バンザーイ!

と。異常にテンションの高い怪気炎が突如、目の前で上がったので。

吉乃夏美が。その突然の―通常は能天気ながらも穏やかな明るさが持ち味の圭樹春海とは少々異なる熱に浮かされたような―言い方を変えれば怖くて固まってしまうような―変貌の様子に、思わずひるみ、黙りこんでいると。

両腕を上げて満面の笑みでにじり寄ってくる恋人から、ハグ―喜びと祝福の抱擁―を受けた。



『吉乃さんのおなかに俺らのベビーがいるかもしれないなんて…。もう超ハッピー。朝から寿だよ~。赤飯炊かなきゃ。今日は大吉か?』

『…あ、あの…』

『吉乃さんと俺のベビー。…うわっ、何て名前にしよう? 男かな、女かな? 俺、悩むわ~。う~わっ、何つーハッピーな悩み…』

『ちょっ、ちょっと待って。圭樹くん?』

『んっ?』

『あの―、もしかして、何だかスゴく喜んでる?』

『勿論。当たり前。喜ばない理由なんてないし。変な質問だね~』

『…でも、まだ、…妊し…、赤ちゃんがいるかどうか分かんないし。男の子とか女の子とか名前とか、気が早いよ。確かにちょっとアレが遅れてるし、何となく体の調子がいつもと違うから変なんだけど…、それに。いつもちゃんと赤ちゃん出来ないように気をつけてる…』

『でも、思い当たる事、あるよね?』

『えっ?』

『吉乃さんが、今日からもう大丈夫だから、って解禁してくれた日。あれ、毎月より数日早くなかった?』

『そんな事、ない。たまには体のサイクルが早くなる事だってあるし。
って言うより、何で圭樹くんが私の体調、私より詳しく知ってるの!? おかしいよ? あっ、もしかして、私の体温のグラフ見てるとか? イヤだ、気持ち悪い~』

『気持ち悪い、って…、ひどっ。だって俺だって解禁日が待ち遠しいもん。早く知りたいし、男のコなんだからついついコッソリ誘惑に負けて見ちゃう事だってアリじゃん。
ゴムくんとは出来る事なら友達にはなりたくねえし。つか、ヤだ。なれねえ。イヤだもん。エッチしても気持ち良さに欠ける』

『気持ち良さに欠ける、って…、なんて素直だけど俗物的。エラそうなドヤ顔で言う事でもないし。朝っぱらから、ヒワイ。ワイセツ。ヘンタイ』

『ヒワイワイセツヘンタイ。
トリプル三段活用かあ。言ってくれんねえ。超嬉しい。もっと攻めて。もっと言葉攻めしてよ~。Mの血が騒ぐからさあ。はあ…、ほらほら早く。ゾクゾクする』

『ゾクゾクするって…、何でそんなに打たれ強いの? だいたい、気持ちいいとか気持ち良くないとか、そんな会話、もうイヤ~。朝はもっと爽やかな会話がしたい~っ』

『爽やかな会話だし、事実じゃん~。吉乃さんだって余計なモノない方が気持ちいいって、言ってたじゃん』

『…言ってない。一言も、そんな発言してません。マジで朝からバカ話ばっかり聞かせてこないで~』

『何アワアワしてんの? 落ち着きなよ。
とにかく。それでも吉乃さんの体の事を考えて遠慮しながら解禁日を心待ちにしてる俺の気持ち、たまには汲み取ってくれる?
とりあえず、ベビーがいるかどうか調べよ? 体温測ってみる?』

『…ごめん。体温計の調子が悪くて最近測れない―』

『じゃあ、薬局に行こっか? それとも病院?
俺もついてくから。吉乃さん、今日はもう仕事休んで行こ?』

『ちょっ、ちょっと待って。これから?』

『うん。これから。善は急げ、だよ』

『今日はダメだよ。社内行事があるから仕事休めない…。副課長に怒られる…』

『吉乃さんが言えないなら、俺が副課長に話してあげよっか? 
少子化で困ってる世の中、未来の税金対策の担い手の明るい光を消すような事にならねえように、母上を休ませてあげてください、って』

『母上って…、高貴な方みたいな言い方…。と、とにかく、ちょっと待っててよ。とりあえず、今日は会社に行かせて?
本当にお仕事が山ほどあるし、大騒ぎする前にちゃん検査してみるから。
それでいいよね。圭樹くん?』

『吉乃さんがそこまで言うなら…、仕方ない。譲歩するよ。その代わり―』



会社まで送らせて。会社の前で吉乃さん降ろして、夕方仕事が終わった頃に迎えに行くからさ。それぐらいは俺の頼み聞いてよ。駅のホームで転んだりして吉乃さんに何かあったら、俺どうなっちゃうか、分かんねえし―。

と。

低姿勢かつ真摯な眼差しで頼み込んでくる恋人の様子に吉乃夏美は。

…本当に会社まで私を送り届けてくれるつもりなのかしら? まだ全然何も分かってないのに、そんな大袈裟な―、と多少戸惑いつつも。

一人で会社まで行けるから、と強気に出たいところだったが、絶え間なく襲う吐き気に口元を押さえる事態が続き。

最終的に、そこまで私の体を大切に考えてくれているのなら、彼も休日だし、体の変調は抜きとして、たまには甘えても悪くはないかな、との思いから小さくうなづき了承し。

現在。

車上の人となって、圭樹春海が運転する席の隣のシートに身を委ねているのである。









to be continued