The フールシナンドジャム? Ⅶ | 。゜・アボカド・。゜の小説&写真ブログ アボカリン☆ のお団子ケーキティータイム♪

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アボカド、お茶、藤井風ちゃん、書き物が好きです。お話(オリジナルの小説)、etc.書かせていただいています☆お団子やクッキー、ケーキ片手にお読みいただければ、幸いです。






足りない。まだ―全然、知らない。足りない。
信じられない―。信じられない―。…信じられ、ない―…。
足りない。足りない。足りな、い―…。





『―あっ、あの時の―…、夏に街で、俺が人探ししてる時に、道案内を頼んだ…』

『…もしかして、私とヒナ―友達が野菜やウナギの蒲焼きを見てる時に、ちょっといいですか? って声かけてきた人―?』





先日。

あの男―同期の出世頭―広峰蒼が、自身の部屋に、フラりと―何の気まぐれか突然―遊びに立ち寄って来た時。

その彼と、恋人であり同居人でもある彼女―吉乃夏美が、―互いに素性こそ知らない他人だが―顔見知りであった、と言う事実に気づかされ、驚き。

二人の、偶然の再会に会話を弾ませる様子についていけず。それでも、愛想笑いを浮かべながらつきあっていたが。

ついには、彼女が同期の男と―遠慮しているのか、それとも、しても仕方ないと諦めているからなのかは分からないが―圭樹春海自身とは決して交わさない、酒類―季節のイベント、ボジョレー・ヌーボーの話に―、おおいに花を咲かせ始めたのを見た時。

不意に。

圭樹春海の心中に、それまで経験した事のない、予想外の―まるで全く甘くない不味いジャムを、思いがけず間違えて口にしてしまった時のような、不愉快かつ腹立たしい苦い―小さな波が立ち。

フッと、彼を、一瞬戸惑わせ。

けれど、気づかない素知らぬ振りをし、やり過ごし。その感情の正体が何なのか分からないまま。目の前で繰り広げられる二人の会話につきあっていたのだが。

それでもやはり、苦さが和らぐ事はなく。いや、かえって苦々しさが増していくばかりの感覚を覚え出した頃。

小さな波が幾重にも重なり始め。ついにある一つの感情を露呈する。

気さくで能天気、穏やかな性格。と、周囲からおおむね評判のいい圭樹春海は、自身の事を相当な"人たらし"だ、と自覚している。

実際、その性格が本来の資質だと思われているし、思っている。

けれど。同期の出世頭は、そんな彼自身をはるかに上回る、他者とのコミュニケーション能力の持ち主で。言葉選びのセンスと状況分析に長けた、テンポの良い話術と、人の心にスルリと入り込み掴む器用な一面―きっとそれは、彼本来の天賦の才なのだろうと思わされるほどの人心掌握術―を併せ持ち。

いや、それより何より。

吉乃夏美―圭樹春海自身が愛してやまない女―が。彼の前以外では、覚えている限り、親友の山下ヒナぐらいにしか見せない―クールビューティーであまり感情を出さない―切れ長の目尻をゆるめ。心の底から、―再会して数分しか経っていない―自分以外の男と楽しそうに会話を紡ぐ様子に、衝撃を受け。

同時に、ふと。

同期の男とは少々異なる自身の資質を思い知らされる。

自身の"人たらし"なる才能は。周囲から常々賛辞されているような―例えば、目の前の男のように、何の躊躇もなく駆使する事を許されている―それゆえ、あっと言う間に、他者と打ち解けられる―天から授かった物では、決してなく。どうにか生き続けてこられた中、様々な壁にぶつかり、それらを乗り越える苦労によって得られ磨かれ、長い時間をかけて後付けされた、努力の報酬であったのだ、と。

そして、そんな自身とは正反対の、小気味良い素質に恵まれた、目の前の男の言葉―会話―才能を受け入れる吉乃夏美に対し。

何より。彼女の愛情を争うライバルである、山下ヒナには―何故なら、彼女は吉乃夏美の恋愛対象外なので―全く覚えなかった、けれど、この一瞬。

―露呈された、ある一つの感情。それは、羨望、落胆、焦燥、全てを一つくくりにした、かなり厄介かつ危険な、心の棘。

―嫉妬。

薄ら笑いを浮かべ、目の前のやり取りにつき合う中。徐々に自身の顔から表情が失われていく事に気づかないまま、圭樹春海は吉乃夏美に対し。

…笑うなよ。と、心の中で念じる。

社会人として、また恋人として、職場から電車に揺られ戻って来たばかりで疲労困憊だろうに、自身の同僚に気を遣い、嫌味なく対応してくれている、その姿に感謝しながら。その一方で。

ベラベラ喋るな、気安く会話すんなよ、

と。相反する、負の視線を送り続ける。





…意外と誰とでも楽しそうにお喋りすんだな。八方美人の吉乃夏美さん?
あんたは、俺だけ見てればいいのに。俺以外の誰かは俺に任せて、引っ込んでりゃいいのに。
前に前に出て、スゲエ嬉しそうに話してんのって、どー言う事なのかな? 愛想しいも、やり過ぎると可愛くないよ?
俺以外の誰かを見るなら、その目をくりぬこうか? 俺以外の誰かの話に相槌を打つなら、その耳を削ごうか? 俺以外の誰かと絡めるなら、その舌を―。

抜こうか?






自身がどんな表情(かお)をして、恋人―吉乃夏美を見つめているのか、気づかないまま。その場の会話を通り過ごし、やり過ごし。

それでも、目の前で交わされた、季節のイベントのワインの話だけは聞き逃すワケにはいかなかった圭樹春海は。

吉乃夏美が広峰蒼―同期の出世頭―と話していた時のように、楽しそうに喜色満面になって―あのような笑顔を自身に向けて―くれるならば。

と、あまり目にしたくもないし、興味もないワインを買い求めるため、彼女の好みに叶うようにと、銘柄を調査し予約の手配をし。

けれど。





『…いつもなかなか出来てないエッチの事、を言ってる?それなら、大した意味はないから。
たまたまタイミング悪くて出来てないだけで…。拒否してるつもりなんか毛頭ないし。
本当に、どしたの、急に? 日曜日じゃなくて土曜日に帰って来なさい、なんて、冗談だよね? 私を困らせるために駄々こねてるだけなんでしょ?
…分かった。着物は持って帰るから。で、東京(こっち)で、着付けて圭樹くんと着物デートする。それでいいよね?』

『ダメだよ。話が違うよ。俺が見たいのは、そんな吉乃さんじゃない。そんなあんたなら、見なくていい。…見る価値がない』





高校時代の友人の結婚式に出席するため、淡いグリーンのドレスを友人から借り。簡易なファッションショーを繰り広げる吉乃夏美と、どこか思いの疎通に欠けた会話を交わしていると。

何故だか、彼女が徐々に怯え始め。会話を一方的に放り投げ終了させ、その場―圭樹春海自身―から逃げ出そうとしたので。

とうてい、納得出来ない状況の中。

逃げようなんて、そうはさせないよ、いつだって向かい合ってくれる、気の強いあんたらしくねえよ。
俺と、話してよ。あいつ…、広峰とは、あんなに楽しそうに話してたのに。どして、俺から逃げるの? どうして―。
俺を見て、そんなに怖そうに怯えてるの? 俺から逃げないでよ。いつもみたいに、

俺にも笑いかけてよ―。

とばかり、咄嗟に腕を伸ばし。彼女の気持ち同様、不安定に翻っていたドレスの裾を掴んで、引きずり倒し。

逃げられないよう、―それでも本気ではなく―ふざけて、うつ伏せになった彼女の背中に乗り掛かったりしている内に。

ふと、圭樹春海の指先が、吉乃夏美の柔らかな乳房に触れ。それこそいつものように冗談めいて―子供だった高校時代の頃の感覚で―重めのスキンシップを試みようと、それを包み込むように触った時。

突然。

圭樹春海自身驚くような、―残虐な―遊びで交わしていた甘噛みで、徐々に本能を刺激され攻撃的になる獣(ケモノ)のような―征服欲がわき上がってきたのである。








to be continued