ストロベリー・アンド・ストロベリージャム?ⅩⅠ | 。゜・アボカド・。゜の小説&写真ブログ アボカリン☆ のお団子ケーキティータイム♪

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アボカド、お茶、藤井風ちゃん、書き物が好きです。お話(オリジナルの小説)、etc.書かせていただいています☆お団子やクッキー、ケーキ片手にお読みいただければ、幸いです。










―人間は、知的に理性的に、洗練されて生きるべきだ。

けれど。“仕事”としてならばの殺人ならば、許されるのではないか、との思いが、いつしか彼の頭にこびりつき離れず。

殺してもいい―、いや殺されるべき人間は、腐るほど存在するはずだ。

知的に理性的に、洗練され。それらが計画され、実行され、報酬をもらい、生活する。そこに、土地に種をまき、計画的に栽培していく仕事や、牛や豚を飼い、計画的に飼育していく仕事、パソコンを開き、計画的に情報を操作する仕事、専門を極め、計画的に段取りを決めていく仕事。

そんなこの世の諸々の仕事達と、自身が就きたい職業に何ら変わりがあるのか?

エスカレーター式の学校の中等部に在籍中、圭樹春海は、ネット等で匿名の殺人依頼を受けようと試み。

そんな時、“会社”からスカウトを受ける。そんなに殺人を職業としたいのなら、キッチリとしたトレーニングと授業を受けなさい。そして、ある課題をクリアすれば“社員”として雇ってやってもいい。

クレイジーな―恋人だった母親からも見捨てられ、現在は居候先の飼い犬の散歩相手や庭の清掃員としての存在価値しか認められていない―一人っぼちの自分自身に相応しい、クレイジーな雇い主の出現に、圭樹春海は歓喜し。

部活動にも入らず、中等部の放課後を殺人の訓練と、ありとあらゆる必要な知識の吸収にのめり込む。もう、どうなってもいい。自分にはあの、―最後の顔が見たいと言う―欲望しか残っていないのだから。それの達成出来ない人生になど、何の意味がある?

放課後、道端に彼が目をつむって立っていると、背後から静かに目隠しをされ、車に乗り込まされ。

道順の分からないカーテンの閉めきられた建物の中で必要な知識の授業を受け、実技を叩き込まれる。

講師―顔や体型を識別されないよう隠し、声を機械で変換させた男だか女だか判断出来ない人間―達は、圭樹春海の、その知識ののみ込みの早さと身体能力の高さに―先日吉乃夏美が、テーブルを躊躇なく簡単に飛び越してきた彼に驚き目を見張ったように―舌を巻き、うなり。

そして、課題を与えられる。

それは、“自殺”に見せかけて、誰から見ても―恨みを買っていて、殺されても当然と思われている―悪い人間を殺す、と言う事。



殺り方は君の自主性に任せる。好きにすればいい。ただ、殺人とバレた場合は君が“罰を受ける”事になるが。その覚悟はあるか?



この場合の“罰を受ける”とは、=“会社”からクビを言い渡される=抹殺される、と言う事で。

それでも圭樹春海は課題に挑み。ターゲットは誰の目から見ても悪い人間―客観的に見て、殺されて当然と認識されている―同じ学校の札付きの男子上級生を選び。

親の物ではあるが金と暇を持てあまし、退屈している彼に、つてを使って密かに接近し仲良くなった頃、遊び話を持ちかける。

二人でホラー画像みたいなの作ってネットで流して、みんなを怖がらせて世間を騒がせてやんない? ―そうだ、Eさんの嫌いなヤツつるし上げて、その画像アップしちゃうとか? もしかして、やりすぎて死んじゃった場合も考えて、遺書とかも作っとく? Eさん、文面考えて…、いや、録音して俺に渡してくださいよ。俺、それ文章に直しときますから。死んで騒がれても、超常現象のせいにしとけば大丈夫ですよ―。

と。

普通の感覚の持ち主ならば、おいおいマジ?、やりすぎだよ、俺はやめとく、 それにお前が裏切って俺を殺るかも分かんないし、と引くところなのだろうが。自分に弓引く人間など校内にはいない、と過信していたEはおおいに盛り上がって了承し。

ホラー画像の作成の計画段階に入る。ちょっと目が合ったから気に食わないとか、自身より目立つから面白くない、つるし上げてやろうとか、遺書考えんのって楽しいな、実はな俺、マジで死ぬまで追い込んだ事あんの。アイツとコイツと―。

などと心底楽しそうに提案し。圭樹春海を信頼しているのか、過去の罪状を―念の為、後から調べるとホラではなく事実だったのだが、とにかく―自慢気に告白し続けるEを見て。圭樹春海は心の中で、これほどこの“課題”にふさわしい対象がいるだろうか、マジ救いようのないバカだな、と冷笑を浮かべ。

自身の判断は間違っていない、と確信し。ついに秋も深まりつつあった、あの夜。

圭樹春海は、自身の“課題”を決行に移す。Eの声で録音されたディスクを用意し。山の林の中にEがリストアップしたつるし上げの対象を呼び出している、死んだ場合を考えていろいろ行動しやすいように、家(うち)の納屋にあった一輪車―ネコ車、持ってきましたよ、と言う圭樹春海の口車にEはまんまと乗り。

お前ってマジ、用意周到だよね。お前といると心強いわ、なあ、歩くのダルいから山まで乗せてけ、と自らネコ車に飛び乗る。圭樹春海は、はいはい、とうなづき。田舎だし、防犯カメラもほとんどないし。灯りも少ないので夜遅く―真実は居候先の家からの持ち出しではなく、“会社”から借りた―ネコ車を押していても誰にも目撃されないし、目撃されたとしても、まともに正体など分からないだろうし。何よりそこまで興味を持つほど好奇心旺盛な人間はいないだろう、と考え。

Eを乗せて山道を上がる。まさか一人の少女に後をつけられていた、などと気づきもせず。

自殺場所となる袋小路の―一本道の―現場に入った時、自分達以外誰もいない事を不審に思われては元も子もないので、どしたんだろ、あいつ、ちょっと時間に遅れてるみたいですね、などと適当な言い訳をしながら。手袋を密かに身につけ、Eの首にロープをかけようと背後から近寄っていた時。

自分達以外誰もいないはずの場所で。枯れ枝を踏みつける小さな足音が、聞こえ。

振り返った暗闇の中、わずかに垣間見えたその姿に、動物ではなく人間だ、と判断し。こんな夜の袋小路に、第三者がいる事自体、有り得ないので。

―後をつけられていた、と圭樹春海は悟り。ここで見逃がしては全てが台無しになる、とりあえず捕獲しよう、―と急遽、計画を変更する。

誰か来たみたい。ここらで一つ驚いた人間の顔でも撮りますか? 面白い画像が撮れると思いますよ、と。

足が届く範囲でEを吊るし。計画に大ノリのEに演技をさせ。目撃者を怖がらせる。

多少演技が下手であろうと、夜の暗闇と恐怖心が目撃者から冷静な判断力を奪い、混乱させる。それを分かっていた圭樹春海は、目撃者―少女らしい人影が警察に電話をかけようと携帯電話を取り出した際、そうさせないよう、わざと気配を感じさせ、怖がらせ。

ほうほうの体で不格好に逃げまどう彼女の後を―暗闇でもよく見える暗視グラスをかけて―追う。そして、もしかしたら、と考え常備していた声の変換機を使い、両方の手袋をはき直しながら。

袋小路を脱出して、やれやれとばかり、うずくまり一息ついている彼女の背後―ごく近い真後ろ―その長い髪の一本一本の毛先が見分けられるほどの至近距離―から語りかける。





『見たね?』

『…』

『見たね?』

『―…な、何の、話?』

『―いいよ。誰かに話したければ話しても。でも、話す前にその口を塞ぐけど。下手な好奇心なんか起こさなきゃ良かったのに。ねえ、…』





話しかけ、笑いかけている途中。

ピークに達した恐怖心からか。―不意に大声を上げて―突然起き上がり、走って逃げ出した彼女の背後に、ぴったり、つき。




…結構足が早いな、でも、俺のが早いから。それにこんな状況下でも―フツーはビビって身動き出来なくなんのが当たり前なのに―体が動くなんて、この女、相当負けん気強い、つか…いや、違う。“気丈”って言い方のがあってるか。
―面白ェ。追いつめられる獲物は、そうでなくちゃ。もっと逃げて、もっと抵抗してよ。簡単に降参されたんじゃ、俺もちょっとつまんないから。でも―、

最後は捕まえるから。絶対に逃がさないよ―




と冷笑に口元をゆるめ。そろそろ疲れてきたし、お遊びはやめようかな、と肩を掴むと。習った実技で―後から考えると無抵抗の人間相手に少々乱暴なワザだったが―、一瞬の内に意識を奪い、眠らせ。

下り坂に仰向けに横たわる目撃者の少女を見て、首からロープを外し追いついてきたEが、下卑た笑いを浮かべる。

『誰、コイツ? 起きる前にヤっちゃう? 俺、三人ってヤった事ないから楽しそお』

『―それもいいけど。その前に“課題”を片付けさせてもらうよ』

言うが早いか、圭樹春海はEの首筋にポケットから取り出したナイフを押し付け。突然の展開に戸惑う彼を林の中に再度踏み込ませ。

岩場の見える崖の端まで歩かせる。この辺りの地理を圭樹春海は―防犯カメラの数や、どこの店先軒先に設置されているのかまでを詳しく熟知しているのと同様―把握し尽くしていたので、“処理”をする場所を変更する際にも選択肢には全く困らず。崖の端ギリギリまで歩を進めるよう命じ、追いつめ。後は圭樹春海が、Eに後ろを向かせてその肩か背中を押せば、全てが終了するところまできて。

Eはようやく、年下の友人の真意に気づく。

自分を殺すつもりなのだ、と。だからリストアップした連中はいつまで経っても来ないし、ホラー画像の撮影も始まらない。

助けて、と泣きながら叫び声を出そうとしたEの口に。うるさいなあ、やかましいよ、と圭樹春海はナイフの刃先を押し込もうとし。けれど、口中に余計な傷をつけて死因を疑われてはならない、と自制し、やめ。

冥土への土産に語って聞かせる。

『信頼を裏切られる気持ちって、どう? 助けを無視される気持ちって?』

『お前…。どして』

『こんな事するのか? って?
みんなあんたにそう言って、赦しを求めたハズだよ。当然の問いかけに、あんたはいつもヘラヘラ薄笑いしてただけだったけどね。
あの世への宿題に持っていきなよ。ああ、それと、さっきの女。あれは、あんた達に以前腐った水を頭からかけられた女だよ。忘れてた?
さて、と―。時間切れだね。そろそろ後ろ向いてくんない? じゃあね、さよなら』






肩か背中を押す代わりに、ナイフの刃先を軽く押し当てると。避けようとしたEの体のバランスが崩れ、そのまま頭から落下し。

グチャリ、と。メロンかスイカが割れるような音を響かせ。暗闇と静寂に支配された夜が再び戻り。山はその揺るぎない姿同様、何一つ平常と変わらない様子で、全ての秘密を呑み込み覆い隠す。

圭樹春海は、細心の注意を払って岩場まで下り、脈をみてEが真実死んでいる事を確認すると。遺書がわりのディスクを、Eがダイブした崖に置き、月の光の中、無言で死体を見下ろす。

信頼していた人間からの裏切り。

それこそが、圭樹春海の“課題”の真意だった。

Eの死は、その―飛び降り自殺と判断され、“現場”となり捜索される崖から発見されるだろう―ディスクの内容にふさわしく、懺悔にまみれた物でなくてはならない。裏切られ、なぜこんな扱いを受けるのか、と問い続けなければならない。彼が今まで犯した罪と等しい罰を受けなくてはならないのだ。Eの最後の顔には、たいした重みはなく。圭樹春海はすぐに忘れたい思いにかられた。

目には目を。歯には歯を。

“課題”終了、といきたい圭樹春海だったが、先ほどの目撃者の件が残っていた事を思いだし。

目撃者の処理を考える。

とりあえず近い場所に二つの死体があるのはおかしい事態を招くので、まだ―どう処理するか決めかねているが、とにかく現在(いま)は―生きている彼女を、ネコ車に乗せ。

彼女のバッグの中を点検する。見ると参考書と問題集、それに通っている塾で配られたのだろうプリント用紙が入っていて。プリント用紙にはその日の日付と、塾の名前が明記されており。

その名前には見覚えがあった。海際にある公園近くの塾だ。

塾からの帰り道に目撃されたのかもしれない、と推測しながら。圭樹春海はとりあえず、そこに向かって歩き続け。

先ほどの言葉―『さっきの女。あれは、あんた達に以前腐った水を頭からかけられた女だよ』―ではないが、この女には見覚えがあった。いつかの放課後、圭樹春海が殺人の授業に出かける際、振り返った校庭の近くで野球部の練習を覗いていた同級生。その時見せた―たまたまだろうし、彼女は覚えているかどうか分からないが、とにかく、合ってしまった―流し目が、思わずゴクリと唾を呑み込むほどキレイな女だったので、よく印象に残っていたのだ。確か、名前は…。

他にも、圭樹春海は、彼女が腐った水をEにかけられている瞬間をも目撃していた。元々クール気な―あんまり笑顔のない―少女だったが、あれからは校内で見かける事があっても、いっそう笑わなくなったような気がする。

そんな事を思いながら、海の近くの公園まで連れて行き。彼女をネコ車から下ろしながら。ふと、彼女が林の中で落とし、圭樹春海自身が拾った携帯電話を開き。

待受画面いっぱいに広がる彼女と友人の画像に目を奪われる。

『…』

無言で見つめる圭樹春海が視(み)た物。

―それは楽しそうに笑う、目撃者の少女の甘い笑顔だった。

コイツ、こんないい顔して笑うんだ、と、圭樹春海は思い。不意に。もう一度このクールな女の、こんな甘い笑顔が見てみたい、と思い立ち。

この女の最後の顔―死にかけた顔―には、もう興味がない。なぜなら、もう見てしまったから。圭樹春海に殺人実技をかけられ、一瞬の内に気絶した彼女は、その瞬間、一度は死にかけたも同然で。




『殺人とバレた場合は君が“罰を受ける”事になるが。その覚悟はあるか? 』




“課題”を与えられた際、通告された警告。

この女を生かしておけば、殺人がバレ、自身は危険な状況に陥るかもしれない。

どうすべきか、圭樹春海はしばし悩み。

けれど、次に彼が取った行動は彼自身驚くものだった。

圭樹春海は、声を変換させると彼女の携帯から電話をかけ。

こう言った。

『…助けて…、道走ってたら、転んで…、足が痛くて動けない…、救急車、救急車を…、
場所ですか? えっと、確かここは―、海岸沿いの、山がすぐ近くにある公園の入り口―、住所は、えっと、確か―』

電話を切った後。

彼女の手に電話を握らせ。すぐにやってくるだろう救急車に目撃されないよう、その場を立ち去る。

人気のない道を選んで歩きながら、―しばらく様子をみよう、と心に決め。誰かに話すようなら、殺そう。ともふと、思い。

けれど、自身の身の安全のために殺人を犯すのは、圭樹春海が軽蔑してやまない、動物にも劣る愚劣な行為で。ここは知的に理性的に、洗練された手法で、窮地を切り抜けなくてはならない。

とにかく様子を見て。それから、考えよう。

失神している彼女の意識が戻るまでに、丸一日はかかる。暗闇の山の袋小路での出来事は、全て彼女の―意識を失っている間の脳が視せた―夢に過ぎない。彼女は山になど行っていない。なぜなら、塾からの帰り道、公園で倒れていたのだから。

彼女の人生に、あの―山中での―出来事は、存在しない。これから先、一生。

大丈夫、彼女はすぐに忘れる―。

この後。からくも“課題”に合格し、“会社”の“社員”となった圭樹春海は、彼女―吉乃夏美に急接近する。身近で様子を見るためには、仲良くなるのが一番だと思い。

けれど、Eの一件が生徒達の噂の的になっている間は、下手に接触する事はやめていた。タイミングを誤れば―Eの“自殺”後に急に馴れ馴れしく接触してくるのを不自然に思われれば―、吉乃夏美に不審を抱かれかねない。

だから、さりげなく、自然に機会を伺い。年に数回ある学年全体の球技大会。ボンヤリしている彼女に、どさくさに紛れて、偶然を装おいボールを当てる。

そのボールは彼女の首筋付近に当たり、彼女の皮膚をうっすら裂き。吉乃夏美は耳の裏になかなか消えない傷をつける事となったが。

そんな彼女を助け、『ゴメン、大丈夫?』と謝りながら―放課後の殺人実技で習った―的確な応急処置をし。保健室に連れて行ったのが、圭樹春海である。

手際のいい手当ては、保健室の教諭にも好評で。それがきっかけで、二人は話をするようになり。

同じ委員になって、隣の席で委員会中に言葉をかわしたり。冗談を飛ばしたり。『給料がベア(ベースアップ)されたから』と彼女の好きなシュークリームをおごってやったり。彼女はなぜか給料=小遣い、と思い込んでいたようだが、圭樹春海は真実を述べていただけなのである。

そんな中、圭樹春海―自身、気づかない内―に、徐々に変化が現れ始め。

最初は、誰かに余計な事を話したりしてはいないだろうか、と観察しているだけだったのだが。

ふと気づくと、視界から消えた彼女の姿を無意識に目で追い。常時視界の隅で、彼女の存在を感じ。ばあちゃんの捨てた―彼女曰く、『うっかり落とした』だけらしいけれど―そんなゴミを拾って歩き続けるなんて変なヤツだな、と首をひねりながらも。次は何をやらかして驚かせてくれるのか、とその一挙手一投足に関心を抱くようになり。彼女の声が聞こえれば、そちらの方角に耳を傾け。知らず知らず、吸い寄せられるように―廊下や階段の踊り場で―傍らにいて、からかったりふざけて追いかけ回したり回されたり、するのが当たり前になっていて。

じゃれ合いの裏の真意は、彼女の気を引き、その肉に触れたいと言う、―シンプルな願い。

そう、つまり。

ミイラ取りが―よく起こりうる事だが―、ミイラになってしまったのである。

吉乃夏美を見続けたい―生きて自分―圭樹春海の傍にいて欲しい、と。彼女がいると。自身の世界の色が嘘のように明るくなる事に気づき。

彼女の笑顔を見たい。眺めて声を交わして触れて、と願った結果。彼女に惹かれ、彼女に―殺意をはるかに凌駕する強さで―心を奪われるようになってしまい。

そして。

彼女もまた、―圭樹春海同様―誰にも打ち明けられない秘密―夢か現実か解らない曖昧な、けれど変死―尋常でない死に様―の目撃と言う恐怖―を抱え、それゆえ、心の底では孤独な“一人ぼっち”の環境に生きていた事実に気づき。

周囲から見放され、親がいながら事実上の“一人ぼっち”となった圭樹春海は。

自身が与えたダメージ―修学旅行先で同室の女子に『なっちゃん、ライトつけたまま寝るんだもん。明るくないと怖くて眠れない、って。私、全然眠れなかったあ』と文句をつけられるほど、暗闇の―大丈夫、彼女はすぐに忘れる、と彼自身たかをくくっていた―トラウマに、彼女がずっと苦しみあえいでいる事を、様々な場面で知らされるにつけ。憐れみや悔恨やらが入り混じった複雑な感情から、いよいよ吉乃夏美から目が離せなくなり。

圭樹春海は、観念する。無理だ。出来ない。何がって? 彼女の口を封じる事。殺す事。なぜなら。

吉乃夏美の存在意義を認めたから。

その存在の、―思うだけで心が熱く焦がれ爛(ただ)れるような―価値を見出だし、欲してしまった以上、もう殺せない―。

殺す選択肢が失われてしまったのだ。圭樹春海は文字通り、息の根を止められたような衝撃的な想いを味わい、自覚し、…それならば、と願う。

血にまみれた自身の手を差し出し、つきあってくれ、とか、一緒に同じ景色が見たい、とは言えないまでも、せめてずっと冗談ぐらいは交わせる関係でいたい―。

彼女の心を慰め、支えていたい。

逆説的でおかしな話ではあるが。圭樹春海の願いは、そんなささやかな幸せで。

同時に独占欲が芽生え始める。自身の男としての想いが―彼女自身気づいていないが、殺人者とその目撃者、と言う相容れない関係性の物である以上―かなわない事であるとするならば、せめて、近寄ってくる男からどうにかして、彼女を遠ざけたい。

誰かに委ねたり譲る事―彼女抜きの自分の姿―など、到底考えられない。それほど自身の心が寛容ではない事を圭樹春海は熟知していたし、また自分抜きでの吉乃夏美の幸せを願えるほど、完成された―デキた―人間でもない。

横文字に弱い彼女に俗語(スラング)で―彼女には一向に理解してもらえなかったが―『好きだよ』とか『…させてよ』と、我ながら滑稽だなと自嘲しながらも。囁いたり、メッセージを送ったり。吉乃夏美に言い寄る―おとなしい、どちらかと言えばいじめられっ子だったが、何度か言葉を交わした事から、彼女に好意を持ち接近しようとした―男をストーカー扱いし、その目の前で彼女の鼻にかぶりつく、と言う荒業をやってのけたのも、この頃だ。

本当は唇を狙っていたのだが、彼女が顔を近づけた途端露骨に固まり、その後逃げようとしたので、嫌われては元も子もないと思い―しかし、その一方で逃がすかよ、とも焦り―、仕方なくとっさに唇よりその上の鼻へかぶりついた。しかし後から――訊いたところ、吉乃夏美のその反応は、照れ臭さからきていた物だったと分かり、それならちゃんと唇を重ねていれば良かった、と後悔し。

とにかく。

放せない。傍に置いて見守る事しか出来なくても、放す事など、到底出来ない。

圭樹春海が、吉乃夏美との関係を、腐れ縁と因縁の特別な関係、と公言し続けたのは、こう言った理由からだったのである。

けれど、そんなささやかな―彼にとっての―幸せな日々は、ある日突然崩れる。











to be continued