ストロベリー・アンド・ストロベリージャム?Ⅷ | 。゜・アボカド・。゜の小説&写真ブログ アボカリン☆ のお団子ケーキティータイム♪

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アボカド、お茶、藤井風ちゃん、書き物が好きです。お話(オリジナルの小説)、etc.書かせていただいています☆お団子やクッキー、ケーキ片手にお読みいただければ、幸いです。











「聞いて欲しい事があるの。私の―、まだ誰にも話してない、―話せない、内緒話。
圭樹くんにだけ、打ち明けても…、い、い?」

吉乃夏美のたどたどしくも、どこか重い告白の申し出に。

圭樹春海は、いいよ、とあっさり。

うなづいた。












これから話すお話は、現実じゃなくて―、夢だったかもしれないの。だから、家族や友達―、ヒナとかにも笑われると思って一度も話した事なくて―。
何より確証がないお話だったから、いい加減な事言うワケにいかないと思ってずっと黙ってた…。
だから、今回、圭樹くんに聞いてもらうのが、初めて。もしかしたら記憶違いで辻褄が合わないところがあっても、スルーして黙って聞いてね。って言うか、夢か現実か分からないお話なんだから、辻褄が合う合わないなんて、誰にも分からないよね。私自身にさえ―。圭樹くんに甘えっぱなしの私にはふさわしい、告白の仕方なんだろうけれど。

…圭樹くん、私達が中学生―エスカレーターの学校だったから、中等部ね―の時、とんでもなく素行の悪い…Eさんって男の先輩がいたの、覚えてる? 恐喝まがいの事やったりとか、ネットとかでいじめて同級生を休学に追いやったり、転校させて、それを手柄のように話して回ってた、超問題児の先輩。女の子襲って妊娠させた事もあるんじゃないか、って言われてた…、でも、親の寄付金がスゴいから学校や先生に大目に見られてる、って噂の―。

そう、一学年上の―私達が中一の二学期に突然自殺して騒がせた、あのEって人だよ。Eさんはみんなから嫌われてて、それこそ学校中、先生生徒も含めて、みんな嫌ってたよね? だから、自殺―山の林の中で亡くなってるトコを発見された、って聞いても、みんな誰もそのEさんの死に同情しなかったし、口の悪い人なんて、死んで当たり前の学校に寄生してたウジ虫、ざまあみろ、なんて笑う人までいた。

それは、私の周りのクラスメートや友達も同じで。死んでも、誰も泣かなかった。今日はパーティーしなきゃ、とか、害虫がいなくなって良かったね、って笑ってた。

でも、私だけは、笑えなかった。

どうしてか、って言うと。疑ってたから。本当は、自殺じゃなかったんじゃないの? って。

…中一の夏休み前のお話なんだけど。その頃憧れてる先輩がいて。野球部で。四番で。練習で日焼けした肌が浅黒くてカッコいい素敵な人だった。喋った事なんか一度もなかったけど、先輩の練習風景見てるだけでドキドキして満足しちゃう、そんな憧れの人で。

校庭の片隅―校舎の前のベンチで、同じように先輩に憧れてる友達と並んで座って練習を見るのが日課で。そのせいで野球のルールに詳しくなって、高校に上がったら、今度は私自身がソフトボール部でバッターになってたって言う笑い話のおまけ付きの話なんだけど。

…脱線しちゃった、ゴメン、元に戻すね。

その日もいつもと同じように友達とベンチに座って先輩の練習風景眺めてて。暑くて汗が流れて、セミが鳴いてて。何気に友達が『トイレ行ってくるけど、なっちゃんも行く?』って誘ってくれたけど、私、あんまり女子らしくなかったのかな、連れトイレが苦手で。断って一人で練習風景眺めてたの。

そしたら。

上から水をかけられて。

髪の毛も、制服も―うちの中等部の可愛かった制服のリボンとか―も、全部ずぶ濡れになって。全身、スカートや下着までびしょ濡れ。それも、その水、―多分腐ってたと思うんだけど―、すごく臭くて。土やカビのような臭いが頭から足の先まで臭って。私が驚いて思わず水の落ちてきた方角を見上げたら、校舎の三階の窓から、そのEって人と、Eの手先になってみんなをいじめてる先輩数人が、ニヤニヤしながら私を見下ろしてて。

その人達は大声で、グラウンドにいて練習してた運動部のみんなに聞こえるように、こう言ったの。




『あ~っ、なんだ、下に誰かいたのか。誰もいねえと思ってバケツにためてた腐った水、捨てちゃったわ。悪い、悪い』
『まあ、夏だし、暑いし。水浴びだと思って許してよ』
『こんな暑いのに、グラウンドの練習風景眺めてるなんて、誰か好きなヤツでもいんの?  お~い、みんな見てやって。水もしたたるいい女が、ここにいるよ~。ついでにお前ら見て、濡らしてたりして~』




私、顔を上げて、その人達に『やめて下さい…、よく見て捨てて下さい』―とか、冗談っぽく抗議した…。そうでもしないと、黙ってたら、何だかいじめられてるみたいな風景で、私自身耐えられなかったから。怖い―質(たち)の悪い人達って分かってても、頑張って言い返した。その人達はそれ以上何も言わなかったけど、相変わらずニヤニヤして。

ふと、何気に視線感じて。グラウンドを見ると、私の好きな先輩が何とも言えない憐れんだ顔をして、私を見てたの。ずぶ濡れになって生臭い臭いを撒き散らしてる私を、かわいそうだな、って目で―。

その後、友達が戻ってきて、『なっちゃん、どしたの!? ずぶ濡れって!? うわっ、臭い~っ、大丈夫?』って言ってたけど、私、愛想笑いしてその場から立ち去ると、一人で家に帰った。帰宅したら、―暑い夏だったから、歩いて帰ってる間にかなり乾いてたんだけど―、その臭いに驚くお母さんにも笑ってごまかすと、すぐにお風呂に入ったの。シャワーを浴びて、臭い水がお風呂場の排水口に吸い込まれてくのを見た時。

その時、初めて。

私、―大声上げて、泣いたの。

腐った水をかけられた悔しさや情けなさより、『やめて下さい』って冗談っぽくしか抗議出来なかった―、そんな弱い私をかわいそうに、って憐れむように見ていた先輩の目に映った自分の姿を想像すると、惨めで―惨めで、たまらなくて、泣くしかなかった。いくら、いろんな人達が日替りであの連中のターゲットにされて同じような軽いイタズラされてる、と頭では分かってても、その標的にされた自分が惨めで惨めで惨めで、

…死ねばいい、と思った。あの連中、一人残らず死んでしまえ、って。隕石があの連中の上にだけ落ちて、バラバラに―ミリ単位になって死んじゃえ、って。

毎日、毎晩、願ったの。夏が終わって秋が来ても―、何て事ない顔して登校しながら、連日連夜願い続けたの。

そんな時だった。塾からの帰り道―って言うか、塾の出入り口付近に落とし物した事に気づいて取りに戻った十時前後―に、あの風景を見たのは。

私達の学校があった街は田舎だったから。ちょっと市街地離れたらすぐに山や林があったよね? 私、それでなくても人通りの少ない、…夜の十時なんて誰もいない、防犯カメラもない夜の道を、街灯頼りに歩いてたんだけど、ふと、少し離れた―山に繋がってる―道に見慣れない人影がある事に気がついて。多分一輪車―荷物運びとかに使われる押し車があるでしょ? あれかなあ、って思うんだけど―それに乗せられた人と、それを押してる誰かの、人影。一輪車の人も、立って歩いてる人、どちらも暗いから顔なんか全く見えなかったんだけど、何だか、こんな夜に灯りもつけずに山に向かってるのが、すごく不思議で、奇妙で。

怖い気持ちより、何してるんだろ? ちょっと後をつけてみたい、って好奇心の方が勝って。…いいよね? って、コッソリ後をつけたの。

でも、途中からスゴく細い一本道にその人達が入って行くのを見て、何だか急に後をつけて行っちゃいけないような―上手く言えないんだけど、予感って言うか、危険な感じがして。仕方ないから、その人達が戻ってくるのを、道の入口で草むらに隠れて待つ事にしたの。

でも、どれだけ待っても、誰も戻ってこなくて。どうしようか、って思いながら、でも、何だかやっぱりおかしい、放っておけない、ここまで来たんだから行ってみよう、って思って。

勇気振り絞って、一本道に入って行ったの。静かに歩いてたんだけど、暗くて足場が悪くて。パキッて小枝を踏みしめる音をさせたりして。音の響き方から、そこが岩に囲まれた袋小路―行き止まりの道だ、なんて考えながら。そうやって下ばっかり向いて歩いてたら。

ぶつかったの。柔らかい―暖かい、物体と。何かな? って見上げたら。

大きな木に生えてる、枝から、吊り下げられた人間―男の人―の足で。さらに見上げたら、あのEって人の―スゴい苦しそうな―目を見開いた―顔が見えて。

私、無言で後ずさって。怖くて腰が抜けたみたいにその場にしゃがみこんで。足が震えて、歯がカチカチ言って合わなくて。

何、これ? どうしたの? 何が起こったの? Eさん…、自殺したの?

それとも―、殺されたの? って言うか、さっきの歩いてた人影の正体は、Eさんだったの? ああ、そんな事どうでもいい、とにか、く…、

警察に、電話、し、なき、ゃ―。

携帯―ガラケー―を取り出して、電話しようとした時。カサッ、て音がしたの。

…何かに見つめられてる、みたいな気がして振り返ったら、とっさに黒いかたまり―人間の頭みたいなの―が、草むらに隠れるのが見えて。

よくよく考えたら、山に入って行った二人の内の一人が自殺か他殺か分かんないけど、死体になってて、でも、じゃあもう一人の人は、どこ? 一本道で行き止まりなんだから、他に抜け道はないし、人間なんだから消えてなくなるワケないし、じゃあこの辺りにいるハズ―、って思った瞬間…、あの黒いかたまり、もしかしてって―、ゾーって体中に鳥肌が立って。

逃げよう、何だか分からないけど、この状況、絶対、危ない気がする―。

私、怖くて怖くて…、腰が抜けたみたいな状態が治らなくて、でも、とにかく這いながらでも、どうにか逃げようとしたの。

一本道を抜けて、やっと、ふもとに繋がる下り坂の道まで戻った時、少し安心して、もう一回警察に連絡しようとしたら、携帯落とした、って分かって。元来た道には怖くて戻れないし、どうしよう、と思ってたら、私の背後から月の光を受けた―長くて細い―人影が、足元まで伸びてる事に気づいて。

それが、私のすぐ後ろぐらいまで―足音をさせずに、でもスゴく早いスピードで―下りてきて、こう言ったの。




『見たね?』

『…』

『見たね?』

『―…な、何の、話?』

『―いいよ。誰かに話したければ話しても。でも、話す前にその口を塞ぐけど。下手な好奇心なんか起こさなきゃ良かったのに。ねえ、…』




あれ…、何だったけ、カン高い声になる…、そう、ヘリウムガスを吸ったような、耳障りな機械的な声が―私の耳辺り―真後ろから聞こえてきて。

フッ、って鼻で笑うのが分かったの…、その後、生暖かい息が冷たい首筋に触れて―、すぐ後ろにいるって―きっと五センチと離れてない距離で、笑ってて、その時もれた息がかかってきたんだ、って…、私の口を塞ごうと、手ぐすねを引いてる。怖いよ、怖い。動けない、声が出せない。誰か助けて…。



―いいよ。



…違うのに。嫌なのに。聞きたくないのに。耳の奥でエンドレスに再生される不気味な声に、私、たまらなくなって、



『…あーっ!!』



って、我慢出来なくなって、とにかく、どうにか大声あげて―立ち上がって―振り返らずに―逃げたの。振り返っちゃダメ。振り返って“見て”しまったら、もうおしまいだから…、って言うより、振り返る事なんか、怖すぎて絶対出来るハズがなかったんだけど。
“声”に言われたように、下手な好奇心なんか起こさなきゃ良かった。助けて…、助けて…、さっき見た事は誰にも言わないから、絶対に黙っとくから。だから―、だから、追いかけてこないで。このまま普通に、何事もなかったように、家に帰らせて―。
とにかく、逃げて逃げて逃げて―。それなのに、林の中の真っ暗な道を人影は、迷いもせずに、ぴったり後をつけて来てて。私のすぐ後ろまで来てるのが分かってた。坂道を下りながら、息が出来ない、心臓パンクしそう、でも止まったら捕まる、きっと“一本道に入って行って、残ったもう一人”に殺される、って思って…。

でも、私の背中―肩を掴まれるところまでで、私の記憶は唐突に、止まってるの。

気がついたら、病院のベッドの上で。丸一日意識を失って寝てた、ってお母さんやお父さんや兄さんから言われて。目が覚めて良かったあ、って泣きながら喜ばれて。

でも、不思議だったのが、私、自分で連絡して救急車呼んでたらしい事。それも発見された場所は、山のふもとじゃなくて、反対方向の、塾に近い海が見える公園の側だったらしくて…。

そんなハズ、ないの。だって、私、山のふもとの坂道を下ってたのに。そこで、何かが起こって記憶がとんで、…でも、何が起こったかハッキリ分からないから、曖昧な事、言えなくて。

だって、なくしたと思ってた私の携帯電話が、意識を失って救急車に乗せられた私の手に握られてた、―それも、私の携帯電話のディスプレイに救急車を呼んだ番号が残ってた、って事は、私が自分でかけた、って事の動かぬ証拠になるから。

もう、ワケが分からない。ただ、あの、記憶を失う直前、背後で聞こえた―



『―いいよ』



って、機械的な耳障りな声だけはハッキリ覚えてて、嘘じゃない、って。あれは。夢なんかじゃなく、現実だった、って。あんなに怖い、って言うか、薄気味悪さに体中がゾーっと震えて総毛立つ、みたいな感覚は、経験した事なかったから。

倒れてる間に、夢でも見たんだろうか、って…、でも、じゃあ、あのEさんの首つり死体は? あれも夢? 分からない、誰か教えて、早く退院して、“現場”に行って確かめてみよう、そう思ってた時。

Eさんの死体―、自殺死体が見つかったの。―今まで悪い事ばかりしてすみません。許して下さい。あの事件もこの事件も全部俺の差し金で。死んでみんなにおわびします―みたいな遺書―って言うか間違いなくEさんの声で録音されたディスクもあって。でも、死体とそのディスクは、私がEさんの死体を発見したと思っていた場所からは少し離れてて。それこそ、私が追いかけられて記憶を失った、と思ってる場所とそんなに離れてなくて。それもね、その死に方―、自殺の仕方が、私が見た首吊りじゃなくて…、
山の斜面―崖からの飛び降り自殺になってて。場所だけじゃなくて、死に方まで変わってたの。そんなワケない。私、確かにEさんが首を吊って死んでるところを見たのに…。でも、Eさんがそこで、硬い岩場にダイブして死んだ事は間違いないだろう、って新聞には書かれてて。第一発見者の人が言うには、痕跡―飛び降りた時に打った衝撃で頭から血がたくさん流れてて、地面にその痕跡が残ってたから、間違いないだろうって。

じゃあ、私が見た―発見したと思ってた、Eさんの首つり死体は? 何だったの? 私が見た―思わずしゃがみこんで歯がガチガチ鳴って噛み合わなかった、あの光景は、やっぱり、夢? 幻? って。

でも、あの死に顔が夢や幻だったなんて思えない。

そして、Eさんが死んだのは、やっばり事実で。

死ねばいい、なんて―、毎日毎晩呪いみたいに念じ続けた私の願いが、叶ったの? 私の、せい? 私が、Eさんを自殺させたの?

何があっても死にそうになかった、人を殺しても自殺なんかするようなタマじゃない、この世界が壊れてもゴキブリとみたいにしぶとく生き残る―、そう陰口叩かれてた人が、自殺なんかする? 許して下さい、死んでおわびします、なんて愁傷な言葉を口にする?

本当に?

自殺じゃなかったら…、私が、Eさんを、―殺した? 私が呪い殺した?

死ねばいい、と思ってた。願ってた。でも、本当に死んじゃうなんて思ってなかったの。ただ、Eさんが死ねば楽しいだろうな、って…、暗い空想に夢中だっただけで。

私、が、殺した―?

だから、…罪の意識から逃げたかった。

夜が怖い。後をつけるだけで、助けてあげられなかった、あの夜と同じような、夜の暗闇が、怖くてたまらない。ずっと、ずっと―、明るい太陽が照らす、真昼であって欲しい―。

街や道で中学生ぐらいの男の子とスレ違うたび、Eさんに似た面影を見つけて、そのたびまた、Eさんの死に顔を思い出して。

ずっと、それの繰り返し。

きっと、一生、忘れられない。目を閉じても眠っても、Eさんが追いかけてくる。私の肩を掴もうと真後ろまでついてきてる―。

もう、無理。ダメ。精神的に、ギリギリ。誰か、私を助けて。この底無し沼のような罪の意識から、救い出し、て、…。

逃げてばかりなの。誰かと本気で向き合いたくても、そのたびにEさんの―最後だっただろう―顔が目に浮かんで、どんな人にもあの―終わりの―表情(かお)があるんだ、みんな同じ表情(かお)になるんだ、…死が待ってるんだ、と思うと、怖くて。まともに直視出来なくて。

他人に下手な好奇心なんか、持たない方がいい。深入りさえしなければ、怖い思いをしなくて済むし。…もう金輪際、誰にも興味なんか持たないし、関わり合わない。だから、

―だから。

どうか、お願いです。神様いらっしゃるなら、って願わずにいられないの。灯りを消せずにつけて眠る、明るい照明の光の夜から、私を解放させて―。

何年も何年も、同じ事を考えて、悩んで、苦しんで。あの人の死を考えない日は、一日も、なかった。

そんな時。




「あなたともう一度出逢えて…、子供の頃に戻ったみたいに気持ちがスゴく揺れ動いた―。本当に久しぶりだった。忘れてたの。こんな動く―生きてる、って実感出来る感覚、ずっと。
…そしたら不思議なんだけど。あなたと、こうしていたい。いろんな事から逃げてちゃダメなのかも、ちゃんとお話して、もっと深いところで関わって真剣に向き合いたい、って思えた―。
何でだろ? 再会して―今朝目が覚めて一番最初にあなたを見た時―、あなたの最後の表情(かお)だけは、全然想像出来なかったから。圭樹くん」









to be continued