むかしむかしなのだけれど、

サンタさんとトナカイさんをゲストにクリスマス会を開いたことがあった。

司会は知的障害を伴う自閉スペクトラムの中学生。

仮にAさんとする。


Aさんは文字が読めるので、司会原稿を渡して司会を進めてもらっていた。


会も終盤。サンタさんとトナカイさんが退場する場面だ。

Aさんは言った。


「さんたさんと なかいさんが たいじょうします」


「?????(なかいさん…?中井さん…?)」


Aさんは文字列を図として認識しているのか。

または原稿の「と となかい」の「と」を読み飛ばしているのか。

ともかく、どこからともなく現れた「中井さん」がクリスマス会の会場から退場するというアナウンスがAさんによってなされた。


「いつからいたんだww中井さんwww」


「サンタさんと中井さんが退場するんだなぁ…」


などと思いながらAさんの司会と退場していくサンタさんとトナカイさんを見守った。


しかし、Aさんの笑いはこれだけではなかった。


「おわりのことば、汚いゆうこさん、おねがいします」


「!!!!?」


終わりの言葉を担当するのは「北井 優子(仮名)」さんだ。原稿には「きたい ゆうこさん」と書いてあったはずだ。


彼は文字列だけを見て、馴染みのない「きたい」という言葉より、日常的に用いる「きたない」に変換させてしまったようだ。


北井優子さん(仮名)は清潔感あふれるダウン症の女性だ。


どうしようもなく会場が和んだ。

何のことやらわからない本人たちは、司会や役割を果たした達成感に満ちた表情でニコニコしていた。