目の前には80歳を超える老婆が臥せっておりました。
周りには私の他、彼女の長女、次女、三女、長男の嫁、医者、弁護士、銀行員がいました。
何をしているところかというと、老婆所有の土地に全40室のマンションを建築するために、建築資金の金銭消費貸借契約書と、建築請負契約書に老婆に代わって長女が代筆で署名し、押捺するために集まっておりました。
借入総額4億、請負金3.5億。
相続対策として老婆に建築資金を借入してもらい、建物を建築し家賃収入を返済金に充てる計画です。負の資産が増え、全資産からその分をマイナスすることが出来ます。
老婆は目が見えず、しゃべることも不自由です。意思確認のために弁護士と医者が同席しています。
先ず私が建築契約内容についてお話し、続いて銀行員が金消内容を説明し、医者が合意の意思確認をしました。それまで苦しそうにして寝ていた老婆は、医者の質問の時だけわずかに頷きました。続いて長女が各々の書類に代筆署名をし、捺印しました。
更に弁護士が一連の作業を見分し、あらかじめ用意してあった当該行為の合法性を証明する書面にサインをしました。
それまで押し黙って作業を見詰めていた親族たちは、緊張が解けたのか急に笑顔になりしゃべり始めました。
この後建物は完成し、入居者で満室となりました。それから数年で老婆は亡くなりました。相続税はかなり低くなり、子供たちは各々4分の1の借入金と10室分の家賃収入を得ました。
この時弁護士には500万以上、医者にはその半分くらいの証明費用を支払ったそうです。
バブルのころの話ですが今でも老婆の苦しそうな寝顔が忘れられません。