ある日の会社帰り、俺は駅前の高架橋をくぐって歩いていた。


 そこに見慣れないおばさんの占い師がいて、

「お兄さん、ちょっと話を聞いてくれない?」

 と話しかけて来た。


 俺は急いでいたので無視すると、

「一分でいいから聞いてよ」

 としつこく言ってくる。


 俺は、

「急いでるんで…。すいません」

 と言って、おばさんに背を向けて再び歩き出した。


 おばさんは、

「話を聞かないと大変なことになるわよ」

 と毒づいたが、俺はそれを無視して歩き続けた。


 それで、高架橋を抜けた時、俺は違和感を覚えた。


 いつもはすぐ右手に駅があるのに、それがなかった。

 街の雰囲気もいつもと違う。

 しばらく歩くと駅に辿り着いたが、その駅名は全く別の街にあるものだった。


 あの占い師のおばさんに事情を聞こうと、俺は道を引き返したが、あの高架橋に辿り着くことはできなかった。


 結局その晩は、その街の駅から時間をかけて家に戻ったが、以後、あの占い師のおばさんに出会うことは二度となかった。