うちには幼稚園児の息子がいます。


 私はその息子とよく散歩に出かけるのですが、近所のお寿司屋さんの前を通りかかると、必ず息子が店先を指差して、

「ワンワン、ワンワン!ママ、ワンワンいるよ!」

 と言うのです。

 でもその店先には犬は見当たらず、私は不思議に思っていました。


 そんなある日、そのお寿司屋さんのご主人と話す機会があり、息子のことを話してみました。


 するとそのご主人は、

「それ、もしかして…」

 と切り出し次のように話してくれました。


 昔、先代のご主人がまだ健在だったころ、店先に一匹の犬がいたそうです。

 それは先代のご主人が飼っていたもので、毎日ご主人の奥さんと一緒に店に来ては、店が閉まるまで店先で待っていたそうです。


「その犬さん、私が修行に来てすぐに亡くなったんですが、もしかしたらまだ店先にいて、店を見守ってくれてるのかもしれませんね」

 ご主人はしみじみとそう言いました。