日本版は初見、そもそもが蝶々夫人がモチーフっていうことでちょっと及び腰で、ロンドンの25周年版は観て、もう色々としんどくなってしまって(戦争の悲惨さも含めて突き付けられるものがしんどくて)
それでも、伊礼彼方のエンジニア、屋比久知奈のキム、小野田クリス、仙名彩世のエレンが観たくて、流石に勢揃いの回はなかったので、2回に分けて取った1回目
 
入り込み過ぎるのはしんどいからと、B席3階席から観たのに、キムがエンジニアに「プリンセス」と言われる冒頭からもうしんどくて泣いてしまった。
17才の戦争孤児のキムを正真正銘「生娘」だといって高く売ろうとするエンジニア。京都の元舞妓さんの告発を思い出して、気持ち悪くなってしまって、「処女」であることを神聖化してありがたがる男の欲望の気持ち悪さよ。それだったら、男性の「童貞」も高く売らんかい!!って言いたくなるよ、ひっくり返せばそれがどれほど気持ち悪いかわかるでしょ。
 
アメリカに連れ帰って欲しいとねだるジジにそっけないジョンと、どこか居心地悪そうなクリス。小野田クリスは、どちらかというと裕福な家庭で育ち、17才の少女が娼婦となることに同情を抱き、彼女を男たちからの欲望から守るだけの理性はあるし、彼女にお金を渡してここから逃げろという優しさもあるけれど、キムには逃げ場がすらないのではということには思い至らない。そして、結局生きるために春を売ろうとするキムの純粋さに負けて彼女を抱いてしまう。
で、抱いたらすっかり虜になって恋に落ちているんだからなぁ。でもこの辺りが凄くリアルで、「色香」という言葉あるとおり、彼女の虜になった感じが浅はかさを感じさせてとてもうまい。
「国のために戦ったが帰国したら白い目で見られた、帰ってきた再びサイゴン、まだ気楽さ、大使館のドライバー」という神よ何故の歌詞が重い。曲だけ聞いていてもしんどいけど、物語の中で聞くとより一層重い。正義のない戦争だったということを突きつけてくる。
 
高畑充希のキムはまだ庇護が必要な17才の子どもなのに、一人で生きていく覚悟は持っている。それでも、優しくしてくれたクリスにすがってしまう。この男を信じすぎて悲劇の道まっしぐら感がすごくよかった。ウェイトレスといいダメ男に入れ込む役が似合い過ぎだわ。
透明感があるのに芯の強さを感じさせる声が好きだわ。
 
ジョンの理生くんは、ちょっと期待しすぎたかな。歌は上手いし、悪くないんだけどね。
神田トゥイ、親同士が決めた結婚相手だったとしても、彼でよかったんじゃないかしら?タムを殺そうとするけれど、殺せたとは思えないんだよなぁ。
 
辛い物語の中で、仙名彩世のエレンが救ってくれた。彼女は愛の人だった。PTSDを抱えるクリスを結婚して、彼の苦しみに寄り添いながら、愛する夫に子供がいて、過去に愛した女性はまだ彼を夫と思っているという突き付けられた現実の中で、揺れ動きながらも、キムとタムの母子を引き離せないというエレン。タムを引き取って欲しいというキムに「ダメよ、私と彼の子が欲しい」という彼女の言葉に、仮にタムを引き取って愛しても、実子が生まれてしまったら彼に辛い思いをさせてしまうのではないかという、優しささえもにじむの凄いな。
最後にタムをしっかり抱きしめる姿が希望だった。
 
サイゴン陥落のヘリコプターの場面、NHKの映像の世紀等で繰り返しみた、アメリカに飛び立つ飛行機に縋り付くサイゴン市民の姿と、それを蹴落とそうとしたアメリカ兵の映像も重なって、もう本当にしんどくて涙が止まらなかった。
 
丁度、戦後の日本でアメリカ軍人の男性と日本人女性の間に生まれて、孤児院で育ったGIベビーの方が、生き別れの両親と弟をさがすという話をTwitterで読んでいて、1948年生まれの彼女と、1976年生まれのタムが重なる。ブイ・ドイとGIベビー

 

ちなみに、GIベビーの方の肉親捜しについてはこちら

 

GI Babyの父親探しのクローズドのFBグループがあるという、そしてそこには自分の子どもを探すベトナム帰還兵の方も参加しているという・・・。

ブイ・ドイで紹介される混血児の子どもたちの今を思う。彼らの父の今を思う。彼らの母の今を思う。

 

ベトナム出身でアメリカン・ドリームをつかんだ人たちってどれくらいいるのか。エンジニアはアメリカに行けさえすればと思っているけれど、現実はそんなに甘くないだろうな。

(あと、レジェンドではあるし、はまり役だとは思うけれど、もういいんじゃないですかねぇ・・・。おじいちゃんにしか見えないのよ( ノД`)シクシク…)

 

タムをクリスたちに託したキムは銃で自殺するけれど、それがまた辛すぎて、あれはクリスにとっても、タムにとっても大きなトラウマになると思うと、あれが呪いにも思えてほんとしんどい。でもキムはまだやっと20歳、彼女に他の道は見えなかったんだろう…20歳の母が息子のために死を選ぶ世界は間違ってる

 

けれど、戦争は誰もが傷つき、誰もが不幸になる、ひたすら悲惨な現実しかないということを、ガツンと突き付けてくるこの作品は、アンサンブルキャストの一人一人が、その現実を生きているからこそ突き刺さってくる。「戦争」に対して現実感がないままに、感覚がマヒしている社会になりつつ今観るべき舞台なのかも知れない。

 

日比谷シャンテのコラボメニューはまずは寿司清さんに行ってみました。握りが美味しいのはもちろんのこと、生春巻きも美味でした。