盛大にネタバレありです。
ご注意くださいませ
私:成河
彼:福士誠治
ピアノ:落合崇史
新型コロナ感染症の感染拡大防止で客席からの登場やキスは演出が変わってしまっているかもとも思いながら、張り詰めた中ピアノが鳴る。照明が落ちる。
ピアノは落合さん、2018年は殆ど朴さんで落合さんのピアノは1回だけだったかな。
朴さんのピアノは三人目の出演者という印象が強かったけれど、落合さんのピアノは二人に寄り添うように感じる。
そして、静まり返った客席にかすかに足音が響く、気配が来る。成河私が下手通路を後ろからゆっくり歩いてくる・・・そして舞台に上がる。
後ろ姿から成河私が振り向く。その表情の空虚さに思わず「あ、空っぽだ」と思う。
そして、「彼」について話し始める成河私。
18-19では、必ず右目から一筋の涙が流れていたが、今回は見えなかった。
成河私が過ごしてきた34年の長い年月を思う。どうやって生きてきたのか。
そして、あの時に戻る。
バードウォッチングに夢中の成河私は相変わらずかわいい。そして、ついつい成河私が見ている鳥を見たくて後ろに視線を送ってしまうw
福士彼が登場。成河私が視線を上げた時にピタっと動きを止める姿は19歳の年相応にも見えるけれど、あの美しさよwww
そっと成河私に近づき羽交い締めする福士彼。
え、え、え、ちょ、ちょっと待って、その手つきやらしすぎませんか???
え~~ちょっとちょっとやらしいよ~~触ってるよね~~
あ、ごめんなさい。興奮しすぎました💦
この日の成河私は18-19のような嫌悪感、恐怖を感じさせない。何故だろう??
ただ、福士彼に自分だけだろう、自分だけが理解できるんだよと迫る成河私は共依存関係の呪いを自分自身にかけてしまったように見えてぞわっとした。
より福士彼が34年後の成河私の回想の中の存在ということが強く伝わってくる。
弟に強く拒否反応を示す福士彼。
父親の愛を得られず父親からの愛が欠落している福士彼。
でもそうなのか。あの時代、裕福な厳格なユダヤの家では、後を継ぐ「長男」は厳しく育てられ「次男」はある意味甘やかされ放任されて育てられたのではないのか。それを弟は父親に愛され自分は愛されていないと思ったのはまた、福士彼の精神的な幼さではないのか。
金を貰うとなんでも成河私に話し、もらえないとなにも教えてくれない「弟」もまた歪んでいるのかもしれない。
福士彼は高校時代の放火だけでなく、小さい頃から様々な犯罪を犯してきたのではないだろうか。それはきっと父親の愛を試していたのかもしれない。そしておそらく本人も気付かぬところで、父親は福士彼の罪を揉み消してきたのだろうと想像してしまう。
あの容姿で頭もよく誰もが夢中になる福士彼が欲しかったのは父親の愛だけなのか、成河私は福士彼にとって承認欲求を満たすだけの相手だったのか。
いや違うと思う。福士彼もまたそれ以上に成河私を必要にしていたはず。
最初のキスシーン。成河私に言うことを効かせるようにしたキスに夢中になりむさぼる福士彼、それなのに、成河私の手が自分を触ろうとした瞬間、ふっと我に返って拒絶する。
拒絶しているのは成河私なのか、愛情に負けて強がれない自分自身なのか。
より強い感情をのせて歌う福士彼、時に見せる乱れすらも福士彼の焦燥感を感じさせる。
18-19のある日「プロポーズ」に見えた契約書のシーンがさらっと流れる。この感覚も面白い。
契約書に血でサインする福士彼が言う「前にもやったことがある」
成河私は福士彼が自分以外と血の契りを交わしたと思い嫉妬する。
けれど、やったことがあるのはナイフで自分を傷つけることだったのではないか。
こう感じたのは初めてだ。
しかし、何度も何度も見てすべての動き流れがわかっている筈なのに、福士彼が柱を蹴る、バッグが落ちてくるに反応してついつい椅子から飛び上がりそうになった💦
放火の後、火を夢中で眺める成河私をそっと置き去りにする福士彼の寂しげな風情に胸が詰まる。
契約書を盾に迫って福士彼と事を成した後の成河彼がなんだか疲れて見える。服を整えて福士彼と言葉を交わすうちに、浮かれた様子になってくるけど、18-19のつやつや感がない。
そして殺人計画にのめりこむ福士彼。彼が殺したかったのは弟ではなく、父親の愛に飢えて壊れている自分自身では無いのかとふと思う。
だからナイフで自分を傷つけたのかと。
でも自殺はできない。だから別の誰かを殺す。
ユダヤ教の教義もそこにはあるのだろうが、
ある意味彼の弱さとも感じられなくもない。
殺人の後の成河私のうろたえ振りに、
松岡さんが語っていた「眼鏡はわざと落としたのではないと思う」という言葉を思い出す。
あー福士彼の裏切りに、成河私は眼鏡を落としたことを利用したのかもしれないと思う。
アフレイドの福士彼が19歳よりもっと幼い子供に見えた。その告白を聴きながら寝たふりをする成河私の視線が怖すぎる、怖い怖い怖い怖い
99年で何もかもお前と福士彼が言う、この時彼の脳裏に浮かんだのは、成河私との初めての出会いだったのではないかと思ってしまった。それは小さな成河私がやはり双眼鏡で鳥を見えている、そして福士彼が何をしてるの?と声をかける。
自由という意味が分かっていなかった18-19の成河私とは違い、
ちゃんと自由の意味を知っているように感じた成河私。
そして、釈放された成河私の前に姿を見せた福士彼。
写真から思い出した高校生の頃の福士彼ではなく、
彼岸へ行ってしまった幽玄の世界に生きる福士彼だ。
スリルミーとつぶやいた後、最後の最後に成河私がふっと見せた笑み。
やっと福士彼の死を受け入れて、そして福士彼はずっと自分の中にいることに気づいたようにも見えて、呪いが解けたように感じた。
けれど、呪いは解け、成河私は現実の世界に戻ってきても、心の中に福士彼の偶像を抱えたまま生きていく、それもまた別な呪いなのかもしれない・・・。