当初予定していた日は上演中止。それでもこうやって観劇できたのだからありがたい。

題材自体にも興味があったけれど何よりマリア皇太后を麻実れいさん(たーこさん)が演じられるということが大きい。宝塚を観始めた頃、既に退団されていたのだけれど、ビデオで色々拝見してそのスケールが大きく品があって色気がある大人の男役姿にすっかり魅了されてから、特別な存在。白石加代子さんとの二人芝居「メアリー・スチュワート」はいまだに観劇時にあの衝撃を忘れられない。ただ歩く、ただふと振り向くだけで纏うオーラが動くのがわかる方。
「蜘蛛女のキス」(もちろん観に行きましたわ)以来のミュージカル出演ということで、ちょっと身構えてしまいましたよく考えたら歌の量の違いくらいで、いわゆるストレートだろうがミュージカルだろうが変わらないんですよね。
気難しさをはらみつつ愛する孫娘ではと思ってもまた裏切られることが怖くて冷たくあたってしまうマリア皇太后、古い時代の象徴のような彼女が若い二人を新しい時代へ送り出し、古い時代をきっぱりと終わらせる、それは、杖を突き裾の長いドレスを着ていた皇太后が、古い衣装を脱ぎ捨て、杖を手放し、裾を引きずらないワンピースで颯爽と、彼女もまた次の時代へ踏み出したのだと思う幕切れが美しい。
カーテンコールで三階席まで視線をくださるターコさんに感涙。
本日のキャストはこちら。
 
モチーフのオルゴールそのままに、オルゴールのような舞台だった。海外の装置の大掛かりなもの。ホリゾント奥の回り舞台、左右の壁がくるくる回り背景の映像とともに鮮やかに場面転換していく様は、オルゴールの中で音楽盤がくるくるまわっているよう。そもそもロシアの踊りは回転が多い気がするのは気のせいかしら。
 
葵わかなちゃんは綺麗な声。もっと緩急がついて声を張れるようになるといいなぁ。お芝居は好きだし、存在も可愛いので、表情の見せ方、メイクかな?がもったいないな。
ディミトリの内海くんは正統派で誠実だけどちょっと大人しめに感じてしまった。
グレブの堂珍さんは西川くんとやったヴェローナの二紳士以来かな。相変わらずキラキラ。ただ、ちょっと歌詞が聞き取りづらいかな。歌詞が音楽に流れてしまってる感じ。
そしてヴラドの禅さん!!はい。最高です。愛嬌も若い二人への愛もリリーへのデレデレぶりも好き。どれだけ動いて崩れても音程も歌詞も絶対に外さない安定感。
 
それにしてもディアギレフバレエ団という台詞を聞いた途端、脳内で緒月遠馬セルゲイ・ディアギレフが早霧せいなヴァーツラフ・ニジンスキーを押し倒して赤面しそうになりましたわあせるでもこのアナスタシアの頃ってもう二人は別れた後なのね。
 
アナスタシアは1901年生まれなので物語は1920年代、アメリカでは禁酒法の時代。リリーがパリで飲んだくれるシーンに不快感を覚えたのは、ヨーロッパから新天地を求めて渡った人々へ思いをはせてしまったのかもしれない。貴族が享受した贅沢と底辺からのし上がろうとした人々と…。
 
けれど、これはファンタジーでそれでいいんだと思う。未来へ踏み出した二人のそれからには第二次世界大戦もあり決して明るいものばかりではないだろうけれど、オルゴールの中に観た夢でもいいのかもしれない。そんなことを思う。