「今日はいまひとつでした。気分が上がる時がなかったといいますか…。念の為検温しましたが、お熱はなかったです。」お迎えのときに先生から言われた。
「昨日も少し変でした。夕食を全く食べなかったり、寝るときに時々きゅーって顔をしかめたり。心配で、痛いのか気持ちが悪いのか聞くと、本人は、大丈夫何でもないって言うんです。」
先生の後ろをポツポツとついてくるタラ。いつもとは違い、お利口さんにまっすぐ歩いて、目のまえでスンと座った。スライムのように、口だけうすら笑いを浮かべているが、楽しいも悲しいも何の感情も読みとれなかった。はやく帰らねば。
保育園生活のいろいろな場面で、おともだちを待たせている、タラだけが倍の時間がかかると、何度か言われていたが、そのせいだろうか。
いつだったか、担任の先生に、タラは何に時間にかかるのかと聞いたことがある。聞いておきながら、ごはんかな…トイレもだよな…と急いで心の準備をしたところ、返ってきたのは「全部です！」特大パンチだった。
先生もウ～ンと腕組みしてくれてはいたが、
'何に時間がかかるか'ではなく、'どうやってオブラートに包もうか'を考えていたのだろう。
あれは、オブラートにどうやっても包めない！えーい言ってしまえ！の「全部です！」だった。
言い方があまりに清々しかったので笑ってしまったが、立場的にヘラヘラしてはいけない気がして、「ご迷惑をおかけしてすみません」と親らしく頭をさげた。
スーパーのお菓子コーナーに寄った。
元気をだしてほしかったのだが、ン〜ン〜と唸っている。どれにしようか悩んでるというより、どうしたらいいか分からないようだった。いつもなら、ひょいひょいっと3つくらい入れてくるので、１個だよー！1個にしてー！というのが、お決まりのやりとりなのに。
心配になって、イチゴのペロペロチョコと、アンパンマングミを子ども用のカゴに投げ入れると、「えぇっ！？（2こだよ？）」とタラの顔がすこし明るくなった。「いいの。今日は特別だよ。」私がさらにマシュマロとフエラムネをカゴに入れると、タラは「きええええぇー‼とくべつー!!」と叫び、顔をプルプルさせた。周りを見渡してすみませんと謝りつつも、内心とても嬉しかった。
デザートコーナーを通りがかると、「いいこと思いついた！バァバのお誕生日をお祝いしたら良いんじゃな〜い！」と、タラがイチゴのケーキを指差す。バァバは7月産まれ…と言いかけたが、せっかく戻ってきたお調子者をつかまえておきたくて、また2割引シールに背中をおされて、2ピース入のいちごケーキもカゴに入れた。
良い感じ。よしよし。このまま帰ろう。
そう思っていたが、
甘くはなかった。
「あら〜可愛いあかちゃん、何ヶ月？？」
太ももまるだしのアカに、老夫婦が食いついてしまった。ひぃー！アカをチヤホヤしないでー！せっかくタラの機嫌がもどってきたのにー！
とは言えず、アカはチヤホヤされてしまい、タラは黙ってそれをみていた。
「赤ちゃんばかり可愛いがると、見てごらんよ、お兄ちゃんがヤキモチやいちゃうだろう。ねえお兄ちゃん、ママのお手伝いがんばってね。」
余計なことを言いながら、老夫婦は去っていった。
すると、急にカゴが軽くなった。カゴの下をのぞくと、タラがぐっと押し上げ「お手伝いする」と、スライム顔で言ってきた。わたしの顔色をうかがっているようにも見えた。気にしなくていいのに。ごめんねと言いたかったが、ありがとうね、と笑っておいた。
夕食はタラの好きなマグロのお刺身にしたが、3口たべて「いらない、抱っこ」というので、「分かった。待ってて。今からいいの持ってくるからね。なんだとおもう？」と、繋ぎとめながら、ケーキの支度をした。
今日は600km離れたバァバの1ヶ月先の誕生祝い。いろいろ遠いが、良いだろう。コンロでロウソクに火をつけ、2割引ケーキにさすと、なんということでしょう、見ているだけで幸せになる、誕生日ケーキの完成！
「うわぁーー！すごーーい！」手をたたいて喜ぶタラ。そんなに？マグロにもロウソクたてたら良かったか。
600km先には届かないが（なんなら祝われていることさえも知らないが）誕生日の歌を歌った。
「ハッピバーちぇートゥーうー♪
ハッピバーちぇートゥーうー♪
ハッピバーちぇーぃあー
トトー♪」
指をそろえてトトに手をむける（バスガイドのように）ん？バァバは？いやバァバの誕生日ではないんだけどさ。
「カカー♪」
わたしもかーい
「タラちゃーん♪」
「アカちゃーん」
家族全員ー
「サキちゃーん♪
親戚も行っちゃうー！
じぃじー♪
ばぁばー♪
やっとバァバ〜
ハッピバーちぇ、アッ！！
ごてんばぁば〜♪（御殿場のバァバ）
うちの母〜。
ハッピバーちぇートゥーゆー♪」
「上手〜！みんなの誕生日なんだね！」
「だってちゃー、ね、誕生日って嬉しくなっちゃうの！」
美味しい〜！と震えながらケーキを食べるタラ。よかったよかった。
「カカ、あのね、大きいくるまかってあげるからね、ないしょだよっ（小声）」
「ふふふ、内緒だね！ありがとう！」
「トト、トートー！トトにも大きいくるまかってあげるからね、ないしょだからねっ（小声）」
「ん、内緒ね^^」
（だれに？）
