6月下旬に、国が生活保護費を引き下げたのは生存権を保障
する憲法に違反するとして、東京都内の受給者など32人が
都内12区6市に対する減額処分の取り消しと国への慰謝料を
求めた訴訟の判決で、東京地裁(清水知恵子裁判長)は、生活
保護法に違反するとして処分を取り消しました。引き下げの判断
の過程に過誤や欠落があり、裁量権の逸脱または乱用だと認定
しました。同様の訴訟は、29都道府県で起こされていて、11件目
の判決で、取り消しは大阪地裁、熊本地裁に続き3例目になり、
生活保護のあり方を問う司法判断が相次いでいます。違憲性に
ついては判断せず、国への請求は棄却しました。厚生労働省は
5年に1度、生活保護基準額の水準について、制度を利用して
いない低所得世帯の消費実態と均衡しているかを検証します。
2013年8月からの3年間で基準額を平均6.5%引き下げ、計約
670億円を削減しました。①生活保護基準額の水準と消費実態
の乖離の解消(ゆがみ是正)②物価動向を踏まえた減額(デフレ
調整)に基づいていました。清水裁判長は、デフレ調整は、
専門家会議の審議を経ていず、「必要性や相当性について、
客観的な数値との合理的関連をを検討する必要がある」と指摘
しました。その上で、物価は全体としては下落したものの、低所得
世帯にとって重要な食料費や光熱水費はむしろ上昇し「生活保護
基準額の水準との均衡が崩れたとは認めがたい」としました。
また、物価下落率の起点を2008年としたことにも合理的根拠は
ないと判断し、「厚労相の判断の過程に過誤、欠落がある」としま
した。この判断を全面的に支持したいと思います。2013年は、
私たちが民主党政権を担っていた2012年までの翌年です。
自公政権に戻り、安倍政権が(自己責任論などを強く主張し)、
生活保護費引き下げを行ったことの是非が問われました。厚労省
が、指摘されているような合理的理由ではなく無理やり引き下げた
のは、自民党の選挙公約と世論があった、と指摘されています。
安倍氏のもとで自民党は、2012年12月の総選挙で「生活保護
給付水準の10%引き下げ」を公約に掲げ、政権に復帰しました。
当時は、有名タレントの親が生活保護を受けていたというバッシン
グなどがあり、不正受給に非難が集まっていました。しかし、不正
受給は、全体の0.4%(金額ベース)前後にとどまっています。
日本は、もともと必要な人も受けられていない、生活保護の認定
が厳しいことでも知られています。その上、安倍政権が世論を
利用し、憲法が保障する「最低限度の生活を営む権利」を
ないがしろにしたことは、大きな問題だと考えます。