米連邦最高裁は、24日、人口妊娠中絶を憲法上の権利と認めた
半世紀前の判決を覆す判断を示しました。「中絶の権利は憲法に
明記されていない」とし、是非を各州議会に委ねる考えを表明
しました。全米50州のうち保守派が優勢な約半数の州で厳しく
制限される可能性があります。バイデン大統領(民主党)は、
演説で「悲劇的な間違い」で「女性の体と命が危険にさらされて
いる」と懸念を示した、と報じられています。訴訟では、妊娠15週
より後の中絶を原則禁じるミシシッピ州法の合憲性を認めました。
最高裁判事8人のうち保守派5人が判断に賛成し、リベラル派
3人は反対を表明しました。トランプ前大統領(共和党)が保守派
3人を送り込み、保守化が進みました。最高裁判事は終身制
なので、しばらくは保守的判決が出ると思われます。1973年の
中絶を憲法が保障する権利を認めた判決後、望まぬ妊娠を理由
に進学や仕事をあきらめる女性は減ったとされています。今回の
判断で、女性の社会での活躍が妨げられる可能性があります。
「中絶の選択は人権」と、米各地で抗議デモが起きています。
「女性に出産を強要するな」「女性に対する攻撃だ」「銃は規制
せず、女性の体を規制するのか」などの声が上がっている、という
ことです。中絶の権利は、1994年にエジプトのカイロで開かれた
「国連人口開発会議」(私はNHKで取材に行っていた)でも、リプロ
ダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康/権利)について
合意し、大きく打ち出してきたものです。何人子どもを持つか
持たないか、どの間隔で持つかは、産む女性そしてカップルの
意思による、というものです。米では、プロチョイス(生命選択)か
プロライフ(生命尊重)かで、民主党と共和党が争っている長い
歴史があります。これを政争の具にするのではなく、分断がさらに
進まないようにすることを大事にしてもらいたい。中絶が認められ
ないと、貧困の連鎖が起きたり、レイプされても産まなければ
ならなかったり、何より女性の人権が脅かされるなどの問題が
起きると思われます。中絶ができる州に移動できる人だけ中絶の
権利がある、というのもおかしなことです。