欧州連合(EU)からの離脱の期日が10月末に迫っている英国で、ジョンソン首相
の強引な政治手法が、混迷に拍車をかけ、異常な事態になっています。「合意なき
離脱」も辞さないジョンソン首相は、8月下旬に、9月9日の週から1ヵ月の議会
閉会を決めました。与野党の反対派に審議の時間を与えない戦術、といわれて
います。これに対して、議員たちが「クーデター」だと強く反発し、市民の抗議活動
も広がったのは、当然のことだと思います。議会制度が生まれた英国とは思え
ない状態です。夏休み明けの9月3日に再開した議会で、反対派が反転攻勢に
出て、下院に離脱延期法案の審議を求める動議を提出しました。この離脱を10月
末から3ヵ月先送りする法案が、英下院で4日に、超党派の賛成によって可決
されました。与党・保守党からも21人が造反して賛成しました。この法案は、議会
.がEUとの合意案を承認せず、「合意なき離脱」にも賛成しない場合、3ヵ月の離脱
延期をEUに要請するよう.政権に義務付けるものです。そして、この超党派の法案
は、6日、英議会上院でも可決されました。これで、法案は9日にエリザベス女王
の裁可を受けたうえで、正式に法律として成立する見通しです。ジョンソン首相は、
10月の解散総選挙を提案しましたが、野党の反発で否決されました。離脱延期
法案を用いて、「合意なき離脱」の芽を摘むことを優先する労働党が棄権した
ほか、ほかの野党も反対し、総選挙の実施に必要な全議席の3分の2(434)以上
の賛成を得られなかったからです。政権は、議会の解散もできず、不安定な立場
で離脱交渉を進めることになる、といわれています。EU離脱を巡る最大の焦点
は、英領北アイルランドとEU加盟国アイルランドとの国境管理で、メイ前政権は、
国境検査を復活させないよう、自由な往来を維持しながら税関検査を行う方策が
見つかるまで英国がEU規則に従い続ける、という条項で、EUと合意していました。
これを問題視した離脱派は、合意案を繰り返し否決し、メイ氏は辞任しました。
ジョンソン氏は、EUに条項の削除を求めていますが、国境管理の現実的な対案は
示していません。最悪の事態である「合意なき離脱」が現実のものとなれば、英国
の国民生活に大きな影響がありますし、国際的にも影響は計り知れません。
それなのに、ジョンソン氏は、強気な態度を示すだけで、国内、国外ともに、対話
には後ろ向きです。このままでは、混迷が深まるばかりですから、対話による解決
を探るしなかいと思いますが。