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名古屋・NPOセンターの新情報誌『交流感電池』の編集長、柴田太陽さんに聞く

小宮朗 2008/10/27
 なごやボランティアNPOセンターの新しい情報誌『交流感電池』の編集長、柴田太陽さんにインタビューした。市民記者養成講座の狙いは、講座で育った市民記者の方に、身近な話題などを投稿してもらうことで、『交流乾電池』を本当の意味で「利用者との協同」が実現できる情報誌にしたい、とのことだ。


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「交流感電池」の編集長、柴田太陽さん。(写真提供:市民記者養成講座)
 前回の記事、型破りの親しみ易さで注目の名古屋・NPOセンター新情報誌『交流感電池 』で紹介した、なごやボランティアNPOセンターの新しい情報誌『交流感電池』の編集長、柴田太陽さんへのインタビューです。

 なごやボランティアNPOセンターは、今年の4月に指定管理者が変わりました 。指定管理者の民間から民間への交代は、全国的にも珍しいものだったようです。指定管理者変更の理由は、名古屋市が情報公開請求によって公開した『選定委員会議事要旨・評価表 』によると、記事でも報じられたように、経費削減が大きな理由の1つだったようです。

 その後『KY解雇事件』といわれる不当解雇事件 が発生して、『安かろう、悪かろう』なのでしょうか、やはりワーカーズコープの管理運営体制には、問題があることが露呈しました。でも、現場の職員達は労組を結成 し、一致団結して不当解雇撤回を勝ち取りました。このように、指定管理者が突然変わってしまってサービスが低下している部分も見受けられるというNPOセンターですが、情報誌はかなり面白いものに仕上がっています。

 今回は、新しい職員のみなさんが奮闘して作っている、斬新な手作りの情報誌『交流乾電池』についてお聞きしました。


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7月号の特集のひとつ。「市民記者養成講座」に参加した、自身でも小冊子を出しているお年寄り「ほっこりーさん(ほっこり庵SMK)」について書かれている。

●どうして新しい情報誌を発刊することになったのですか?

 この4月、指定管理者が交代しました。指定管理者だった「ぼらんぽセンター・コンソーシアム」から、私たちの「NPO法人ワーカーズコープ 」になりました。指定管理者の変更に伴い、以前のコンソーシアムさんの情報誌「ぼらんぽ 」にかわり、新たに「交流感電池」を発刊することになりました。

●名前の意味はなんですか?

 色んなグループが、それぞれの活動分野や目的、地域、規模の大小、年代というものに関わらず、より一層「交流」し「感電」しあって、そのスパークが広がってゆけばいいな、そんなことを考えて名付けました。

●編集しているのはどんな人達?

 私が編集長として編集しています。ですが予算も乏しく、取材と編集はもちろんのこと、印刷や製本まで、全て自分達の手でやらなければならないので、みんなでがんばって、それぞれ分担しながらやっています。

●印刷も自分達でやるんですか?

 はい。なごやボランティアNPOセンターには、単色刷りではありますが印刷機が設置されています。また、紙折機、帳合機(例えばページが違うなど種類の違う紙をひとまとまりの束にする機械、ソーター)もそろっていますので、ちょっとした冊子であれば、手間はかかりますが、格安で作ることができます。どうぞご利用ください。

●何部くらい発行しているの?どこに行けばもらえるの?

 最低でも2000部は発行しています。おかげ様ですぐ「売れて」(注『交流感電池』は無料で発行されています。)しまいますので、最近は増刷をしています。6月号は2500部、7月号は4000部印刷をしました。配布している場所は市内の図書館や生涯学習センターなどを中心に、協力をしてくれる飲み屋さんやカフェ、古本屋、古着屋、ライブハウスなどにも置かせてもらったりしています。主に名古屋市内が中心ですが、NPOセンターのような施設などには、県外にも郵送しています。

●新しい情報誌の狙いは?

 今までの公共施設で発行しているものとは、大きく違うものを出したかったのです。また、NPOやボランティアのことに興味がない人たちにも、読み物として、十分に読んで面白い雑誌のようなものにしたかったのです。この冊子おもしろいね、と評判になっていろいろなひとが読んで、よく見てみたら、NPOセンターの情報誌だった、くらいのものが作りたかった。内容が面白いので、ボランティアやNPOの興味のなかった読者も、いつの間にかボランティアやNPOにも興味をもってしまう……そんなメディアとして広まって欲しいと思っています。

●記事はどうやって決まるの?

 読者の興味がありそうな話題というのを、常に意識しながらやっています。ですが本格的に特集を組んだりするほどの力もないので、NPOセンターの業務の中で知り合った方を中心に、インタビューをしています。職員の中で興味のあることがある人がいたら、それについて少し話を聞きに行ってもらうことが多いです。

●編集時に心掛けていることは?

 「市民活動のすそ野を広げる」ということですね。ボランティアやNPOは外来語です。ほとんど無料で自主的に「いいこと」をやってくれる、というような意味で理解されていると思います。でも、近所の子供を見かけたら声をかけてあげる。町内で清掃活動をやっていたら、参加してみる。このような活動も公益性のある立派な『自主的なボランティア』ですよね。自主的な活動は「ボランティア」とか「NPO」という言葉が広まるずっと前からあったものです。

 「市民活動」という言い方もありますが、友達同士でやっている草野球チームだって、立派な市民活動なんじゃないかと思うのです。しかし残念ながら、「ボランティア」や「NPO」って、ある特定のイメージがついてしまっているような気がするんです。極端なことを言うと、なんか「善良で立派な人」じゃないとできないようなイメージですね。『ボランティアやNPOをしている人たち』が、どこかにいて、その人たちだけの世界みたいな印象もあると思います。『ボランティアやNPO』と『市民運動』が、違うイメージをもって語られることも少なくありません。「交流感電池」のコンセプトは、そういったイメージを変えてみるということです。

 ボランティアもNPOも、どっちも自主的にやるものですから、本来的に楽しいものなはずですし『正しいボラはこうだ』というものでもないはずです。活動紹介ひとつにとっても、ただマジメに紹介するだけでなくて、なんだ、こんなことでもボランティア活動だったのか。結構楽しいじゃないか、なんてノリが広がって行くことに、情報誌の紙面の編集を通じて、どうやったらアプローチできるか、日々試行錯誤しています。

●取材中苦労したことは?

 まずやっぱり、記事を集めてくるのが大変です。職員もみんな素人なので、書き手がいるわけではありません。けっこうな割合で、自分で書くことになります。ですが自分もそんなに詳しいわけではないので、毎号、勉強することがたくさんあります。

 次に、編集作業では、具体的なことを言うと、編集ソフトの問題があります。実は編集作業のほとんどを、マイクロソフトの「word」でやっています。正直、これが相当しんどいです。テキストの改行の問題とか、写真の加工とかが大変です。記事を書き上げても、印刷、紙折をして、最後に製本作業があるのですが、これがかなり大変です。半分に折られたA4の紙を、ひたすら組んでいかなくてはいけない。これを全部手作業でやっています。職員は今9名ですが、なかなか進みません。ボランティアしていただける方、こちらも大募集しております(笑)。

●逆に取材中良かったことは?

 いろいろな「出会い」があることですかね。普段はゆっくり聞けなかったことを話せたりもします。

●交流感電池の反響は?

 「おもしろかったよ」なんて声をかけて下さる方もいて、作って良かったな、と思うこともあります。とくに、公共施設らしくないところが好評なようです。ですが、まだまではないかなと思っています。

●今後の方向性について

 大きな目標としては、「市民に開かれたメディア」を目指したいという思いがあります。読者が記者にもなって、そしてセンターの利用者にもなってゆくような関係が作りたいです。そのような関係が作れて、はじめて「開かれたセンター」になるのではないかと思います。そうした取り組みのひとつとして、当センターで開催している市民記者養成講座があります。その講座の受講生の方が書いた記事を、交流乾電池で公開していく予定で、いろいろと準備を進めています。


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交流感電池の創刊号である5月号の表紙と、7月号の表紙。編集後記は「漏電通信」という名前で、Esamanさんが市民記者養成中と書いている。

 市民記者養成講座は、筆者も参加をしてみたいと思っていたもので、自分で記事を書いてみたい方、市民運動などに関わっていてチラシをうまく書きたい方、リタイヤ後の自分の趣味や思ったことを発表したい方などを対象に開かれており、講師はこのJANJANでも活躍されているEsamanさんです。Esamanさんは、ご自身でも会報を編集しており、またカメラマンでもあるので、講座の内容も、写真の撮り方や、印刷機の使い方、チラシの効果的なデザインなど多方面に渡っており、記事を書く以外のことにも役に立つとのことでした。

 実際に講座に参加した人の話によると、日記を記事にしてしまう方法、松浦武四郎の紀行文やシーザーのガリア戦記などを「記事」と捉えて読んでみるなど、発想がユニークで面白かったそうです。また、自分が取材を受けて新聞に記事が載ったときの話をもとに、出来上がった記事を見ながら、記事と取材の現実の話などもあったそうです。

 編集長の柴田さんによれば、この市民記者養成講座の最終的な狙いは、いずれ『交流乾電池』の紙面の多くを、この講座で育った市民記者の方に、自分の市民活動や、参加したボランティア活動のこと、身近な話題などを投稿してもらうことで、『交流乾電池』を本当の意味で「利用者との協同」が実現できる情報誌にしたい、とのことでした。

 新しい指定管理者になったNPOセンター。いろいろと問題は発生していますが、新しい情報誌と、市民記者養成講座には、新たな可能性がありそうです。今後、どのような発展になってゆくのかに、大きな期待をよせたいと思います。

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