値段 | 富士の裾野で想うVet

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地方獣医の徒然記

動物病院には、保健制度がない。

つまりは、人の自由診療にあたる。

だから、各病院によって値段が違う。


各病院の値段設定の違いと言う事で、

済ませられない要素を持つものもある。


それは、手術に関しての値段。


動物病院で最も多い手術と言えば、猫の避妊去勢。

犬のそれに比べても多い。


電話で、猫の避妊去勢の値段を訊ねられる事がある。

手術に当たって、準備の問題もあるから、

費用を聞きたいと言う方がほとんどだと思う。


中には、安い病院で行おうと思って

電話する方もいるようだ。


猫の避妊去勢手術費用は、各病院で異なる。

ここで考えてもらいたいのは、

猫の避妊去勢手術と言っても、内容には違いがある、

高いには高いなりの理由があると言う事。


1.術前検査の有無


 飼主さんは健康だと思って避妊去勢手術を依頼する。

 視診触診などで健康状態を確認するのは当然であるが、

 血液検査をして、貧血や血小板減少がないかを確認する。


 20年前では、避妊去勢の前に

 血液検査をする病院はなかった、とは言わないが、

 少なかっただろう。

 自分が代診の病院でも、行っていなかった。


 今でも検査をしない病院はある。

 検査をするのが当たり前とは言わないが、

 術中に異常を起こさないか、

 術後の回復に問題は起こさないか、の指標になる。


2.術前疼痛管理


 今は、術後の疼痛管理より、

 術前に疼痛管理をするという病院が増えた。


 術後、あまり動かない、食事をしない、と言う子はいる。

 やはり、術後は程度の差はあれ、痛みは出る。

 以前は、術後も変化なく、普通の生活をしている子もいるから、

 術後に食事をしない子には、 鎮痛消炎剤を処方したりしていた。


 数年前、術前疼痛管理をした方が、

 治癒の成績が良いという報告がなされた。

 その後、術前疼痛管理をする方向でいく病院が増えた。

 

 過剰診療との境界にいるのではないかと言う発言もあり、

 術前疼痛管理をしない事が、一概に悪いと言う事ではない。

 難しい所だ。


3.使用麻酔の種類


 ほとんどの病院では、手術は吸入麻酔下で行われる。

 昔は、注射麻酔だけで管理していた病院もあった。

 今でもあるかもしれないが、少ないだろう。


 吸入麻酔と言っても、

 ハロセンを使っているのか、

 イソフルランを使っているのか、

 セボフルランを使っているのか、で費用は違う。


 麻酔薬の変遷は、

 いかに安全に手術が出来るか、の追求の歴史でもある。


 より安全に、動物への負担が少なく、手術が出来るか。

 薬が違えば、使用する気化器も違う。

 安全に手術をしようとすれば、費用は掛るのである。


4.使用器具の違い


 レーザーメスを使う病院も増えてきた。

 切開と共に止血も出来るから、

 出血による体力の消耗が最小限になる。


 血管シール装置の使用も増えた。

 これも出血防止に役立つ。

 

 出血を抑えて手術をする事は、

 動物にとっても負担軽減になるが、

 獣医にとっても、安心が得られる。


 縫合糸も単純ではない。

 非吸収糸では、縫合糸反応性肉芽腫の可能性もある。

 吸収糸も、吸収されるまでの時間は色々。

 何を、どこに使うか、考えは各病院で異なる。

 

 使用器具も、高い安いはある。

 高い器具は、持ちやすい・縛りやすい、とか、

 安物とは違いはあるのだ。


5.その他


 滅菌はしっかりとされているか。


 麻酔スタッフがオペに立ち会っているか。 

 麻酔中、バイタルサインの確認をするスタッフがいるか。


などなど、猫の避妊去勢と言う手術でも、

これだけの費用の違いを生む要素はある。


その動物病院が、手術を行うに当たって、

何に気を付けているか、

どのようにアプローチしているか、

体制は十分か。


こういう事を気にする方が、

値段の高低より動物にとっては必要だと思う。