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まずは直近の相場を振り返ろう。はたして、先週金曜日の5月28日に「日経平均株価の600円高」を誰が予測できただろうか。600円高の結果、25日移動平均が位置する2万8650円、上値抵抗ゾーンの上限と位置づけられていた2万8800円前後も一気に抜け、売りと買いの攻防ラインは2万9000円前後に上がった。

■5月11~13日の下げは「間違っていた」

 この予想外の上げの理由はいくつかあるが、なんといっても5月10日の週(10~14日)の下げがそもそも「間違っていた」ということだ。

 同月10日のアメリカのナスダック市場が急落で350ポイント安となり、翌11日の日経平均は日中983円安まで下げ、終値でも909円(約3.1%)安で終了。続いて12日も461円安、13日699円安と、3日で約2069円安となった。

 しかし、ナスダック急落の理由とされたアメリカのインフレ懸念の高まりは、世界の金融政策が「1ミリも変わっていない」ことで、整合性に欠けていた。

 筆者がつねに注意している指標の1つに、日本における需給(流動性)相場の象徴であるマネーストックM3の数字がある。その4月の数字は、前月比18.6兆円増の1508.2兆円(平残)と過去最高の残高だった。いわゆる「お金の流れ」もまったく変わっていなかった。

 投資家の行動をフリーズさせていたといわれる企業の1~3月期決算を見ると、結果的には日経平均予想EPS(1株当たり利益)が昨年の大納会時の2倍近くにまで水準を上げた。にもかかわらず、「ソフトバンクグループ1社の巨額利益でかさ上げされている」=「異常数値論」を理由に、無視された。

 また、日本銀行がマーケットのメインプレーヤーから撤退したことによって、売り仕掛けがしやすくなった。その結果、変動率の高い相場の要素が高まったが、筆者が以前指摘したような「日本株独り立ちへの極めて大きな材料」と肯定的に取る向きも少なかった。このように、枯れきった相場が作り出されていたのだ。

 

 そしてそんな中で相場に火をつけたのが、5月27日の引け値だった。この日も2万8500円の攻防戦だったが、引けは2万8549円と前日比93円安ながら、この日の高値圏だった。警戒されていたこの日の引け(世界的に影響力のあるMSCI指数を構成する銘柄の定期入れ替えがあり29銘柄除外)を無事通過したことは極めて大きかった。

 除外となった29銘柄の最近の値動きを見ると、ほとんどの銘柄が3月高値のあと大きく下げ、4月後半から5月半ばで底を打っている。つまり、MSCI指数29銘柄除外の材料はすでに織り込まれており、しかもリバランスが行われた27日の引け値が下がらなかったことで、完全にアク抜けとなったのである。

 

■チャートにも現れていた「明確なシグナル」

 さらに大きな反転理由として上がるのが、新型コロナウイルスのワクチン接種の進展期待だ。緊急事態宣言(9都道府県)と、まん延防止等重点措置(5県)の期限終了が6月20日までの延長方針で固まった日の日経平均600円高の意義は大きい。

 実は市場では、5月26日に出たオリエンタルランドとその大株主である京成電鉄の大陽線(寄り値より引け値が大きく上がっているローソク足チャートの形)がすでに話題になっていた。

 底値またはモミ合い圏で出た大陽線は、チャート上における反転上昇の「鉄板的なサイン」だ。新型コロナウイルス感染拡大が収まらない中で始まったワクチン接種について、マスコミ報道に逆らうような大陽線は、ワクチン効果を評価しているマーケットのシグナルといえる。

 またチャートでは、別の「上昇開始シグナル」も出ている。5月27日の日経平均チャートをもう一度見てみよう。十字線(寄り引け同値)のように見えるが、わずかだが陽線(引け値>寄り値)になっている。

 実はこれで「8連続の陽線」(28日の600円高で9連続)で「8陽連」となった。この意味でも27日の引けは重要だったわけだが、チャートの見方では「5陽連」で「上層相場スタート?」となり、「8陽連」でいよいよ「スタート決定!」とみなすという、これもチャートの鉄板的見方だ。

 さて、3月期本決算企業の発表が終わった。全産業の純利益は2年前である2019年3月期の「8割水準」まで回復した。だが、コロナ禍の影響で赤字会社も多く、とくに交通系の数字は惨憺たるものだった。何しろ鉄道・バスは1兆4893億円、空運は7013億円の赤字である。

 しかし、日本航空やANAホールディングスのチャートを見ればわかるとおり、すでに底を打っており、ANAHDにおいてははっきりとした上昇波動が見て取れる。

■変化は時に突然やって来る

 個人的なことで恐縮だが、筆者は本業の1つであるテレビのコメンテーターとして、複数の曜日に出演している。その中では金曜日が一番大変だ。というのも、番組の性格上、前場・後場のまとめで「4つのテーマ」を作らなければならないからだ。

 そこで、木曜日の出演が終わったあと、金曜日のテーマのネタ作りに取りかかる。主に「兜町雀」たちとの雑談なのだが、ネタと共に彼らから元気をもらう。

 もっとも、彼らに言わせると、筆者から元気をもらうとも言ってくれるのだが……。したがって、いつも最後は戦友のように「お互いがんばろう」で電話は終わる。

 ところが、先日の5月27日だけはいつもと雰囲気が違っていた。彼らが決して弱気になったわけではないが、元気をもらうどころではなかった。筆者は強気だったのだが、誰ひとり「ここは買い場」という意見はなく、若干寂しい気持ちで受話器を置いた。ここ数年で味わったことのない孤独感だった。

 

 「野も山も皆一面に弱気なら阿呆になって相場を買うべし」という有名な相場格言があるのをご存じだろうか。彼らが弱気になったわけではないが、強気派だった彼らが「しばらくダメだね」と結論づけた翌日28日の急騰を見て、感じるところがあった。何度も経験したことだが、変化はそんなときにこそ起きるものだ。

 ただし、ここで一気の強気も禁物だ。わずか2週間前は「2万8000円の攻防」だったではないか。とりあえずここは「2万9000円のモミ合い」で十分と考えよう。大きな相場はまだまだ先なのだから。

 

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

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