ブログになれないので、いきなり、記事のほうからアップしてしまいました。


普段はM&Aに関する仕事をしている弁護士をやっています。この仕事をしていると、公表された部分の水面下でいろいろと悩んだり、工夫をしてみたり、あるいは、安全策をとるためにもう一ステップを加えてみたりといろいろします。これらの苦悩の結晶は、公表部分には出てこなかったり、本当にさりげなくでていたりします。これらに携わる弁護士としては、これらの工夫はむしろ目立たいようにすることこそ「玄人仕事」と感じることもあります。。なんか暗いですが、こんな感じです。それなので、目立たないようにできればできるほど、いい仕事をしたなあ等と思います。実際には、目立たないほうが、世間の注目をあびずにすみ、余計な問題が穿り返されることがないだろうという計算もあると思います。


上記の私の考えにも影響しているのかもしれませんが、仕事をしているときにもよく気付くのですが、「デキる」弁護士ほど、提案するストラクチャーは、少なくとも法務面のみを考慮したストラクチャーに関しては、おどろくほどシンプルです(あるいはシンプルにしようとします)。おそらくシンプルであることが、最も実務的・効果的・実効的であることを経験で知っているんでしょうね。提案するストラクチャーが複雑である場合は、大体途中の検討でそぎ落とされて結局シンプルな形に落ち着くような気がします。


仕事の中で、先例として、すでに公表事例のM&A取引を検討することも多いのですが、やはりそういった検討をしていると、公表事例の水面下にいろいろと創意工夫がないのかと考えてしまいます。そこで、このブログでは、M&Aの公表事例を勝手に分析してみて、これらの水面下の創意工夫等が探せないか検討してみたいと思います。法務面が中心ですが、余裕があれば会計や税務面もみてみたいと思います。


なお、あくまで、公表事例のみからの推測にすぎず、あるいは、すでに実施された取引のストラクチャー等を批判することを目的とするものではありません。こうだったらどうか、こうしたほうがよかったのではないか等等をつらつら書いてみたいと思います。1ヶ月に公表事例1件ほどのペースですすめられればなあと思っています。


こういったものは、いろいろな方の英知を集めたほうがよりよい/充実した内容になると思うので、見ていて、こういった考えもあるとか、私の気付かなかった点を指摘していただいたり、あるいは、私の考え方について間違っているのではないか等等指摘してもらえるとうれしいです。それではよろしくです。





金融商品取引法(当時証券取引法)の改正で、導入された新たなTOB規制(通称「急速買付け規制」。金商法27条の21項第4号・第6号)が、その難解さゆえにいろいろ物議をよんでいます。その中でも、急速買付け規制が、過半数を取得した後の買付けにも適用されるのかについてはいろいろな見解がでています。この点に関して、最近、どうも誤った理解に基づくのではないかなあと思われる論文を目にしますので、つらつらと考えたことについて書いてみたいと思います。

ことの発端は、急速買付け規制について、立法担当者の方がその解説で面白ことを言ったことに始まります。ご存知の方も多いと思いますが、今般の改正で、株券等所有割合が過半数を超えている場合のTOB適用除外につき、その適用範囲を「株券等所有割合が3分の2未満までの場合に限る」と変更したことについての解説に関連して、この立法担当者は、「したがって、株券等所有割合が100分の50以上、3分の2未満である者がその株券等を取得する場合についても、市場内外等の取引を組み合わせた急速な買付け等については公開買付けによるべきことになる(すなわち法27条の21項第4号はこのような買付け等に対しても適用となる)。」(商事法務17865頁)と述べました。解説自体はこれのみで終わっているので、これがどういう意味なのかが、実務家等の間で喧々諤々の議論をよびました。文言解釈等の細かい部分を除くと、ここの議論は、結局以下の2つのケースへの適用の有無に集約されると思われます。

  • (ケース1)ATの株につき51%を保有している状態で、3ヶ月以内に、10%を市場内買付けで取得し、6%を市場外の相対取引で取得した場合(結果として67%(>3分の2)を保有)
  • (ケース2)ATの株につき51%を保有している状態で、3ヶ月以内に、5%を市場内買付けで取得し、6%を市場外の相対取引で取得した場合(結果として62%(<3分の2)を保有)

(ケース1)(ケース2)共に急速買付け規制で許されないとするか、あるいは、3分の2超を保有することになる(ケース1)のみが許されず(ケース2)に関しては急速買付け規制に抵触しないとするかです。この点について、当初はあいまいな解説をした論文が多かったのですが、商事法務1842号で、実務家の執筆した論文で、明確に(ケース1)のみならず(ケース2)に関しても急速買付け規制に抵触する、との見解が示されました(この結論に賛成というよりは条文の読み方上そうならざるを得ないという内容でその結論については否定的な立場でした)。

しかし、私のみるところ、上記の商事法務1842号で示された解釈論は誤っているのではないかなあと思います。つまり、上記立法担当者の解説の趣旨も、(ケース1)のみが急速買付け規制に抵触するとするものであり、(ケース2)まで対象になるとは考えていなかったように思います。そして、条文上も(ケース1)のみが急速買付け規制に抵触すると読めると思います。これを具体的に見ていこうと思います。

まず、急速買付け規制の要件を条文に即してみて見ます(やはり、「条文に戻れ」ですね)。法は、急速買付け規制適用の要件として以下をあげています(ちなみに、この条文はややこしくて嫌いです。法律的文章の権化のような条文です):

①3ヶ月以内に、

②10%超の取得をし、

5%を超える株券等の買付け等を市場外買付け(ToSTNETを含むが、TOBは除く)により行っており、

④当該株券等の取得の後、その株券等所有割合が3分の1を超えること

⑤となるような「当該株券等の買付け等」についてはTOBでなけれればならない。


ここでの第一のミソは、条文上、③の5%超要件の「株券等の買付け等」につき、市場外取引であること以外には、一切の制限を設けていないことです。これはどういうことかというと、たとえば、法27条の21項但書で、市場外買付けであってもTOB規制の対象から除外している「適用除外買付け等」(同条但書又は施行令6条の21項各号に列挙されている「買付け等」)を規定しているのですが、この「適用除外買付け等」についてもカウントされてしまうという点です。例えば、「適用除外買付け等」の一つである担保実行で、40%の株を(市場外で)「買付け」る場合には、担保実行による買付けも③におけるカウント対象であるため、③をみたすことになります(勿論①②④についても充たします)。これは、結構見落としがちな読み方であり、なるほどなーと思いつつ、金商法の条文の読み方の怖さ(先入観をもって読んではいけない。あくまで条文の語句に忠実に。)を再認識するわけです。ただ、だからといって、40%の担保実行が急速買付け規制に抵触し許されないわけではありません(もしそうなら施行令6条の21項第8号は矛盾した規定になってしまいます)。それでは、どこの条文で「抜ける」のかというと、上記の⑤と思われます。

⑤の要件が第二のミソです。⑤の要件は③とはまったく別に検討する必要があります。⑤の要件は条文上もさりげなく書いてありますが、今後実務上は非常に重視される要件と思われます。すなわち、条文上、急速買付け規制は、法27条の21項本文から読み下せば「(①-④を満たす)ときにおける当該株券等の買付け等」「は公開買付けによらなければならない。」としつつ、続けて「ただし、(施行令6条の2に列挙されている等の適用除外買付け等)はこの限りでない」としています。つまり、急速買付け規制の適用があるには、①-④を満たすと同時に、⑤の要件として、(イ)「買付け等」があり、そして、(ロ)その「買付け等」が「適用除外買付け等」に該当しないものであることが必要になります。多くの論文では、③の5%のカウントに適用除外買付け等を含めてしまう点をもって急速買付け規制の適用が広すぎる旨の指摘をしますが、私の見方では、急速買付け規制では、③の要件よりも、むしろこの⑤の要件がその適用範囲を相当な程度に限定する機能を有しているのであり、この⑤の要件を慎重に検討すれば結局妥当な結論を導けるのではないかと考えています。この⑤の要件は、結構有名であり、例えば、新株発行による第三者割当で40%を取得する場合には、(イ)の要件を満たさないため(新株発行は「買付け等」に該当しない)、急速買付け規制の対象にならないということが多くの論文で指摘されています。40%担保実行買付けでは、「買付け等」は存在するのですが、全て「適用除外買付け等」であり(ロ)の要件を満たさないため、急速買付け規制に抵触しないことになります。

第三のミソは、やはり、⑤の要件に関するものであり、そしてこれがさらに急速買付け規制を難解にしている張本人と思われます。すなわち、⑤の要件である「買付け等」は市場外買付けのみならず、従来TOB規制の対象外にあった市場内買付けも含むということです。条文上⑤の要件である「買付け等」につき市場内買付けを除外している文言はありません。中には「いやいや、市場内買付けはTOB規制の適用外だよ。常に「適用除外買付け等」に該当するはずで、よって常に上記の(ロ)の要件を欠くはずだ」と考えられる方もいるかと思いますが、やはり金商法の条文は怖いです。法27条のその他関連条文を読んでも、「市場内買付け」を「適用除外買付け等」に該当するとする規定はありません(施行令6条の2第1項各号に市場内買付けは列挙されていません)。市場内買付けは、“法27条の2の条文構造上(=TOB規制の対象を市場外買付けに限定していること)”、原則TOB規制の対象になりませんが、当然に「適用除外買付け等」には該当しません。したがって、例えば、40%の担保実行をすると同時に1株を東証の市場内で買付ける場合、①―④の要件をみたすと同時に、⑤の要件に関しても、40%担保実行自体は(ロ)に欠けるため要件を満たしませんが、1株の市場内買付けの部分は(イ)(ロ)の要件をともにみたし、結果として⑤の要件をみたすため、急速買付け規制に抵触することになります。この結果も、従来の考え方からするとかなり愕然とさせるもので、大きな違和感を覚える部分です。

それでは、上記の(ケース2)の場合はどのようになるのでしょうか。「ATの株につき51%を保有している状態で、3ヶ月以内に、5%を市場内買付けで取得し、6%を市場外の相対取引で取得した場合」なので、①3ヶ月以内に、②10%超の取得(5%+6%=11%)をし、③市場外取引で5%超を買い付け(6%の相対取引)ており、④その株券等所有割合は62%になっており、①-④の要件を満たします。問題は⑤です。⑤の2つの要素のうち、(イ)については、(ケース2)では、「5%の市場内買付け」と「6%の市場外相対取引」があります。次に、(ロ)の要件です。まず、「6%の市場外相対取引」ですが、これは、施行令6条の21項第4号の要件に該当します(株券等所有割合も3分の2未満なので同号括弧書に該当しません)。よって、「適用除外買付け等」に該当するため(ロ)の要件を満たしません。次に、「5%の市場内買付け」ですが、上記も述べたとおり、市場内買付け一般が当然に「適用除外買付け等」に該当するとはされていないため、適用できる条文を探すことになります。そうしますと、「6%の市場外相対取引」と同じく施行令6条の21項第4号に目が行きます。結局同じ状況なので、同号の要件はそのまま妥当するからです。ただ、問題は、同号の適用対象は「特定買付け等」であるということです。従来の考え方ですと、「特定買付け等」は、市場外買付けを念頭に置いたものという意識があるので、「市場内買付けはその定義に含まれていないのでなかったかなあ」と危惧しながら、定義(施行令6条の23項)を見てみるわけです。そうすると、実は条文の文言上「特定買付け等」とは市場内買付けも含む(というか除外していない)ということがわかります。「特定買付け等」=著しく少数の者から「買付け等」を行うものとしており、ここでの「買付け等」は市場外買付けに限定したものではなく市場内買付けも包含した概念ですし、そのほか定義内の各文言を見ても(市場内買付けの相手方は「10名」のカウントからは除外されていますが)市場内買付けを「特定買付け等」から除外するような文言はないからです。したがって、かかる「5%の市場内買付け」も「特定買付け等」として施行令6条の21項第4号により「適用除外買付け等」に該当するということがわかります(これは結構以外な感じです)。以上より、「5%の市場内買付け」と「6%の市場外相対取引」共に施行令6条の21項第4号の「適用除外買付け等」に該当する結果(ロ)の要件に欠け、⑤の要件を満たさないことになります。

なお、上記で「5%の市場内買付け」が「適用除外買付け等」に該当するといいましたが、これは例えば、すでに過半数を取得している場合に追加的に対象会社株式を市場内で買い集める場合に、当該買い集め行為がTOB規制の対象にならないというために、施行令6条の21項第4号に依拠しなければいけないことを言うものでありません(もし、そうだとすすると、その株券等所有割合が3分の2以上となる場合には市場内買付けが許されないことになってしまいます)。この場合には、施行令6条の21項第4号を適用するまでもなく、当該市場内買付けは法27条の21項各号のどれにも該当しないため、TOB規制に抵触しないまでです。このように、市場内買付けにつき普段は適用意識しない(する必要のない)施行令6条の21項第4号を、急速買付け規制の適用の際には適用することになる点が大きなミソと思います。

一方、(ケース1)を見ますと、「ATの株につき51%を保有している状態で、3ヶ月以内に、10%を市場内買付けで取得し、6%を市場外の相対取引で取得した場合」なので、(ケース2)同様、①-④の要件を満たします。次に、問題の⑤の要件ですが、「6%の市場外相対取引」又は「5%市場内買付け」は、過半数取得後の特定買付け(施行令6条の21項第4号参照)に形式的に該当するものの、どちらか後に実行されたほうは、その実行後に株券等所有割合が3分の2以上となるために、施行令6条の21項第4号に括弧書により「適用除外買付け等」から除外され(ロ)の要件をみたすことになります。そこで、⑤の要件も充足されるため、(ケース1)では急速買付け規制の適用を受けることになります。なお、この場合は急速買付け規制の適用の特色上、その3分の2を超える部分の買付けのみが問題となりその部分をTOBで行えばよいということではなく、一連の取引を全体としてみて適用するため、それ以前の買付けをTOBで実施しなければいけなかったとして実質的に3ヶ月間の取得を一切禁止することになると思います。立法担当者の商事法務1786号での指摘は、この(ケース1)のことを言っていると考えられます。すなわち、すでに過半数を支配している場合、通常は(ケース2)のように施行令6条の21項第4号の規定により市場内/市場外買付け共に急速買付け規制を含めTOB規制の対象にならないが、その株券等所有割合が3分の2以上になるときには、施行令6条の21項第4号の適用がなくなるため、急速買付け規制の対象になりうるということであると思います。

それでは、何故、商事法務1842号等では、(ケース2)の場合にも、急速買付け規制の適用があるとしたのでしょうか。おそらく、⑤の要件を検討する際に、過半数をすでに取得した状態での市場内買付けが、条文上「特定買付け等」に該当し施行令6条の21項第4号の適用を受けて「適用除外買付け等」に該当するということ(従来のTOB規制を前提にした条文操作では念頭においていないもの)を見落としていたのでないかなあと想像します。金商法の適用にあたっては、上で見たように、TOB規制の趣旨等からの先入観を捨てて、愚直にこつこつと各条文を適用していくことが重要と思う次第です


それにしても、急速買付け規制は、条文自体が非常に難解なだけでなく、その関連する条文操作も見落としがちなものになっており、非常に不親切な条文と思います。法律は、一読しただけではわからない悪文といわれていますが、まさにその典型例ですね。一方で、(当局の裁量なく自動的に一定額の課徴金が課される)課徴あ金制度が導入されたことで、TOB規制に関するリスクは金銭による現実的なリスクとなっておりM&Aも怖い時代になりました。。。